見出し画像

両親とすらまともに喋れないアラサー男が、家系図を辿って家族のルーツを調べてみた

北山:俺の「ファミリーヒストリー入門」の記事に感銘を受けて、ルーツ調査に挑戦する人を紹介するよ。

四ツ谷:どうも。

北山:お前か。家族とか興味ないと思ってたよ弟とさえ数年口をきいてなかったんでしょ?

四ツ谷:そうなんだよ。うちの家族って、本当に親戚関係に関心がないみたいで。祖父の葬式にも、ぜんぜん親戚が来なかったんだ。問題児だったんじゃないかってくらい。叔父がいたってことも、叔父が死んで初めて知った。本当に謎のベールに包まれている。

北山:なかなかだな。昔は「血縁」の時代だからね。そこに適応できない人は弾かれたかもしれない。

四ツ谷:それとも、何か一族内で大事件が起きたのかも……。俺は天邪鬼だから、誰も家族のことを語らないなら、調べ尽くして語りまくってやろうって思ってる。生きてる人とはあんまり話さないから、死んでいる人と話そうってね。

北山:逆説的な動機だな。まあ、動機はなんでも良いのさ。これはあくまで知的ゲームだから、感情を乗せるべきではない。
「崩壊した家族の絆を取り戻すのだ!」なんて、死んでも言いたくないからね。
俺たちは、いつまでも押し付けの道徳の授業を放棄し続ける。

四ツ谷:別に崩壊はしてねえよ。

北山:ひとつ、確認しておきたいが、嫌なことが判明しても気にしない覚悟はあるかい?

四ツ谷:うん。どうでもいい。

北山良い答えだ。では、まずは基礎的なところから説明しようか。

これは俺の区分だけど、大きくわけてルーツ調査には2種類あるんだ。いま自分が属している「〇〇家」をたどる家柄重視の「家系調査」と、あくまで血の繋がりを重視して先祖をたどっていく血縁重視の「先祖調査」。

近代以前の日本では養子が当たり前だから、「家系調査」をすると、先祖と血の繋がりがなくなる可能性がある。それが嫌な人は「先祖調査」をする。まあ、好みの問題だね。
※以降、用語は一般的な「先祖調査」に統一。

どっちがいい? ちなみに調べやすいのは前者。養子が入ると、そのたびに調べる家がホイホイ変わるから、けっこう大変なんだよ。

四ツ谷:単純に「四ツ谷家」をたどっていくのが良いかな。最終的に血がつながっていなくても同じ記号(名字)を背負ってることには、親近感がある。

北山:オーケー。では、まずは聞き取りから始めさせてくれ。

最初にやるべきことは、除籍謄本の取り寄せ
除籍ってのは、つまり戸籍の抜け殻。その戸籍に属している人が死んだり、結婚したりして、全員が抜けてしまったものを指す
傍系であれ直系であれ、戸籍上の先祖のものであれば、血縁関係がなくても取得可能なんだ。つまり、養子でも大丈夫。
これで、だいたい明治初年生まれの先祖までは、ほぼ確実に分かる。とはいえ、役所は80年保管したら廃棄する権利があるらしいし、そもそも戦争で燃えている地域もあるから、確実なところは言えないけど。

除籍を取り寄せるには、先祖の名前と本籍地と自分との続柄証明が必要。
一番古い先祖について分かる?

四ツ谷:おじいちゃん。本籍は島根県の隠岐島。行ったことないけど。実は俺の本籍も隠岐島にあったんだよね。なんか不思議な心地がしてた。

北山:隠岐島か! いいね。本籍地が分かれば上出来だ。除籍は取り寄せられる。あとは補助的な情報があれば、なお良いかな。家紋、屋号、菩提寺(宗派)、史料の有無、そのほか伝承。

四ツ谷:家紋はお墓を見ればわかるけど、屋号ってなに?

北山:簡単に言えば家のニックネームかな。昔の庶民は名字を公称できなかったから、家を区別するためにニックネームをつけてたんだ。めんつゆの「ヤマキ」とかも屋号のはず。

四ツ谷:ふーん。分からないな。

北山:分かるところからやっていこう。おじいさんは何してたの?

四ツ谷:会社員。父親もコネで同じ会社に入ってる。

北山:コネの情報はいらないよ(笑)。会社員じゃ手掛かりにはならないな。まあ、とりあえず除籍を取り寄せてみようか。

本籍地の役所のホームページに行けば、記入すべき申請書が見つかる。除籍の取り寄せは一通750円。定額小為替と返信用の封筒を送るんだ。あるだけ取り寄せることになるから、750円×5枚くらい送付して、可能な限り古い除籍まで送ってもらうよう頼むと良い。

申請書には理由を書く欄があるけど、「先祖供養のため、遡れるだけ」と書くことをおススメしたい。怪しまれないようにね。あ、あと定額小為替は郵便局で、平日日中にしか買えないから要注意。

四ツ谷:意外と面倒だな……。まあやってみるよ。

~手続き中~

こんな感じで書類に記入する
ひとまず5通の除籍を取り寄せた

四ツ谷:届いたぞ! 手書きだし、なに書いてるか分からん。

北山:でかした! 除籍からは色々なことが分かるんだ。

例えば城下町出身だと、ほぼ武士か町人に限られる。一概には言えないが、家族構成は大きいほど経済的に裕福な傾向がある。江戸時代に限っては、婚姻関係が広範囲なほど、社会的ステータスが高い。とにかく、家系図に起こしてみるよ。

四ツ谷:おー。これが俺の家系図か。一番前の先祖は富次郎さんっていうんだね。継雄さんは婿養子か。

北山:そうだね。俺の感覚としては、もう少したどれる可能性があるんだけどね。だいたい幕末生まれまではいく。富次郎氏はぎりぎり幕末生まれの可能性はあるが。

四ツ谷:5通申請して5通届いたから、まだ残っているのかもしれない。追加で申請してみるよ。

北山:そうしてくれ。

家系図が出来たら、「親戚の名前」+「地域名」でググること。多少なりとも大きな家だったら、情報が出て来ることがある。この時は「Google Books」が重要。

あと、必須なのは『角川地名大辞典』かな。村の名前で調べたら、どんな村だったのか、村の有力者が誰だったのか、古文書がどこにあるかなどが分かる。ここで有力者だったら調査は簡単だよ。

四ツ谷:おい! Google検索で名前調べてたら引っかかったぞ! 大叔父が考古学者だったっぽい。書籍も出版してる。全然知らなかった……。

研究業績を紹介するホームページで見つけた写真

北山:大叔父って割と近しい気もするけど、ほんとに家族のこと何にも知らないんだな……。
それはともかく、早速のサプライズだ! 四ツ谷憧れの考古学者じゃん! 

生まれは戦前でしょ? この時代に学者になれる人は、当然だが裕福な家の出であることが多い。まあ、だから偉いとかいう話ではないが。

四ツ谷:しかも、台湾生まれのようだね。弟である俺の祖父も台湾生まれだ。

北山:当時、台湾は日本の植民地だったから珍しいことではないよ。「日本国内生まれ」ってことだ。
とはいえ、大叔父のお父さん(四ツ谷のひいおじいさん)、は公務員か会社員か商売人だった可能性があるね。公務員だったら割と検索に引っかかるだろうし、会社員か商売人かな。

四ツ谷:四ツ谷家が台湾に行った理由は気になるな。

北山:上級公務員ならまだしも、日本本土の生活で充足している人は、わざわざ台湾に行かないという見方もある。新天地を求めていたのかもしれない。実際、生活水準はめちゃくちゃ上がるみたいだよ。

四ツ谷:なるほど。そこで良い生活ができて、息子が学者になれたのかもしれない。面白くなってきた。ひとまず大叔父さんの本を読んでみようかな!

北山:さっさと隠岐島でフィールドワークもしたいところだ。

四ツ谷:それにしても、今回は珍しく教師役に徹したな、北山。真面目な記事になっちゃったから、最後に変なこと言ってくれ。

北山:バカンスついでに、おめーん家の墓を参らせろ!! 

四ツ谷:よし、バランス取れた。終わろう。

↓続編はコチラ


北山:1994年生まれ。ライター。本シリーズの案内人。共著に『紫式部と源氏物語の謎』(プレジデント社)。中学時代に先祖調査に夢中になり、そのまま日本家系図学会に入会。その後は大学院で日本近世史・村落史・由緒論を学ぶ。署名は(円)。

四ツ谷:1996年生まれ。学術書編集者。考古学者になろうと思って文学部を受験するも悉く不合格。経済学部に入学し、その後は拝金主義の道を歩む。署名は(四)。


この記事が参加している募集

日本史がすき

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?