マガジンのカバー画像

思い出

36
思い出をテーマにした作品を収録してます。
運営しているクリエイター

記事一覧

柏餅

柏餅

 五月四日。子どもの日。午後三時のおやつの時間。本日のおやつは柏餅。一枚の葉っぱにそっと包まれた丸い草餅が子どもの日を丁寧に綺麗にそして素朴に彩る。柏餅を手に取り涎が垂れる口に運んだ。口の中は草餅と粒餡の食感。甘いけれども甘過ぎず上品な味わい。丁度いい味わい。今まで食べた柏餅とも違う味わい。もしかして、これが大人の味?何かしら変化した?噛み締め同時に過去を懐かしむ味わいに変化する。
 小学生の頃は

もっとみる
雛祭り

雛祭り

 後二日で三月三日になる。後四八時間程で雛祭りがやってくる。待ち遠しい。楽しみ。
 幼稚園児の頃は雛祭りが現在以上に楽しみだった。雛人形よりも雛あられを食べられることが一番の楽しみ。雛あられの塩っぱい味が癖で飽きなかった。食べる手が止められない。止まらなかった。 
 小学生の頃。日本人形が登場するホラー映画を偶然目にしホラー系が苦手になる。さらに雛人形にもホラー要素を感じてしまいトラウマ。恐怖の対

もっとみる
猫の日

猫の日

 二月二二日。猫の日。二〇年前の古びて色褪せた一枚の写真を見つける。其処に映るのはもうこの世にはいない彼。一匹で佇む姿。まだ彼が若かりし頃の姿。凜々しい姿に懐かしさと切なさを覚える。
 彼と出逢いは自宅のガレージ。一人遊び中にいつの間にかふらっと現れた。彼に興味津々。少し離れた距離から眺める。彼は人の目を気にせず顔を洗う。前脚を器用に使いこなしゴシゴシゴシゴシ洗う。顔を洗い終わり声を掛けた。「初め

もっとみる
赤ワイン

赤ワイン

 初めて赤ワインを飲んだのは二〇歳の誕生日。赤ワインの瓶がテーブルに出されると浮かれた。子どもの如くはしゃいだ。「これで大人の仲間入り」ワイングラスに赤ワインが注がれるのを見て息を飲んだ。あれほど大人になるのを憧れた。あれほどワインをワイングラスで飲むことに憧れた。だけど実際目の前にすると得体の知れない緊張・不安が心の片隅を燻る。緊張・不安には見て見ぬふりで赤ワインを飲んだ。口内に苦み・甘み・酸味

もっとみる
私と本棚

私と本棚

 其の本棚の時間はいつも止まっていた。其の本棚には同じ出版社、同じ児童小説が多数並べられていた。本棚一面に海外の児童文学(翻訳文学)。不朽の名作。色褪せない宝もの。いつまでも輝く宝石。
 懐かしき本の空気を目一杯吸い込み本棚の前に立つ。今日はどの児童文学を手に取ろうかしら?今日はどの児童文学を読んでみようかしら?一冊一冊本棚から取り出し開く。
 「いつまでも児童文学を保管してるのって子どもじゃん」

もっとみる
心の体温

心の体温

 何年ぶりか「星の王子さま」を読む。前回読んだのはいつだろう?頭の中で年数を数える。前回読んだのは小学生の頃。ゆるりと懐かしさを覚える。当時のことを少しずつ少しずつ思い出し微笑む。
 久しぶりに頁を開く。紙の匂いは埃っぽくて古臭い。王子さまと主人公の邂逅。我が儘な薔薇との喧嘩。そして、別れ。王子様が旅してきた星々。星々に住む変わった大人たち。地球で出逢う狐。蛇。どの頁にも当時の思い出が沢山詰まって

もっとみる
秋の夕暮れ

秋の夕暮れ

 夕暮れ時の気温が下降気味になる。日没するまでの時間が早くなる。もうすぐで夏が終わる。これから秋が始まる。
 小中学生の頃は秋の夕暮れを塾の帰り道で見つけた。一歩一歩歩く毎に夜の闇が深くなった。闇夜を怖がり恐れ帰り道を急いだ。幽霊は信じないが人ならざる者が存在しそうな気がして一人で怯えていた。家に到着した途端安心感で玄関でへたり込んだ。
 高校生の頃は大学受験の勉強帰りで秋の夕暮れを見つけた。運動

もっとみる
最終日

最終日

 あともう少しで夏休みが終わる。あともう少しで新学期を迎える。「今年の夏休みは、どうだったの?楽しかったの?」隣で黄昏れる友人に声を掛けられた。打ち上げ花火の轟く音。微かな火薬の匂い。四年ぶりの夏祭り。幻想的に輝く騒ぐ夜店。どれもこれも色彩豊かに宝石の様に輝く。煌めく。忘れられない、忘れたくない思い出の一粒。大切に大切に宝箱の中に入れそっと鍵を掛ける。いつでも取り出せるように。誰かにいじられないよ

もっとみる
読書感想文

読書感想文

 後一〇日程度で夏休みが終わる。来月になると学校が始まる。九月になると二学期が始まる。だけど、まだ夏休みの宿題が終わらない。ワーク類・日記は全て終わらせた。後残った宿題は自由研究に読書感想文。どっちも一日ですぐに終わりそうにない。小さくて大きな憂うつ。
 読書感想文は題材にする本は迷った末に決まる。本屋さんで新しい小説を買おうか。それともこれまでに読んでお気に入りの小説にしようか。迷いに迷いお気に

もっとみる
打ち上げ花火

打ち上げ花火

 夏祭りのクライマックス。何発もの打ち上げ花火が打ち上がる。雷鳴のような音が響き渡り少し驚く。隣で打ち上げ花火を見上げる彼。彼の瞳をそっと覗き込むと宝石のように輝く。花火よりも綺麗。ボーッと惚れていと彼が気が付き「どうした?何かついてる?」声を掛けられる。慌てて目をそらし「蚊がさっき目の近くを飛び回ってた」顔を赤らめ適当な言い訳で答える。言い訳だってこと、嘘だってことばれてるかも。ばれてないように

もっとみる
思い出の中の夏休み

思い出の中の夏休み

 外の景色から子どものはしゃぐ声。窓を開け声の出所を確認。発見。子どもたちが大声を出し走り回る。「鬼ごっこ?」子どもたちを眺め今朝のニュース番組の内容をゆるく思い出す。もう小中学生の夏休みに入ること。今時の小中学生を見て時代・世代を感じ驚いたこと。かつての夏休みを思い出す。
 小学生の夏休み。夏休みに入りすぐにラジオ体操。毎日。早朝六時。寝ぼけ眼で通う。頭も身体も心も「まだ寝かせろ」文句を垂れた。

もっとみる
夢の住人

夢の住人

 幼き日々。海岸に赴けばそこには、夢の住人がいた。夢の住人は他の大人には姿が見えない。声が聞こえない。存在を確認出来ない。だけど、空想力がある自分には夢の住人の姿が見えた。声が聞こえた。存在を確認出来た。波の音を聞き夢の住人と逢い心ゆくまでお話をした。絵本で読んだ夢見るおとぎの国も。現実の世界で起こった出来事も。ときに面白おかしく笑いながら。ときに、低い声で恐ろしいことを語った。夢の住人と笑い合い

もっとみる
バニラアイス

バニラアイス

 エアコンが効いた部屋でバニラアイスを食べてみる。口に放り込まれたバニラアイスはキンキンに冷えた個体からとろりとした液体へと変貌を遂げる。バニラアイスの個体から液体への変わり様を楽しむ。この食感の変化が堪らない。匂いと味は甘すぎず大人な味が口内にぶわっと広がる。大人な味のバニラアイスの酔いしれる。
 幼い頃にも大人なバニラアイスを食べてみたことがある。幼い頃は口に放り込んだがすぐに吐き出した。経験

もっとみる
天の川

天の川

 七月七日。七夕。「あそこにある星が琴座のベガで七夕伝説の織り姫だね」指し示しながら教えてくれる顔が爽やかで綺麗だ。その顔に優しすぎる性格に惚れ惚れする。声を掛けられるだけで、心拍数が急上昇。頭の中はオーバーヒート。毎回声掛けられるのに返事するだけでも精一杯。本当はもっと話したいのに。本当はもっと側にいたいのに。去った後に「もう少しまともな返事出来なかったの?」「変人に思われてたらどうしよう・・・

もっとみる