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創作童話『雨上がりの日に』
「花が散ってしまうのは、悲しいね。」
足元に広がる無数の花びらを見て、ナナは言いました。
昨日降った雨で、せっかく咲いた白木蓮の花もほとんどが散ってしまっていました。
雨上がりの街はまだどこか生暖かい湿った空気が残っていて、まとわりつくようでした。
「そう?風情があって、これはこれでいいと思うけど。」
「風情って、なに?」
ヒカルはどう説明しようかしばらく悩んで、言いました。
「こういう儚いものの
創作童話『聖なる贈り物』
「兄さん、お願いだから食べてちょうだい。」
アルマはそう言うと、盗んできたパンを差し出しました。
ロベールは静かに首を横に振ります。
「ここに来てから、何も食べてないじゃない。」
「お前だって、パンを食べないじゃないか。」
「兄さんが食べないんだもの。」
屋根裏部屋の隅では、カラカラになったパンが転がっていました。
アルマは泣き出しました。
「このままじゃ、兄さんが死んでしまうわ。」
ロベールと
創作童話『床下の世界』
とある王国のお話です。
王様の住む宮殿の大広間には、天井まで届く長い長い螺旋階段がありました。
その階段を登り切ると、屋上にある天文台に行けるのでした。
さて、天文台に辿り着く手前、103段目の階段は、金色に塗られていました。
おまけに、外側の手すりはその階段の部分だけ外されていて、飛び降りられるような仕様になっています。
というのも、その螺旋階段の103段目からまっすぐ床に飛び降りると、別の世
創作童話『素敵なブティック』
その街は一年中寒くって、広がる灰色の空の下、れんが造りの家々や道は明るく塗装されていたものの、そのアンバランスさが余計に人々を寒々しい気持ちにさせました。
キリンのマドルは、そんな街でブティックを営んでいました。
ブティックは落ち着いていて、いつもおしゃれな音楽が流れていました。
お客さんから相談されたときには、マドルは一緒にコーディネートを考えるのでした。
ファッションデザイナーでもあるマド
創作童話『不思議な車』
ライオンのレオンはその日、お母さんのお手伝いで、家の外を箒で掃除していました。
すると、一台の車がスーッと、レオンの家の前で止まりました。
運転していたのは、クマのマイケルでした。
「ドライブに行こう」
マイケルはレオンに言いました。
ふたりは親友です。
マイケルの車は、ピカピカの黄色いオープンカーでした。
「この車、どうしたんだい?」
レオンは車を眺めながら言いました。
「この間買ったのさ。
創作童話『灰色の空』
太陽が照り輝き、青い海は静かに揺れています。
町にある高台からは、ミカンやレモンの木々が見下ろせます。
その高台にある新しい家に、ユミたち家族は引っ越してきました。
ピカピカの家はとても広く、ユミと三歳下の妹にはそれぞれの部屋が与えられました。
前の家では妹と同じ部屋だったので、一人部屋ができて嬉しい反面、妹と離れた寂しさもありました。
庭に出ると、あたたかい風がユミを包みます。
雪国で育った
創作童話『星を見つけて』
「星を取りに行こう!」
チェスターは部屋のドアを勢いよく開け放つと同時に言いました。
「星だって?」
もう眠りにつこうとしていたルイスは、目をこすりながら尋ねました。
「星なんて、どうやって取りに行くのさ」
「こっちへきて!」
チェスターはルイスの手を引き、外へ連れ出しました。
家の外に出ると、そこには一台の自転車が置いてありました。
二人乗りで、真っ白な羽がついています。
「お父さんに内緒で、
創作童話『ねぇねぇ、あのね』
うさぎのマルは、内緒話が大好き。
隣に住むリアーと、いつもコショコショと内緒話をします。
「ねぇねぇ、あのね」
マルはいつものようにリアーに言いました。
「うんうん、なぁに?」
リアーは大きな耳をマルの方へ傾けて、耳を澄ませます。
「台所にあったおまんじゅうを、つまみ食いしちゃったんだ」
「ダメじゃないか、そんなことしちゃ」
「美味しかったから、きみにも持ってきたよ」
マルはそう言っておまんじ
創作童話『評判の良いお医者様』
緑が生い茂る季節のことでした。
町に新しいお医者様がやってきて、小さなクリニックを開きました。
なんでも、このお医者様はどんな体の不調も治してしまう名医だと言います。
町には、コタロウという青年が住んでおりました。
コタロウは、幾日か前から鼻水が止まらず困っていました。
お医者様の話を耳にしたコタロウは、明日、さっそくクリニックへ行ってみようと、その日は早く眠りました。
翌日、コタロウは診察
創作童話『どこまでも一緒』
シーズー犬のマイムは、その日もいつものように散歩をしていました。
マイムは、ふと訪れた教会の長い階段のふもとにある広場で、1匹のアリクイと出会いました。
アリクイは、ギターを弾きながら歌っています。
マイムには、アリクイの言葉が分かりませんでしたが、アリクイの鳴らすギターと歌を聴いていると、なんだか心がふわふわとしてくるのでした。
マイムは恐る恐るアリクイの隣に座りました。
アリクイは歌うのをや