池上ゆうひ

なにはどうあれつづけることが目標

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古典に触れて思いを馳せる

藤原道長による『御堂関白記』は、自筆本が現存する世界最古の日記である。 『源氏物語』は世界最古の長編小説と言われる。 これらはあくまでも「現存する」最古の作品に過ぎない。 もっと古くに作られたものがあって、しかし現代に至るまでの間に影も形もなくなってしまったかも知れない。 実際、「かつて存在したことは分かっているが、内容は完全に失われて二度と読むことはできない作品」は『更級日記』にいくつか登場する。 本が自分を未知の世界や空想の世界に誘ってくれるのは、古典も全くもって例

    • 学校公演の意味とは(すべての公演に行く人へ)

      私はバレエの公演をよく見に行く。 最近よく見聞きするのが、学校公演。 中高生あたりを相手に、カンパニーが学校へ赴いたり、学校側が生徒を引き連れて劇場にやって来たりする。 後者はいわゆるスクールマチネというやつで、その回のチケットは一般発売がなかったり、あっても僅少で購入サイトに注意書きがあることが多い。 私も中学生の頃に、通っていた学校の芸術鑑賞プログラムでバレエやお芝居、人形浄瑠璃などの公演を観たことがある。 こうした取り組みが持つ意味の一つには、生徒たちが、劇場(あ

      • 母親

        本当は、「どうしたの?」って言ってほしかった。 悩んでいる私を前にして、スマホや本で時間をやり過ごすのではなく、話を聞いてほしかった。 親身になっているふりをして相槌を打つのではなく、実効性のある解決策がほしかった。 私がそれを考えるためのアドバイスがほしかった。 私が抱えている問題を、一緒に解決する意志がある、そういう態度がほしかった。 一方で、私が抱える問題の根底には、多かれ少なかれ彼女自身の存在があることも事実だった。 彼女の機嫌を損なわないこと、それが家での私の

        • 夜っていいよね

          朝、昼、夜のなかで、特別に夜が好きだという訳ではないけど、なんとなくいいなと思う瞬間がある。 時間にゆとりがある夜に、考えを巡らせたり感傷的な気分に浸ったりするのが好きなのかも知れない。 この前、ビルの外階段から空を眺めていて、ああ綺麗だなと素直に思った。 左を向くと、浅葱色のような、夕暮れの面影を残した青。 右は、濃藍が下りる前の、夜の群青。 その間に広がる穏やかな色合い。 日本語には、独特な名前で数えきれない種類の色があると言うけど、いちいち感じる風情や感動を表現

        古典に触れて思いを馳せる

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        • 雑記
          26本
        • 創作
          3本
        • 習う方のバレエ
          5本
        • 観る方のバレエ
          7本

        記事

          気が向いたので書いてみる

          この前、と言っても結構前、自転車でスーパーに行った。 店の駐輪場に自転車を停めて買い物をし、帰ろうと駐輪場に戻ると、なんと、カゴにゴミが捨てられていた。 しんじらんない。。。 見たくもなかったが、あれはおそらくアイスのパッケージだったと思う。 でもそんなことはどうでもいい。 他人の所有物、それも違法駐輪でもなく営業時間中のスーパーの駐輪場に停めた、買い物客の自転車である。 ありえない。 まあ、違法駐輪だろうとなんだろうと、他人のチャリのカゴにポイ捨てしていい理由にはなら

          気が向いたので書いてみる

          教室にて。

          教室にて。 「アオイってさあ、好きな芸能人誰だっけ?」 「あー秋田伊織?知ってる?ま名前はわかるか、ニュースとかも出てたし」 「何年か前に結婚した人でしょ?ニュース見てたよ。子どもとかいんの?」 「知らん」 「え知らないの?好きなんでしょ?」 「でも芸能人としての秋田伊織って人のファンであって、別に赤の他人のプライベートには興味ないから。てかミナミはそういうの気になるタイプ?」 「えそれはもう、ファンだったらプライベートとかも全部知りたい」 「うわストーカー」

          教室にて。

          できればやりたくないことに対する心理的ハードルの高さについて

          大抵のことは4つに分けられる。と思う。 やらなくてもよいが、やりたいこと。 やらなくてはならない、やりたいこと。 やらなくてはならないが、やりたくないこと。 やらなくてよいし、やりたくないこと。 あまり的を得ていないかも知れないが、なんとか言い換えてみると、 趣味。 天職。 面倒。 無駄。 みたいな感じだろうか。 人間、条件さえ整えばやりたいことは放っておいても勝手にやるものだ。だってやりたいんだもん。 やりたくないしやらなくてよいことは、やるだけ無駄なのでやらないと思

          できればやりたくないことに対する心理的ハードルの高さについて

          芸術とエンタメは、分類ではなく概念である

          それは芸術か、エンタメか。 演劇、舞踊、ミュージカル、オペラ、コンサート。 どれが芸術でどれがエンタメか、そんな会話を何度かSNSで目にしたことがある。いわば、芸術とエンタメを分類名として、それらをカテゴライズしようとするような。 非常に難儀なことだとも、果たしてその議論に意味があるのかとも、感じたことがある。 あるとき、こんな考えに至った。 それぞれの作品が、公演が、芸術とエンタメの両方の性質を内包しているのではないか。 そう考えれば、あくまで概念として芸術とエンタメを

          芸術とエンタメは、分類ではなく概念である

          誘えばいいじゃない、断ればいいじゃない

          中高生時代に何度か、と言っても片手に収まるほどだが、親しいクラスメイトにトイレに誘われたことがある。 いわゆる連れションとかいうやつ。 「いや、行かない」 正直他人の用足しに一緒に行く意味がわからなかった。そもそも誘ってくることが謎。 生理現象なんだから、一人で行って当然だし勝手に行って来ればいいじゃないか。どうやら誘いに乗る人もこの世にはいるようで、私にはその人の気持ちは微塵も理解できないが、どのみち預かり知らぬこと。 大学に入って以降、流石にそんな誘いを受けることは

          誘えばいいじゃない、断ればいいじゃない

          夢を見なくちゃやってられない

          子どもの頃、大人になったらもっと世界は良くなると漠然と思っていた。 やっと世の中のことがわかるようになってきた(と自分では思っていた)頃、自分の生きてきた時間が「失われた10年」とか言われて、それがあっという間に20年になり、今に至る。 苦しい経験をすることも、他人の苦しみを想像して辛い気持ちになることも沢山あった。 幸せな出会いも、嬉しい発見も。 そういうことの積み重ねが人生なのだと思う。 その間、社会を見回せば、心は貧しくなり格差は広がる一方である気がする。

          夢を見なくちゃやってられない

          トウシューズで踊る私の足に、ニベアと靴下をください

          子どもの頃からバレエをやっていると、足のトラブルは尽きない(※個人差があります)。 特に子どもの肌は薄くて弱い。 いきなりトウシューズを履くようになると、バレエの技術的なことを抜きにしてもそこに蒸れやすく負荷がかかりやすい状態を強いられるのは事実だ。 トウシューズを履いてバレエを踊る全ての人は、初めて履いたときから今日まで自分に合った足とシューズのメンテナンスを模索し、たどり着いた方法があるのだろうと思う。 私が経験した履き始めのトラブルトウシューズを履き始めた頃は履い

          トウシューズで踊る私の足に、ニベアと靴下をください

          威風堂々は第6番まである

          私は4番と5番が好き式典で流れるメロディを思い浮かべたなら、それは第1番。というか多くの日本人が威風堂々と聞いて想像するものは行進曲『威風堂々』の第1番(の中間部)である。 「それはもう希望と栄光の国でしょ」とか「第4番が好き」とか思う人。 わかる。 「第1番の中間部が有名なだけで威風堂々がそれだけじゃないことくらい、あたり前田のクラッカー」と思った人。 古い。 それは置いといてこれらの人たちはおそらく、一般的にはクラシック音楽に詳しい方に入るだろう。 ちなみに「威風堂

          威風堂々は第6番まである

          「いつか使うもの(家庭用ノコギリ)」を捨てなくてよかった話

          世は大断捨離時代。 ミニマリストが勢力を拡大し、最小限のもので生きる暮らしに憧れを抱く人が増え続けている……のか? わたしの断捨離私自身、人生で何度か断捨離をしたことがある。 と言っても暮らしのリセットみたいなことではなく、主に進学のタイミングで要らなくなった教科書や参考書をまとめて処分した程度のことが多い。 特に中学受験が終わったときは、受験当日夜にネットで合否が発表されるシステムだったため、合格を知った瞬間にパジャマ姿のまませっせと部屋から塾の参考書を運び出しリビン

          「いつか使うもの(家庭用ノコギリ)」を捨てなくてよかった話

          バジルを使い切れないあなたへ

          スーパーでバジルを買ったことがあるだろうか。 縦長のパックに数本入っていて、パックごとラップに包まれてるやつ。 まあそれでなくとも、中途半端な量のバジルならなんでも。 私は何度もある。そして使い切れなかったことも。 カプレーゼとか作ろうとしてなんとか消費しようと頑張ってみるんだけど、結局全部入れたら多すぎるなと思って、微妙な量を余らせてしまう。 で、大してバジルを味わいもしないサラダとかパスタにのっけて終わり。 中学生の宿題みたいに家で育てて、必要なときに葉っぱをちぎっ

          バジルを使い切れないあなたへ

          バレエ界の、2月の勝者

          もう初旬とも言えなくなってきているが、better late than neverということで。 2月の初め頃と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。 まず浮かぶのは首都圏の中学受験。私も経験者の一人だ。 だが最近の私には、この時期を迎えると中学受験の思い出よりも興奮させられる、バレエ界のイベントがある。 ローザンヌ国際バレエコンクール(Prix de Lausanne)である。 ローザンヌ国際バレエコンクール通称、ローザンヌ。 例年1月下旬から2月上旬の約1週間の日程

          バレエ界の、2月の勝者

          二進法で指折り数える方法

          私はよく気を紛らそうとして、二進法で指を折って数を数える。 指の動きが結構激しいので頭の体操になるし、数えているうちに狙い通りいい感じに落ち着いた気持ちになれる。 初めのうちは考えないと正しく数えられなかったが、慣れてくると指を折る順番に法則があってそれが体に馴染んでくるので、今では自然と指が動くようになった。 二進法の数え方ができるようになって何かいいことがあったかと言えば、突然数学が得意になったり運命の出会いをしたりといったことは今のところない。 でも10本の指を

          二進法で指折り数える方法