西村くれは

東京、京都、大阪でのサラリーマン生活を経て、長野で有機農業、料理人研修。 地元関西に戻…

西村くれは

東京、京都、大阪でのサラリーマン生活を経て、長野で有機農業、料理人研修。 地元関西に戻り、一児の母となりました。 ショートショート小説やエッセイを中心に書いています。

記事一覧

固定された記事

ダンゴムシの夢

大学二年生も終わる春休み、初めての海外旅行に出かけた。赤道直下の熱帯雨林、マレーシアのボルネオ島をめぐる学生だけのツアーだった。 現地の空港でガイドと合流し、他…

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安心カレー

風呂を出て夜のキッチンに立った。週末まであと3日。女の一人暮らし、カレーでも作れば当分夕飯の心配はない。 ジャガイモをまな板の上に並べ、順に皮を剥いてゆく。ふと…

うまいものは田舎にある

スーパーの野菜コーナーで「無農薬栽培」の表示を見つけるたび、ここは都会なんだと気付く。 二年前、私は長野県の農園に勤めていて、無農薬栽培が当たり前の環境にいた。 …

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色づいたトマト

雪と耕太は同じ幼稚園に通う同級生でした。家が近いこともあり、ふたりは一番の仲良しでした。 雪の家の庭には小さな畑がありました。雪のお父さんが作ってくれたものです…

天女のおくりもの

山間の病院に赴任して、2年が過ぎようとしていた。人手不足で多忙を極め、生活は疲弊していた。頼れる近しい知人もなく、体力的にも精神的にも限界を感じていた。 夜勤が…

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寝転んで見た空

長野県に住んでいた頃、農家のMさんという男性から声がかかり、田植えのお手伝いをすることになった。Mさんは60代の後半で、お米から野菜から何でも作る大ベテランの農家さ…

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外れ値への愛

最近、統計学の勉強をしている。 統計学の用語で「外れ値」というのがある。 あるデータの集団の中で、その値だけグループから突出している。集団内の一般的な数値より大…

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御簾越しの君

婚活会場として指定された貸会議室に着くと、私は辺りを見回した。受付に人はなく、扉を押して中に入った。 薄暗い灯が室内を照らし、壁に一人の人影を映し出している。今…

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白い光

アパートの一室。8畳ほどの薄暗い部屋で、私は初対面の小柄な男と向き合っていた。二十代から四十代くらいか。男の手元には道具箱のようなものが見えた。 大丈夫、外はまだ…

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YELL

洋平は作業用手袋を外して畑の畦に腰を下ろした。手袋を地面に置き、仰向けになる。目を閉じて息を吸い込む。草の匂いがする。標高900mの高原の空気が肺を満たすのを感じ…

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お金はエネルギーであるという話を聞いた。若いお母さんが夕飯の材料をスーパーで買うとき、お金は家族への愛情のエネルギーを帯びる。色で言うと優しいピンクだろうか。習…

道祖神

林間コースの道は一度途切れ、目の前に県道が見えてきた。車の往来を確認して、車道を横断する。 山中へと続く遊歩道が再び現れた。急な下り階段が続いている。大阪の中心…

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ダンゴムシの夢

ダンゴムシの夢

大学二年生も終わる春休み、初めての海外旅行に出かけた。赤道直下の熱帯雨林、マレーシアのボルネオ島をめぐる学生だけのツアーだった。

現地の空港でガイドと合流し、他のメンバーが待つバスへと移動した。ガイドは背の低いマレーシア人男性で、通訳も兼ねる。私も含めて10名。全国の大学から男女が集まった。一年生もいれば、もうすぐ社会人という人もいる。

初日から3日間はびっちり予定が組まれ、4日目はフリー、5

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安心カレー

安心カレー

風呂を出て夜のキッチンに立った。週末まであと3日。女の一人暮らし、カレーでも作れば当分夕飯の心配はない。

ジャガイモをまな板の上に並べ、順に皮を剥いてゆく。ふと手が止まる。
明日、夕飯に誘われていた。

相手の男は昔の先輩。当時からずっと片想いをしている。
諦めて他の男と付き合ってみるも、別れるとまた会ってしまう。関係の変化を恐れて、曖昧な関係に甘んじている。いい加減、何とかしたい。

裸になっ

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うまいものは田舎にある

うまいものは田舎にある

スーパーの野菜コーナーで「無農薬栽培」の表示を見つけるたび、ここは都会なんだと気付く。
二年前、私は長野県の農園に勤めていて、無農薬栽培が当たり前の環境にいた。

桜の花が咲いた頃、友人のKちゃんが東京から長野に遊びに来ることになった。うちの農園にも来ると言う。せっかくだから長野の食を満喫してほしい。こんな感じでどうだろう。

11時11分、新幹線で到着するKちゃんを佐久平駅まで迎えに行く。駅まで

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色づいたトマト

色づいたトマト

雪と耕太は同じ幼稚園に通う同級生でした。家が近いこともあり、ふたりは一番の仲良しでした。

雪の家の庭には小さな畑がありました。雪のお父さんが作ってくれたものです。雪は耕太と一緒に、ミニトマトの苗を植えました。
苗はまだ葉と茎だけなのに、ちゃんとトマトの匂いがしました。

苗は少しずつ大きくなりました。
大きくなる瞬間を見ようと、雪と耕太は毎日、幼稚園が終わると畑に行きました。けれどどんなに急いで

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天女のおくりもの

山間の病院に赴任して、2年が過ぎようとしていた。人手不足で多忙を極め、生活は疲弊していた。頼れる近しい知人もなく、体力的にも精神的にも限界を感じていた。

夜勤が終わり、私はひとり溜息をついた。鞄から御守りを取り出す。
一人暮らしを始める時に、母が持たせてくれたものだ。御守り袋は手作りで、私の家系の女性が代々受け継いできたらしい。中には布の切れ端が入っていると聞いていた。

この辺り一帯には天女の

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寝転んで見た空

寝転んで見た空

長野県に住んでいた頃、農家のMさんという男性から声がかかり、田植えのお手伝いをすることになった。Mさんは60代の後半で、お米から野菜から何でも作る大ベテランの農家さんだ。

通常、Mさんのところの田植えは機械で行うが、今回私たちがお手伝いをする田んぼだけは、あえて長年、手で植えている。毎年、東京の大学から学生たちも参加するそうで、若い人に田植えを肌で感じてもらうための試みのようだった。

朝、田ん

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外れ値への愛

外れ値への愛

最近、統計学の勉強をしている。

統計学の用語で「外れ値」というのがある。
あるデータの集団の中で、その値だけグループから突出している。集団内の一般的な数値より大きすぎたり小さすぎたりするため、一見、はみ出しているように見える。

例えば、女子生徒の平均身長が150センチ代であるクラスに、ひとりだけ180センチの生徒がいるような場合。この180センチという値は外れ値になる。
「はい」か「いいえ」で

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御簾越しの君

御簾越しの君

婚活会場として指定された貸会議室に着くと、私は辺りを見回した。受付に人はなく、扉を押して中に入った。
薄暗い灯が室内を照らし、壁に一人の人影を映し出している。今日の婚活相手だ。外見で判断しないための配慮だろうか、男は背の高いパーティションとブラインドで囲まれた中にいて、こちらからは姿は見えない。他には誰もいなかった。
今日ここに来たのは母に言われたからだ。物心ついた頃に両親が離婚し、私自身は結婚に

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白い光

白い光

アパートの一室。8畳ほどの薄暗い部屋で、私は初対面の小柄な男と向き合っていた。二十代から四十代くらいか。男の手元には道具箱のようなものが見えた。
大丈夫、外はまだ明るい。
男が口を開いた。
「どのようなご相談ですか」
私は背筋を伸ばした。
「忘れたい人がいます」
男は頷いた。悪い人には見えない。私は続けた。
「彼女は友人でした。もう会うことはありません。でも、未だに嫌な気分になります」
「嫌な気分

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YELL

YELL

洋平は作業用手袋を外して畑の畦に腰を下ろした。手袋を地面に置き、仰向けになる。目を閉じて息を吸い込む。草の匂いがする。標高900mの高原の空気が肺を満たすのを感じる。
三ヶ月前、七年付き合った婚約者と破局した。任期付き研究員という洋平の仕事が相手の両親は不安だった。あっさり別れを告げられた。
全てを手放し農業アルバイトに応募した。引越してきたのが二ヶ月前。

誰かが草を踏む音がした。洋平は目を開け

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春

お金はエネルギーであるという話を聞いた。若いお母さんが夕飯の材料をスーパーで買うとき、お金は家族への愛情のエネルギーを帯びる。色で言うと優しいピンクだろうか。習い事を始めるとき、目的が友達作りであれば、お月謝のエネルギーは楽しい黄色かもしれないし、ライバルに勝つためであれば、その色は真っ赤に燃えているかもしれない。
かつて恋した人との食事では、お金は何色をしているだろうか。

彼は昔の職場の同期だ

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道祖神

道祖神

林間コースの道は一度途切れ、目の前に県道が見えてきた。車の往来を確認して、車道を横断する。

山中へと続く遊歩道が再び現れた。急な下り階段が続いている。大阪の中心部から電車で約一時間、手軽なハイキングスポットとして知られる箕面山だが、一部の道は急峻だった。屈んで登山靴の紐を結びなおす。路傍の小さな祠が目に入る。立ち上がって近寄った。

大きさは五十センチ四方くらいだろうか。四本の木柱にトタンの屋根

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