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Re:Re:Re:雑音と同じ周波数

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ほんの少し、夜に触れたい。
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桜はまた咲く

桜はまた咲く

きみは私と出会った日を覚えているだろうか。
桜の下。お互い新境地で、とにかくぎこちなかった。
「名前、なんて言うの?」
多分、それが私たちの最初の会話だった。
その出会いがきっかけで、その後15年も一緒にいるとは思わずに。

15年も経つと、お互い変わっていく。
見た目も、体型も、どんどん年老いていく。
それでも変わらないのはきみの眼差しで、私にだけ向けてくれる優しいあの眼差しが好きだった。

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そんなことを、思い出す。

そんなことを、思い出す。

夏だからだろうか
亡き祖父のことを思い出す。
大正生まれで、生きていたら108歳。
小学校の教師で、校長でもあった。
退職してから90歳まで書道の先生をし、老老介護をしつつも亡くなるまで短歌を書き続けた──尊敬する祖父。

そんな祖父は、第二次世界大戦時、兵士として戦場に立っていた。
私は子供だったから詳細は聞いていないが、軍曹だか、上の立場にいたらしい。

祖父は、よく寝言を言っていた。
いや、

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春になったら、会いに行くよ

春になったら、会いに行くよ

ようやくあの子の家に電話した。

十年以上会っていないのに、名前を言ったら覚えてくれた。

「昨日ちょうどナツお姉ちゃんと一緒に写った写真を飾ったところなの」

ああ、そっか。

教えてくれたのかもしれないね。

踏ん切りつかない私がいるってことに。

聞けば、癌になってあっという間に亡くなったらしい。

亡くなって半年。

遺骨は、まだ手元にあるとか。

「まあ、母も納骨したの十年以上経ってから

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知る勇気がない

「明日こそ電話しよう」

父親から教わった電話番号。

画面を見つめるだけで、幾日も無意味な日々が過ぎていった。

知る勇気がない。

彼女の死の経緯を。

彼女の最期を。

本当は信じていない。

あの子がもうこの世界のどこにもいないこと。

「会わない」ということは「いない」と同じことだと思った。

思って、いたのに。

どこにもいないとわかった途端、ぽかんと胸に穴が開いた気がする。

もう何

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令和2年に、彼らを置いていく

電波があって、

光があって、

どこでも繋がれると思っていた。

でも、世界は広くて、どこでも命がこぼれ落ちていて。

そのこぼれた命の中に自分の知る人がいたなんて、知るのはずっと後。

家族電話をしたら、父から小学校の時の恩師と年下の幼馴染みの訃報を知った。

恩師はまだ50代半ばで、幼馴染みに至ってはまだ24だった。

思い出が駆け巡る。

遠い昔の、優しい記憶。

ああ、こんな年の瀬に聞い

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懺悔の話

懺悔の話

私は車のクラクションとブレーキ音が苦手だ。

理由はある。

ただ、あまり人には言っていない。

いや、言えない。

これは私の戒めみたいなものだから。

今から20年以上前、まだ私が7歳だった頃。

故郷に大雪が降ったので、たまたま一緒に下校していた男の子と女の子の友達を「公園でそり遊びをしよう」と誘った。

ただ、私が一番学校から遠かったので雪遊びをする準備に時間がかかった。

「先に行って公

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雪が降ると思い出す

雪が降ると思い出す

雪が降ると思い出す。

初雪予報を見ると子供ようにカウントダウンをしてはしゃぐ彼女を。

雪が降ると思い出す。

街灯に照らされる大きな白い雪を見て「綺麗だね」と言ってしばらく見つめる彼女のことを。

雪が降ると思い出す。

「今日、雪が降ったね」と言いたかった自分のことを。

雪が降ると思い出す。

彼女が過ごした最後の日にあの村で初雪が降ったことを。

雪が降ると思い出す。

私が冬が嫌いだと

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正義と誠意

人を憎むのはつらい。

自分の心が醜くなるのがわかるから。

人を憎むのはつらい。

憎んでもどうにもならないことをわかっているから。

それでも、「加害者」がいる遺族はその憎しみと戦わなければいけない。

殺人事件。

それと、交通事故。

その憎しみを断ち切れる人物は、他でもなく加害者なのだろう。

「ごめん」で済むなら警察はいらない。

それはそうだ。

だが、たとえ謝罪したところで世界は変

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この世はいきにくい

夏、同い年の俳優が亡くなった。

ルックスもよく、実力もあり、若い時から成功していたと思っていた人の自殺は、同い年の自分たちからしてみれば当然の動揺だ。

世間に衝撃を走らせた事件の後、友達から連絡があった。

「びっくりだよね」

それは私も驚いた。

驚いたが、どこか納得してしまう自分もいた。

「まあ、気持ちはわかる」

そう返したこの一言で友達は何を感じたのだろうか。

「奈都の作風とか、

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雑音と同じ周波数

「姉ちゃんの声ね、雑音と同じ周波数なんだって」

なんてことのない、帰省中のJRの中、同伴していた姉がなんの突拍子もなく言ってきた。

「なんかね、話してるといきなり声が消えるんだって。相手からしてみると口をパクパクとしているようにしか見えないの」

「なにそれ、そんなことあるのかよ」

姉の発言に思わず笑う。

なかなか想像しにくいが、なんて滑稽なのだろうか。

そんな姉の姿を想像するだけで笑っ

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