マガジンのカバー画像

雑文

94
主に読書感想文を載せています。ネタバレしない内容を心がけてますが、気にする人は避けてください。批評ではなく、感想文です。
運営しているクリエイター

#村上春樹

村上春樹 『一人称単数』

村上春樹 『一人称単数』



★★★★☆

 2020年7月に刊行された村上春樹の6年ぶりの短篇集。7作品が文學界に掲載され、表題作の『一人称単数』が書き下ろしです。

 なんとなく、発売後すぐに読みたい気にならなかったので先延ばしにしていたのですが、なんとなく最近読みました。期待値が高くなかったせいか、いろいろ感心してしまった一冊です。

 まず、何に感心したかというと、どの短篇も実に村上春樹らしい作品になっていることで

もっとみる
カーソン・マッカラーズ 『心は孤独な狩人』

カーソン・マッカラーズ 『心は孤独な狩人』



★★★★☆

 2020年8月に新訳として刊行された本書。訳者は村上春樹。原書が出たのは1940年なので、約80年前です。
 訳者あとがきにも書いてありますが、これがマッカラーズの処女作というのだから驚きです。23歳の新人作家がこの重厚な物語を書いたというのは、なんというか、信じがたいです。とんでもない才能というのでしょうか、ただただ脱帽です。

 聾唖の男、十代の少女、カフェの店主、流れ者の

もっとみる

『MONKEY vol.15』

★★★★★

 柴田元幸が責任編集長を務める雑誌MONKEYの最新号です。6月発売なのでわりと時間が経ってしまいましたが、内容がすばらしかったので触れずにはいられません。

 毎号興味深い特集と高い質が保たれている雑誌ですが、今号は群を抜いていました。隅から隅まで読んでしまうほどに。

 特集は「アメリカ短篇小説の黄金時代」です。

 村上春樹訳ジョン・チーヴァー5作品(+エッセイ)と柴田元幸訳の

もっとみる

マーティン・アッシャー 『フィリップ・マーロウの教える生き方』

★★★☆☆

 レイモンド・チャンドラーの長篇7冊を訳し終えた村上春樹が記念的な意味合いも含めて出したフィリップ・マーロウ名言集。
 ニューヨークの出版社クノップフ(ランダムハウス)で長年編集者を務めていたマーティン・アッシャーが、フィリップ・マーロウものの長短篇から集めた引用句を編集した本作では、多種多様なジャンルごとに、長短様々な文章が並べられています。

 チャンドラーといえば比喩やアフォリ

もっとみる

レイモンド・チャンドラー 『水底の女』



★★★☆☆

 2017年刊行。訳者は村上春樹。『ロング・グッドバイ』から始まったチャンドラー長篇翻訳シリーズも7つめの今回でラストです。訳した順と出版順はちがうので、これが最後の作品というわけではありませんが。

 一応僕はこれまでに出ていた村上春樹訳のチャンドラー作品を出版順に読んできました。『ロング・グッドバイ』が2007年に出たので足かけ10年読んできたことになります。10年と書くと、

もっとみる

グレイス・ペイリー 『その日の後刻に』

★★★★☆

 今年の8月にようやく出たグレイス・ペイリーの3冊目であり、最後の1冊です。グレイス・ペイリーは寡作の作家で3冊しか出ていないのです。訳者はもちろん村上春樹です。
 短いものは数ページの掌編ですし、長いものはふつうの短篇の長さです。なので、収録数は17と割と多め。雑誌Monkeyに収録されていたエッセイとインタビューも1つずつ入っています。

 前の2冊も読んだのですが、具体的におぼ

もっとみる

柴田元幸 『代表質問 16のインタビュー』

★★★★☆

 翻訳者である柴田元幸が小説家を中心に13人の方にインタビューをしています。内容は主に小説や文学についてと、翻訳についてです。イベントでのトークショーの文字起こしと雑誌に掲載されたインタビューがほとんどです。
 僕はソフトカバーで読みましたが、文庫化もされています。

 主な作家は、スチュアート・ダイベック、村上春樹、バリー・ユアグロー、内田樹などです。翻訳家の岸本佐知子へのインタビ

もっとみる

村上春樹 『騎士団長殺し』第1部・第2部

★★★☆☆

 話題になってはいたけれど、内容はまるで知らずに読みました。タイトルから察するに、中世を舞台にしているのかしらん、と思っていたら、ふつうに現代の日本でした。

 相変わらず、文章の読みやすさは群を抜いています。相当にややこしい内容であっても、小気味よくすらすらと読めてしまう(理解できているかはともかくとして)。まるでわんこそばのよう。副題に「イデア」とか「メタファー」とあっても売れる

もっとみる