見出し画像

クリエイターのための「誇張」入門(4) ~演習問題に挑戦するのである!

 ふつうの文章では表現し得ぬ「強い気持ち」(「超好き」、「マジ寂しい」、「最高に嬉しい」などなど)をいかにして描くか?

 頼りになるのが……レトリックの1つ「誇張」である!



※注:本記事は、「クリエイターのための『誇張』入門」の第4回(最終回)です。先に以下の記事をご覧になることをオススメします★


【7-1】演習問題①


 ここまで、

・「量的に増やす」タイプの「誇張」

・「量的に減らす」タイプの「誇張」

・「非量的に表現する」タイプの「誇張」

・上記3タイプを使いこなすための現実的なテクニック(「慣用句を崩す」)

・「過剰に細かく表現する」タイプの「誇張」(「数字を端数まで書く」、「数字以外のものを徹底的に細かく描写する」)

 ……をご紹介してきた。


 図で整理すると以下のようになる。


 さて、ここからは演習問題だ。

 問題は2問。

 8種類の「誇張」を使って、ぜひチャレンジしていただきたい。


 早速、第1問!


 あなたはいま、超絶旨い料理を食べた。

 この感動!歓喜!踊る心!

 各タイプの「誇張」を使って、その強い気持ちを表現してほしい。

(以下、回答例です。閲覧注意★)

【7-2】回答例(「量的に増やす」タイプの「誇張」)


 まずは、「『量的に増やす』タイプの誇張」を使う回答例


 さて。

 どのような「誇張」が考えられるか……。


 以前ご説明した通り、イチから真新しい表現を生み出そうとするのは止めた方がよい。あまりにも時間がかかるし、どれだけ時間をかけても結果が保証されるものでもない。リスクが高すぎる。


 ではどうすればよいのか?


 慣用表現を探すのである!

 そして、それを崩すのである!


 改めて……さて。

 どんな慣用表現を崩してやろうか?


 例えば1000円のパスタを食べていて、「超おいしい!3000円って言われても納得の味だよね♥」なんて言うことがある。

 これを元ネタにしてみよう。

 すなわち……!


 「3000円」を「1億円」に替えてみた。

 いくら旨い料理とはいえ、1億円支払うことはない。つまり、大げさな表現=「誇張」である。


 ……が、何だか面白味がない(まぁ、「3000円」を「1億円」に置換しただけですからね)。


 下図でいえば、せいぜい【A】だろう。


 もっと面白い表現にしたい!

 【B】を目指そう!


 「1億円」を「1兆円」やら「1京ドル」やらにするのも一案だが……どうだろう?……芸がない。それでは【B】とは思えぬ。

 もっと思い切って崩してしまおう!


 「1億円といわれても納得の味」というのは、つまり喜んで1億円支払うという意味。これを崩すと……こんな具合だろうか?


 いかがだろう?

 だいぶ個性的で、インパクトのある表現になったのではないだろうか?


【7-3】回答例(「量的に減らす」タイプの「誇張」)


 続いて、「『量的に減らす』タイプの誇張」を使う回答例


 「『量的に増やす』タイプの誇張」と同じく、まずは元ネタとする慣用表現を探そう


 んー……おいしいものを食べた時、「ずっと食べていたい」とか「食べ終えるのがもったいない」とか表現することがある

 これをもっと大げさにしてみよう!


 これは、「食べ終わるまでのスピード」をメチャクチャ遅くした例だ。


 さらに、もっともっと遅くすると……!


【7-4】回答例(「非量的に表現する」タイプの「誇張」)


 次は、「『非量的に表現する』タイプの誇張」を使う回答例


 今回も、まずは元ネタとなる慣用表現を探そう

 うーむ……何がよいか?


 ……おいしいものを食べた時に「舌鼓を打つ」と表現することがある

※補足:「舌鼓」は「したつづみ」と読む。「したづつみ」と誤読している人を見かけるので注意♥ちなみに、「おいしいものを食べると思わず舌で口の中を叩いちゃうよね!」という意味らしいが……叩くか?慣用表現にアレコレ突っ込むのは野暮天だから避けたいのだが……んー、叩くか?それ、まずくて舌打ちしているんじゃないの?


 この「舌鼓を打つ」という慣用表現をいじくりまわしてやろう

 こんな具合だ!


 穴は開かんだろ、穴は!

 ……というわけで大げさな表現=「誇張」です。


【7-5】回答例(「過剰に細かく表現する」タイプの「誇張」)


 最後に、「『過剰に細かく表現する』タイプの誇張」を使う回答例


 ここまでの3つのタイプとは違い、このタイプでは元ネタを探す必要はない(というか、探す意味がない)


 まず考えるべきは「数字を端数まで書く」(上図の【G】)と、「数字以外のものを徹底的に描写する」(【H】)のいずれを採用するか

 これは完全に好みの問題だが……今回は後者にしよう。


 そして次に考えるのは、「どこを細かく描写するか」である。

 例えば絶品カレーを食ったとして、そのカレーのどこを細かく描くのか?

 いろいろあるが……今回は色に着目してみた★


※RGB:色の表現方法の1つ。お絵描きソフトで色を選ぶ際、ごちゃごちゃ数字が並んでいるのを見かけると思う。アレがRGBである(CMYKなど、他の表現方法の場合もあるが)。数字+アルファベットで、色を細かく指定できるのだ。


 どこの世界に、カレーの旨さをRGBで伝える人間がいるのか?お前は機械か!すべてを数字に置き換えねば理解できぬ機械なのか!

 ……とまぁ、そんなツッコミを入れたくなる細かすぎる表現=「誇張」です。


【8-1】演習問題②


 続いて、2問目にまいりましょう

 今回のお題は……こちら!


 あなたは絶世の美男子・美少女に出会った!

 そのあまりの美しさに、あなたは驚嘆する。

 さぁ伝えるのだ!その「強い気持ち」を言葉に託して読者に伝えるのだ!

(以下、回答例です。閲覧注意★)

【8-2】回答例(「量的に増やす」タイプの「誇張」)


 まずは、「『量的に増やす』タイプの誇張」を使う回答例


 いつもの要領で、元ネタとなる慣用表現を探そう

 美男子、あるいは美少女に対して使う慣用表現はアレコレあるが……うん!

 わが国では、一般的に目が大きい人を美男子・美少女と呼ぶ傾向にある(無論例外はある)。

 例えば「ぱっちり大きな目が美しい」なんて表現だ。


 これを「誇張」してみよう。

 すなわち……!


 いくらなんでも「3倍」はない。どれだけデカくても3倍は言い過ぎである。ゆえに「誇張」だ。

 そしてこれをもっと押し進めると……!


 んなわけあるか!!

 最早美少女とかそういう問題ではない。これではエイリアンである。もしくは、少女マンガのヒロインである。


 とまぁ、やりすぎな感もあるが、それだけ印象的な目をした少女なのだろう……ということは伝わってくると思う。


【8-3】回答例(「量的に減らす」タイプの「誇張」)


 続いて、「『量的に減らす』タイプの誇張」を使う回答例


 これまた、元ネタとなる慣用表現を探そう

 んー……先ほど、わが国においては目の大きさがステータスになると申し上げたが、これと同様に、顔のサイズもまた重要なポイントとされている。

 「顔、小さっ!モデル体型!!」という具合だ。


 それではこの慣用表現を崩してみよう!


 言うまでもない。

 顔がグレープフルーツよりも小さければ、これもまたエイリアンである。

 仮に地球上の生命体だとしても、頭蓋骨の容量からしてホモ・サピエンスとは思えぬ。

 ……とまぁ、そんなインパクトのある表現といえるのではないだろうか。


【8-4】回答例(「非量的に表現する」タイプの「誇張」)


 次は、「『非量的に表現する』タイプの誇張」を使う回答例


 これまた慣用表現を探してみると……ふむ。


 驚いた時に使う表現として「口から心臓が飛び出る」というものがある。

 無論実際に心臓が飛び出るわけではない(当たり前)。つまり、これもまた「誇張」である。

 ただし以前ご説明した通り、慣用表現になった時点で「強い気持ち」を伝える力は失われている

 「強い気持ち」を伝える力を取り戻すためには……崩してやればよい!


 例えばこんな具合だ。


 心臓が飛び出るだけでは足りぬ。とにかくアレもコレもドレもソレも飛び出させてしまおう!……それほど衝撃的な美男子・美少女だったというわけだ。

 あるいはさらにこれを進めて……!


 「言葉を失う」……非常に強い衝撃や感動を受けた時に使う慣用表現だ。

 つまりこれは、「口から心臓が飛び出る」と「言葉を失う」という2つの慣用表現を組み合わせた例である。こんなふうに、2つ以上の慣用表現を組み合わせるのも面白いだろう。


【8-5】回答例(「過剰に細かく表現する」タイプの「誇張」)


 最後に、「『過剰に細かく表現する』タイプの誇張」を使う回答例


 上述の通り、「数字を端数まで書く」タイプと、「数字以外のものを徹底的に描写する」タイプ」があり、いずれを採用するかはあなた次第なのだが……ここでは前者を使ってみよう。


 こんな表現はいかがだろう?


 人間の全細胞はおよそ37兆個らしい。

 アニメ「はたらく細胞」の主題歌「ミッション! 健・康・第・イチ」に「37兆個のひとり」という歌詞があるが、アレだ。

 したがって、「37兆個の細胞が歓喜しているのがわかった」としてもよかったのだが、その後に適当な数字をくっつけてみた。


 これだけで、文章の勢いが強まったと感じないだろうか?


------

 「クリエイターのための『誇張』入門」はこれで終了です。ありがとうございました。

 日記やエッセイ、そして小説やマンガなどなど、様々な場面でぜひご活用ください!

 今後も、レトリックや日本語に関する記事を制作してまいりますので、どうぞご愛顧ください★

------

関連

------

最新情報はTwitterで★

------

 最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。

(担当:三葉)

この記事が参加している募集

コンテンツ会議

最後までご覧いただきありがとうございます! 頂戴したサポートはすべてコンテンツ制作に使います!