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クリエイターのための「誇張」入門(1)

【0】いかにして「強い気持ち」を表現するか?


 例えば。

 本日、カレーを食った。絶品だった。

 ああ、感動である!生まれてきたよかった!父に、母に、そして神に感謝を捧げたい!

 あなたは考える。

「この高ぶった気持ちをどうにか言葉で表現したいものだ!」


 かくしてあなたはnoteに向かう。

 するすると筆が進む。

 おもむろに読み返す。

 あなたの顔が曇る。

 ……どうにも気に入らぬ。凡庸に思えて仕方がない。私の感動はこの程度のものではない。あの気持ち!あのカレーを食った時の魂の震え!いかにして言葉で表現すればよいのか!


 あるいは。

 あなたは小説やマンガを書いている。

 ここぞという場面に差しかかる。

 主人公の強い悲しみを描写せんとする。

 気合を入れる。筆を走らせる。

 ……しかしどうにもいけない。

 主人公の悲しみがいまいち伝わってこないのだ。いや、確かに悲しんでいるのだが、これでは大切にとっておいたプリンを家族に食べられた程度の悲しみにしか感じられない。

 恋人を殺された人間の心情描写としては、どう考えても迫力が足りぬ。

 主人公の気持ちをもっと巧く描くことはできぬものか!


 さて……ふつうの文章では表現し得ぬ「強い気持ち」。これをいかにして描くか。

 どうすれば、

「このカレー、死ぬほど旨かったんだろうなぁ……」

「主人公、メッチャ悲しんでるじゃん。そりゃ復讐もやむを得ないわ……」

 ……と読者に感じてもらえるのか?


 そんな時に頼りになるのが「誇張」だ★


【1】「誇張」とは何か?




 さて。

 ここで2秒だけ堅苦しい話をさせていただく。


 この「誇張」というのは「レトリック」、日本語でいうところの「修辞法」の1つであり、一般的には「誇張」と呼ばれるが、「誇張法」「hyperbole(ハイパーボール)」ということもある。


 これで堅苦しい話はおしまい。


 ……で、以上の文章を2秒で読めた方はいるだろうか(いや、いまい)

 んな短時間で読めるか!

 つまり、上述の「2秒だけ堅苦しい話をさせていただく」という但し書きは嘘だ。

 ……これが「誇張」である。


 もう少しわかりやすい例をあげよう。


<例1>

 なるほど。たしかに嬉しいだろう。わかるわかる。

 が……本気で死んでもよいと思っている人は、まぁいないだろう。

 つまり、「いかに嬉しいか」を伝えるために、大げさな表現=「誇張」を使用しているわけだ。


<例2>

 これも気持ちはわかる。

 汗と涙の結晶である。誰だって嬉しい。

 ……が、さすがに20万円と20億円では喜びようが異なるだろう。

 したがって、これもまた「いかに嬉しいか」を伝えるために大げさな表現=「誇張」を使用しているといえる。


【2】「誇張」を使いこなそう!


 あなたがいま考えていることを当ててみせよう。

 ズバリ……。


「『誇張』って簡単じゃん!なんだよ、もったいぶりやがって。そんなの普段から使ってるっつーの!なめんなコラ!」


 そう。「誇張」は決して特別なテクニックではない。

 特にあなたがネイティブジャパニーズであれば、意図せずして使っていると思う。


 ……が、しかし!(まだブラウザバックしないで!)


 果たして、「使いこなせて」いるだろうか?

 「誇張」にはいくつかのタイプがあるが……あなたはその内のいくつかしか使っていないのでは?

 それはもったいない。至極もったいない。「誇張」には無限の可能性があるのだから。

 (さすがに「無限」は言い過ぎだと思うので、これも「誇張」ですね)


 ということで、本記事では様々なタイプの「誇張」と、その実践的な使用法(テクニック)を6つご紹介する

 まずは、ふんだんな例と共に詳細なご説明


 その次は「演習問題」だ。簡単な問題をご用意したので、ぜひトライしていただきたい(解答例付き)。


 そして最後に、全体をコンパクトにまとめた「エッセンス集」を掲載する。

 今後、文章を書いていて、

「なんかいまいちなんだよなぁ……」

「どうにもメリハリを欠く……」

「もっと何かよい表現はないものか……」

 と行き詰った時には、「エッセンス集」をご覧いただくとよいと思う

 眺めている内に、よい表現が思い浮かぶだろう!……たぶん。


 それでは行こう!「誇張」の世界へ!!


【3-1】「量的に増やす」タイプの誇張とは?


 最初にご紹介するのは、「量的に増やす」タイプの「誇張」

 一言でいえば、「数字に置き換えられるものを、実態よりも大きく表現する」テクニックだ。


 さて!

 くだくだしい説明は丸ごとカットして……早速例を見てみよう!


<例①>

 人間は弾丸よりも速く走ることはできない(残念ながら)。

 したがって、これは「スピード」という数字に置き換えられるものを、実態よりも速く表現することで、「いかに速いか」を伝えようとしている……というわけだ。


<例2>

 「百貫デブ」……慣用句(昔から習慣的に使われてきた言葉・表現のこと)である。

 さて、この「百貫」とはどの程度の重さなのだろうか?

 メートル法に直すと……375kg!

 ……いやいや。大相撲の大型力士でも250kg程度である。400kg近いデブなんてそうはいない。

 ということで、「重量」を実態よりも重く表現することで、「いかに重いか」を伝えようとしている……わけだ。


<例3>

 「一日千秋」……これもまた慣用句である。

 この場合の「秋」は「年」を指す。つまり、「1日を1000年にも感じる」という意味だ。

 例えば「一日千秋の思いであなたをお待ちしています。ううっ……」なぞと使って、恋い焦がれる気持ちを表現するわけだが……冷静になれ。

 1日を1000年に感じるということは、すなわち36万5000倍。誰かを待っている時間は長く感じるものだが、いくら何でも大げさすぎる。

 つまり、「体感時間」を実態よりも長く表現することで、「いかに恋い焦がれているか」を伝えようとしている……ということになる。


<例4>

 んなわけあるかい!!

 「世界」というのは曖昧な表現だが、もしこれが地球全体を指しているのだとすればあまりにも大げさだ。

 すなわち、「所有額」を実態よりも多く表現することで、「いかに金持ちか」を伝えようとしているのだ。


<例5>

 「ICBM」とは、大陸間弾道ミサイルのこと。

 そして、ミサイルに匹敵するパンチを放つ人間はいない(いたら世界の終わりである)。

 したがって、「パワー」を実態よりも強く表現することで、「いかに強いか」を伝えようとしている……といえるだろう。


 以上、

・スピード

・重量

・時間

・お金

・パワー

 という「数字に置き換えられるものを、実態よりも大きく表現する」例をご覧いただいた。


 いかがだろうか?

 「あー、あれね!」という具合にスッとご理解いただけたのではないだろうか?

 というのも、じつは私たちが普段使う「誇張」の多くはこの「量的に増やす」タイプなのだ。つまり馴染みがある。だから理解しやすかったと思う。


 ……で、ここで注意。

 馴染みがあり、理解しやすく、そして使いやすいタイプだからこそ、「気がつけば、また『量的に増やす』タイプの『誇張』を使っている!」となりかねないのだ(実際にそういう文章を時々見かける)。

 ただ、せっかくのテクニックも連発すれば効果は薄まるし、安っぽくなる。

 もっとわかりやすくいえば、文章がアホっぽくなるのだ


 したがって、今後ご自身の文章を読み返す時には、「『量的に増やす』タイプの『誇張』を連発していないだろうか?」とご確認いただくのがよいと思う

 そして、もし「『量的に増やす』タイプ」ばかり使っている場合には、次からご紹介する別のタイプの「誇張」に置き換えるのがオススメだ★


【3-2】「量的に減らす」タイプの誇張とは?


 2番目にご紹介するのは……「量的に減らす」タイプの「誇張」


 敢えてご説明するまでもないだろう。上述の「増やす」タイプの真逆である。

 つまり、「数字に置き換えられるものを、実態よりも小さく表現する」テクニックだ。


 それでは例を見てみよう!


<例1>

 「亀よりも遅い」……よく見かける表現だ。

 足の遅い人を指して使うわけだが、無論、実際にそこまで遅い人はそうはいまい。

 つまり、これは「スピード」という数字に置き換えられるものを、実態よりも遅く表現することで、「いかに遅いか」を伝えようとしている……といえる。

 上述の「弾丸よりも速く走った」の真逆の表現といえるだろう。


<例2>

 「十年一日」……慣用句である。

 「長い間何も変化がないこと」を意味する。

 例えば「十年一日のごとく進歩がない」なぞと使うわけだが……まぁ落ち着け。

 いくら何でも10年を1日に感じることはないだろう(本当にそう感じるなら病院へ急げ)。あまりにも大げさすぎる。

 つまり、「体感時間」を実態よりも短く表現することで、「いかに変化がないか」を伝えようとしている……ということになる。

 上述の「一日千秋」の真逆の表現だ。


<例3>

 「猫の額ほどの○○」という慣用句である。

 猫の額が狭いことから、ある場所がとても狭いことを表す時に使われる。

 なるほど。土地は高い。特にそれが東京都心部だったりすれば目玉が飛び出るほど高価だ。したがって、土地が狭いのも無理からぬことである。

 ……が、おい。いくら何でも猫の額よりは広いだろ、猫の額よりは。

 ということで、これは「面積」を実態よりも狭く表現することで、「いかに狭いか」を伝えようとしているわけだ。


<例4>

 これも、時たま見かける表現である。

 さて、どのようなシーンで使うのか?

 微生物やチリを指して「豆粒のように小さい」と言うだろうか?……否、言わない。

 私たちは豆粒よりも大きなもの(例えば人間、建物、スマホなど)に対して、「豆粒のように小さい」と使うのだ。

 したがって、「サイズ」を実態よりも小さく表現することで、「いかに小さいか」を伝えようとしている……といえる。


<例5>

 「糸目」とは何か?

 日本のマンガやアニメでは、キャラの目を線1本で表現することがある。これを「糸目」と呼ぶ。

 ……とはいえ、実際に糸ほど細いということはない(本当に糸ほどしかなければ、読者・視聴者に気づいてもらえない!)。

 だからこれは、「幅」を実態よりも細く表現することで、「いかに細い」を伝えようとしている……ということになる。


 以上、

・スピード

・時間

・面積

・サイズ

・幅

 という「数字に置き換えられるものを、実態よりも小さく表現する」例をご覧いただいた。


 ご理解いただけただろうか?

 

 この「量的に減らす」タイプの「誇張」は、日常生活はもちろん、小説やマンガでもあまり用いられることがない。

 したがって、いざ使ってみようと思ってもなかなか上手くいかないかもしれない。


 ただ、「あまり用いられることがない」からこそ、大きな可能性が秘められているともいえるだろう

 巧く使いこなせば、独特の味わいがある文章になるかもしれない。読者が「おっ!」と目を止める表現が生まれるかもしれない。

 難易度は高いが……挑戦する価値はあると思うのだ★


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「日本語ラブ!俺は日本語が好きだ、愛してる!!だからこそ日本語の方も俺を愛するべきだよねぇ」(元ネタ:折原臨也

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(担当:三葉)

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