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君と対面するまでの日々

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授かった命に対面するまでの日々に、考えたこと・感じたこと。不妊治療や出生前診断――いろいろあった分、いろいろ考えられたよ。
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記事一覧

案ずるより産むが易しと言うけれど【出産レポ】

案ずるより産むが易しと言うけれど【出産レポ】

2020年11月10日。
約束の日が来てしまった。

妊娠41週2日。自然に陣痛が来るのを待ち続けていたけれど、もどかしいほど平穏に1週間は流れて指示された誘発入院の日がやってきた。

予約しておいたタクシーに、スーツケースと大きめのバッグ2つを持って乗り込む。入院中に荷物を持ってきてもらわなくていいように、すべて多めに詰め込んだ。

朝の道路は混んでいて、到着まで小1時間かかった。陣痛や破水で病

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母になった瞬間のこと

母になった瞬間のこと

ぷつん、とはりつめた空気がゆるんだ気がした。
強力なバキュームにおなかを絞られているような抗えない収縮と、股に大きなものが挟まっている強烈な違和感。それらが急になくなって、取り囲む助産師さんたちの空気感がふっとやわらかくなった。

わたしのお腹の中から出てきた彼は、泣いていた。
その声は想像よりもずっと力強かった。
彼から伸びるヘソの緒が、彼の動きに合わせてわたしのお腹の内側をひっぱるのを感じた。

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出産入院前日のつれづれ

出産入院前日のつれづれ

予定日を過ぎること8日目。
たまに懐かしい生理痛のような痛みを感じることはあるものの、それほど強くならないまま今日も夜がやってきた。

明日の朝、入院して陣痛誘発をする。

お腹の子が無事に生まれてきてくれれば(もちろん、それを信じているわけだけれど)、今日つづる文章は母親ではない私の最後の文章。

出産という特殊な時間。
自分の子どもをこの手に抱くという経験。
ホルモンバランスの大きな変化。

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予定日まであと7日のつれづれ

予定日まであと7日のつれづれ

この時間を私はきっと、なつかしく思い出す。
とびきり自由なのに退屈で、それでいて何もしようとしなかった日々を。

天気はよくて、仕事や家事のような私を縛り付けるものもなくて、その気になりさえすればなんだってできるのに、こたつ机を片付けて広くなったリビングでただ長々と昼寝をした。

誰に邪魔されるわけでもなく、抹茶アイスを食べてノンカフェインのほうじ茶を飲んだ。

静寂はいずれ破られるから静寂なのだ

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ずっと探し求めていた「楽しさ」はここにあった

ずっと探し求めていた「楽しさ」はここにあった

産休に入って1ヶ月が過ぎた。私にとってこの1ヶ月は、言うなれば人生の夏休み。必修科目がほとんどなくて暇を持て余している大学生や、仕事を離れて長期の一人旅や留学に出ている人たちが過ごすのと似た性質の時間。何をするもしないも比較的自由に選べて、それゆえにこれから先のことや見て見ぬふりをしてきた悩みごとに向き合う余裕のある時間。

子育ての本をいろいろ読んだ。子どもの興味や感情に共感して寄り添い、やりた

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育休中のスキルアップー私の答え

育休中のスキルアップー私の答え

産休・育休は働く女性にとって、仕事から離れられる貴重な時間。有効活用してこの間にさらなるスキルアップを……と考える方は多いのではないだろうか。かくいう私も、資格取得やプログラミングスクールへの通学、ブログアフィリエイトなど、一通り検討したことがある。(子どもを授かるよりも遥か前のことだけれど…)

そんな時期を経て実際の産休を迎えた現在の私は、「なにもしない」という結論を出した。あきらめたから、で

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小さな子どもに初めてきゅんとした

小さな子どもに初めてきゅんとした

妊娠8ヶ月。
妊娠後期に入って、胎動はなかなか力強い。
体型の変化も顕著。去年までと同じ組み合わせでカップ付きキャミソールにゆるっとしたブラウスを着たら、大きくなった胸の谷間が気になって、電車でずっと押さえるはめになった。

肝心の赤ちゃんを迎える準備は、正直なところ何もできていない。
入院準備もしていなければ、ベビー布団やお洋服や哺乳瓶や抱っこ紐。ひとつとして手元にない。性別がわかっていないので

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私は私のまま、母親になる

私は私のまま、母親になる

妊娠7ヶ月も後半になり、予定日まで100日を切った。お腹の大きさは随分目立つようになり、電車で席を譲られることも会社で気づかれることも増えた。

でも私の頭の中は相変わらず、自分のことでいっぱい。いやむしろ、「母親になるまでに清算しておかなくちゃ」と慌てて自分の心の課題に向き合っている節がある。子供を授かったら、発達心理学や教育論なんかを勉強するんだろうな、というかつての予想を裏切って、日々揺れ動

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まだ見ぬ君に贈る言葉

まだ見ぬ君に贈る言葉

妊娠6ヶ月。胎児はそろそろ耳が聞こえている頃らしい。話しかけてあげましょう、というアドバイスをあちこちで見かけるけれど、まだ姿の見えない存在にどんな風に話したらいいかわからなくて。

言葉の意味はわからなくても、心で通じ合うことはできると思うから、わたしはお風呂のなかでこんな話をした。


君はどんなことをしたくて、この世にやってくるのかな。君の心しか知らない答えがあるんだよね。

生まれてくる

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十月十日が与えられるのは

新しい命を授かってから、対面するまで。私たちにこれほど長い時間が与えられているのは、こころがその事実を受け入れるのに時間を要するからかもしれない。

妊娠18週。出生前診断という山場は去り、体調もさほど悪くない。1ヶ月半ほど自宅安静が続いたため、体力の低下が気になるぐらい。在宅勤務のため、今はかなり時間がある。

知らなければいけないことが、たくさんある。妊娠生活のことも赤ちゃんのことも、私はよく

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ごめんね、で済まない傷をすでに負わせているのに

ごめんね、で済まない傷をすでに負わせているのに

よかった、本当によかった……!

止まらない胸の高鳴りが2人分あることに気づいて、私は悟ってしまった。今まで存在を認めてあげられなかった命が、確かにここにいることを。

中絶を選ぶ可能性があった。4月中旬、妊娠11週の時に受けた胎児ドッグで、ダウン症などの先天異常の可能性が25%以上と告げられた。混乱した気持ちのまま絨毛検査の同意書にサインし、その日のうちに検体採取。1週間後、染色体の異常はないと

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どうにもならない気持ちの居場所をつくらせてください

どうにもならない気持ちの居場所をつくらせてください

私が今日書くのは、この気持ちの居場所をつくるため。結論はもう出ている。不安になったって、悩んだって仕方ない。待つだけ。今もつ奇跡を大切に抱きしめるだけ。

だけどまだ、納得したくないと私の心は言う。暗い渦のなかをもう少し歩いていたいと言う。だから私は、そんな気持ちの手を引いて、ゆっくり散歩に出ようと思う。どんな不安も恐怖も、居場所さえつくれば恐れる必要はなくなるのだ。日本人は昔からそうやって、災厄

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どんな運命も、受け止める

どんな運命も、受け止める

妊娠7週目。無事に心拍が確認できて、最初の関門を突破した感覚。

妊娠がわかってからここ3週間の私は、自分がお母さんと呼ばれることにも、お腹に宿った命を赤ちゃんと呼ばれることにも違和感があった。親になりたくないとか自由を失いたくないとか、そういう類の拒否感ではない。

全てが無に帰した時、傷つくことを恐れるゆえの反応。

一般に妊娠初期の流産リスクは決して低くない。出生前診断の結果を見て、お別れす

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覚悟はひとりでしか決められない

覚悟はひとりでしか決められない

1ヶ月前の今頃、私は毎日不安と闘っていた。自己注射も麻酔も怖くて仕方なかったから。

それから遡ること1ヶ月。不妊症専門クリニックで、私たち夫婦が子供を授かるには顕微授精しかないと言い渡された。夫の精子は遺伝子変異で尻尾が短く、泳ぐ力がほとんどない。精巣から直接取り出した精子と体外に取り出した卵子をひとつずつ人の手で受精させる方法でなら、子供を授かれる可能性が高いとのことだった。

それからさらに

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