神辺菊之助

日本の未来を考えるための補助線の1つとして『古事記』の読みの可能性を追求し始め、約7年…

神辺菊之助

日本の未来を考えるための補助線の1つとして『古事記』の読みの可能性を追求し始め、約7年かけて国生みまでの解釈に至る。映画好き。HiViに映画評を連載していました(休載中)。 講演や読書会などの依頼は、ページ末尾の「クリエイターへのお問合せ」からお願いします。

マガジン

  • 現代語訳『古事記』ではわからない『古事記』の話

    『古事記』って何が書いてあるんだろう?

  • 『古事記』の原文を論理にこだわり1文字目から読んでみる

    日本の初心=日本が日本になった時(国号制定は天武天皇期)を見直してみようと『古事記』をちゃんと読もうとしたら、いつの間にか5年ほど経ってしまいました(定説が無いので論文を検証しながら読んだりしていたら時間があっという間)。 冒頭部分はメドが立ったので、思い切ってnoteに連載を始めることにしました。 かつて英国が斜陽と言われていた頃、ある企業がが国のブランディングを勝手に行い『™ Britain』(トレードマーク・ブリテン)という報告書にまとめあげました。時のブレア政権はそれを公式に採用し、英国は復活しました。 日本はそれに倣おうとし、結果としてクールジャパン政策ができました。それは、アニメーションなどソフトパワーに着目し、海外向けに売り込もうという政策でした。ただ、もし発想が「ジャパン」じゃなくて「日本」だったら。古事記から日本を見直したい、そんな発想で古事記を読み直したのが本稿です。

  • 映画で読むアメリカ(たまに日本)

    欧州や中近東の映画が好きなんですが、なぜか語りたくなるのはハリウッドの映画ばかり。というのも、近年のハリウッド映画は、建国以来のアメリカ史の超克を果たしつつあるのではないかと感じているからです。これは目が離せない! マイベスト映画はエミール・クストリッツァ監督の『アンダーグラウンド』。日本やアジアの映画も大好きです。

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『古事記』を原文に沿って、アタマから読む機会ってそうは無いですよね。ノベライズされた古事記や、古事記の解説本は、たいていがイザナキ・イザナミの国生み神話から書き始められていて、国生み以前、世界の始原について『古事記』の神話がどう書いているかは、スルーされてしまっています。

現代語に訳された古事記でも、冒頭の神々についてはただ神名が羅列されているだけで、その並びが何を意味しているかの可能性について

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■『古事記』を世に出した天皇

『古事記』は第40代の天武天皇が着手を命じたまま、逝去によって約四半世紀のあいだ中断し、その後に第43第の元明天皇が完成させたものである。

つまり、元明天皇が命じなければ、『古事記』は世の中に存在しなかったのだ。

元明天皇が『古事記』の文字化を太安万侶に命じてから、わずか4ヶ月で『古事記』は完成し、献上されている。

このことは、元明天皇が書物化を命じる前(

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■スピリチュアル天皇の苦悩

『日本書紀』の評伝にも書かれているとおり、天武天皇は今の言葉で言えば、スピリチュアルな人物である。神に語りかけて雷雨を止めたり、天文(これも今の言葉で言えば占星術)を愛好したり。

それでいて、日本の律令国家化を推し進めるなど、現実的な側面も強く持っている。その内面の葛藤と苦悩が『古事記』を生み出す原動力になったのではないかと考えている。実際、冒頭部分は、律令国家化

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■『古事記』冒頭の意味不明さ

原文(書き下し文)を読むと明らかなのだが、『古事記』は、冒頭すなわち書き出しの天地初発から、伊耶那岐命・伊耶那美命の二神の誕生までの部分だけが、以降の全体の文章とは異なったトーンで書かれている。

我々がよく知る『古事記』は、イザナキ・イザナミの天降りの場面からだが、詳細な意味はともかく、現代人の我々が読んでも、だいたいの意味を知ることができる。

上記の大意は、複

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なぜ、『古事記』は天武天皇の逝去後に放置されたのか(現代語訳『古事記』では分からないこと 8)

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■放置された『古事記』

天武天皇によって681年に開始された『古事記』のプロジェクトは、天武天皇の逝去によって686年に中断し、元明天皇によって25年後の711年に再開される。

元明天皇によって再開された『古事記』は、わずか四ヶ月で完成している。たったの四ヶ月で完成できる『古事記』が、元明天皇に至るまで完成しなかったことは、その間に『古事記』が放置されていたことを意味する。

これはなぜなの

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『古事記』は何のために作られたのか(現代語訳『古事記』では分からないこと 7)

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■『古事記』製作過程の謎

『古事記』は、諸家に伝わる帝紀(諸天皇の一代記)と本辞(神代記と思われる)に誤りが多いことを問題視した天武天皇が、それらを精査したものを稗田阿礼に誦み習わせ、後代の元明天皇が、それを太安万侶に筆記させて完成させたものである。このことは、「序」に書かれていることなので、私がここに書かなくても知っている人も多いと思う。

ただ、この『古事記』の製作過程は、よく考えれば変で

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暗号のような『古事記』の冒頭をどう読むか(現代語訳『古事記』では分からないこと 6)

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■現代語訳では『古事記』の冒頭は分からない

『古事記』は漢字のみで書かれており、しかも普通の漢文ではないため、専門に研究している人でない限り『古事記』を原文で読むのは非常に難しい。そこで、現代語訳に頼ることになるのだが、そうすると厄介な問題が生じる。

現代語訳のどこからどこまでが原文『古事記』に忠実で、どこからどこまでが訳者の解釈なのか、読み手が判断できないのだ。

いや、そんなのは翻訳書の

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本当は違う『古事記』と『日本書紀』の世界(現代語訳『古事記』では分からないこと 4)

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■『日本書紀』の「天地開闢」は外来思想である

『古事記』の世界創生譚(世界のはじまりがどうであったかの話)を「天地開闢」であると、何の疑問も抱かず思い込まされている人は多いが、これは事実ではない。

「天地開闢」は『日本書紀』の世界創生譚であり、『古事記』には「天地開闢」の記述はない。

日本列島に生きる人々の「やまとごころ」を最もよく伝える書は『古事記』であるという信念を持っていた本居宣長は

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『古事記』を神学的に読むと見えてくる次元(現代語訳『古事記』では分からないこと 3)

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(一部加筆修正しました。2024/3/1)

■神学の力

神道には、教義も経典もない。あるのは儀礼くらいなので、教義を巡る争いなどはほぼ無い。ただ、神学がないのは神道にとって損失なのではないかと思っている。

神学とは、思考の力で神に近づこうとする運動のことである。本来、神を感じることは、感覚と知力の双方の力が必要なのだ。

『古事記』の冒頭は、感覚だけでは読めない。きちんと読むには、神学的思考

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あえて聖なる書として『古事記』を読む(現代語訳『古事記』では分からないこと 2)

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■『古事記』の封印を解く

『古事記』を聖なる書物として読むこと。現代の日本においては、それは『古事記』を神聖視する態度からの解放からはじめなくてはならない。とても逆説的だが仕方ない。
なぜなら、『古事記』の神聖視は、国家神道の影響が強く、それは、「記紀神話」として『日本書紀』と併せ読みする態度とあまりに強く結びついてしまっているからだ。

『古事記』は聖なる書物であり、

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『古事記』の描く世界のはじまり(現代語訳『古事記』では分からないこと 5)

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■天地初発

「あめつち(天地)はじめて発しし時」とは、いったいどういう時だろう。

よく誤解されるが、これは『日本書紀』が描く「天地開闢」では全くない。このことは、かの本居宣長も『古事記伝』で指摘しているのだが、第二次世界大戦の時の国家神道が『古事記』と『日本書紀』を一緒くたにしてしまったせいで、未だに世の中に誤解が根強い。

「天地開闢」は、全てが渾然一体となった状態

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古事記をもう一度あたまから読んでみる(現代語訳『古事記』では分からないこと 1)

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■はじまりの古事記

「天地初発之時、」から『古事記』は始まる。

「あめつち(天地)はじめて発しし時」である。

「天」は「あめ」、「地」は「つち」とそれぞれ読む(訓む)のが慣わしだ。

大和ことばは、全身の感性を呼び起こす。

にわかに降り注ぐ雨と、土の匂いが、鼻の奥に入り込んでくるような感じ。

足裏に感じる柔らかい土と、はるか上空から打たせ湯のように身に注ぎ重力の存在を思い知らす雨の、

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『ゴジラ-1.0』(2023年)のヒロインが無双な件

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『ゴジラ-1.0』を映画館に観に行ってきました。『シン・ゴジラ』というか庵野監督を意識したとおぼしきシーンが印象に残りました。

以下、ネタバレありです。

■ヒロインはなぜこんなにも強いのか

この映画を見終わって、最も印象に残ったのは、浜辺美波(もちろん浜辺が演じる大石典子のこと)の強さだった。

縁もゆかりもない子どもを引き受け、男の家に転がり込み、死を安易な解決として否定し、「生きろ」と男

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『シン・ゴジラ』(2016年)の「何かが欠けている感」と、石原さとみの役作りの伝わらないリアルさについて

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『ゴジラ-1.0』を観に行った。『ゴジラ-1.0』は、『シン・ゴジラ』を意識して作られている。ならば、『シン・ゴジラ』を観たときの感想と比較してみようと、当時書いた感想をシネスケ(cinemascapeという世界最古の映画SNS(たぶん))から引っ張り出してみた。

以下、当時書いたことほぼそのままです(ネタバレあり)。

■奇妙な映画

奇妙な映画だった。映画冒頭の巨大不明生物の登場シーンから、

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イザナキとイザナミは、なぜ占いをしたのか?(国生みのエピソードからわかること)

イザナキとイザナミは、なぜ占いをしたのか?(国生みのエピソードからわかること)

イザナキとイザナミの国生みのエピソードには、いくつか不思議なところがあります。

前回は、イザナキとイザナミがなぜ、最初は国生みに失敗したのか、その失敗のエピソードに隠された意味を考えました。

今回は、国生みに失敗した際に、イザナキとイザナミはいったん天に帰って正しい国生みの手順を聞きますが、なぜそこで占いをしたのかについて考えていきます。

■どうして神が占いをするのか

まず、国生みのシーン

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イザナキとイザナミが淡島とヒルコを産んだ意味は何か?

イザナキとイザナミが淡島とヒルコを産んだ意味は何か?

『古事記』の国生みのエピソードでは、イザナキが「女から言ったために良くなかった。」と言うシーンがあります。水蛭子(ヒルコ)と淡島を産んだあとのシーンです。

これを、「男をさしおいて女から言うのはけしからん。」と解釈してしまって、『古事記』に男尊女卑を見る人がいます。

『古事記』には他に男尊女卑的な記述はなく、なぜここだけ?と不思議に思われてきました。また、男尊女卑は外来思想であり、中国向けの『

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