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アオハル

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記事一覧

【超短編小説】 桜でジャンプ

【超短編小説】 桜でジャンプ

「ウチらの記念。桜の前でジャンプしよう!」

桜が舞い散る4月、入学式のあの日。

同じ中学に入ったミナと校門にある桜の木の前で写真を撮った。

写真はひどくブレていたが、そこには笑顔の二人が映っていた。

3年後、卒業式。

私は、桜の木の前にいた。

ミナは生徒会長になり、クラスも2年生まで一緒だったが、なんとなく遠い存在になった。

校門の前で桜を眺めていると、ミナがこっちにやって来た。

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【超短編小説】 メロンパン

【超短編小説】 メロンパン

私はメロンパンが好き。

それは、幼馴染のお母さんが経営しているパン屋で売っている。

「いらっしゃい、今日も来てくれたのね」とおばさんは温かく出迎えてくれた。

「メロンパン1つ」

私がおばさんとやりとりをしていると、あいつが店の奥から出てきた。

「また、メロンパン、買いに来たのかよ。うちのパンなんか買いに来んなよ」

あいつは私にそう言うと、おばさんはすぐに咎めた。

「コラ、お客さんに失

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【超短編小説】 電車にピース

【超短編小説】 電車にピース

彼は、いわゆる撮り鉄。

ホームの一番前まで走っては、カメラに電車を収める。

「次は5番ホームに新型車両が入って来るんだ」と、レストランで大好物が出されるかのような顔をする。

私は何が楽しいんだろうと思いながら、いつになくテンションの高い彼を横目に見ていた。

たぶん、今の彼を止めることは出来ない。

私なんかそっちのけ。

彼の目に映るのは遠くから迫りくる銀色の輝き。

ふいに、私は思う。

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【超短編小説】 タイムマシーン

【超短編小説】 タイムマシーン

「斎藤さんの家って、タイムマシーンあるらしいよ」

「マジで、ヤバー。私も欲しいなー」

「スゴイよね。うちもお金あったらなー、タイムマシーン買えるのに」

「タイムマシーンあったら、何するの?」

「うーん、昨日に戻りたいかな」

「昨日?」

「そう。こうやって、二人で話して。しょーもないこと、喋りたい」

「えー、もっと他にあるでしょ。使い方がもったいないよ」

「そうかな。過去なんて、あっ

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【超短編小説】 イクラデモクレテヤル

【超短編小説】 イクラデモクレテヤル

鞄を投げた、海に。

ただそれだけ。

あの中には私の全てが入っている。

でも、もうどうでも良かった。

鞄はプカプカと何処かに運ばれて行く。

誰かに拾われるか、海の底に沈むか。

私は後者に賭けた。

不要な物だ。

あったところで役に立たない。

「イクラデモクレテヤル」

海賊にでもなったような気分だ。

さっきまでの重さが嘘のようだった。

私は大きく伸びをした。

「これで終わりだね

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【超短編小説】 明日には好きになる

【超短編小説】 明日には好きになる

「明日には好きになると思う」

「どういうこと?」

「なんていうか、好きと嫌いが毎日入れ替わるんだよね。だから、今日はちょっと嫌いなの」

「昨日は?」

「どっちでもない」

「その基準じゃ、僕には分からないよ」

「分からないけど、そうなの」

「どうして?」

「理屈じゃないんだよ、こういうのは」

「分かりやすく言って」

「上手く言えないけど。女の子にはそういうことがあるんだよ。そうだ

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【超短編小説】  ダ・イ・ス・キ

【超短編小説】 ダ・イ・ス・キ

「カードには伝えたい言葉を書くの」

お姉ちゃんは私にカードを渡す。

「そのカードを後ろにある差し込み口に入れたら、代わりにロボットが喋ってくれるから。恥ずかしがり屋のユウコでも大丈夫だよ」

お姉ちゃんは5年前、このロボットを好きな人に見せて彼氏が出来た。

だから、私もそのロボットを借りて告白をすることにした。

私は「大好き」と書いたカードとロボットを持って、小野君を校庭に呼んだ。

小野

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【ポエム】 君のこと

【ポエム】 君のこと

そっぽを向いた。

あなたがすぐ近くを通ったから。

後ろ姿を目で追う。

見たいのは君の顔。

でも、勇気が出ない。

いつも窓越し。

俯く視線は靴の先。

でも、本当はその先。

もっと前のはずなのに。

不思議だね。

なんでだろう。

なんか変わっちゃった。

昔はそんなことなかったのに。

心は揺れて、

まだ止まらないよ。

【超短編小説】 第六感的な

【超短編小説】 第六感的な

「私には分かるよ。君のことが手に取るようにね」

佐伯さんは靴箱の近くで振り向き様に僕に言い放った。

突然の出来事に僕は声が裏返り、

「僕の、なっ、何が分かるんだよ」と彼女に言い返した。

「そういう感じ。言葉では言えないけど、そういうところだよ」

「どういうことだよ」

「なんか、あるじゃん。何となくさ。このぐらいの年齢になると、なんか分かっちゃうんだよね」

「僕には分からないよ」

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【超短編小説】 恋花火

【超短編小説】 恋花火

山田のことが気になったのは、体育祭が終わった頃だった。

それまではただの同じクラスメイトで、たまに提出物を職員室に持って行くぐらいの仲だった。

山田には好きな人がいて、そいつの方が俺よりも十分お似合いな気がした。

でも、山田のことが好きだった。

「山田はさ、どんな人がタイプなんだよ」

一度だけ聞いたことがあった。

山田は「急にどうしたの。あんたには教えないから」と少しはにかみながら答え

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【超短編小説】 感情参考書

【超短編小説】 感情参考書

僕は感情参考書を手に入れた。

この参考書を読めば、相手の気持ちが何でも分かると書いてあった。

それをたまたま古本屋で見つけたのだ。

僕はどうしても彼女の気持ちを知りたかった。

最初に好きになった人だからだ。

この参考書を使えば、絶対に理解できる。

そう思っていた。

でも、彼女は言った。

「その参考書では何も分からないよ」

「どうして?」

「そういうものじゃないもの、心なんて」

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【超短編小説】 消しゴム

【超短編小説】 消しゴム

俺は急いでいた。アカネが転校する。

今日は引っ越しの当日だった。

俺は坂道を走り、家の前に辿り着いた。

引っ越しのトラックが停まっている。

「ハアハア、間に合った」

ダンボール箱を抱えたアカネが玄関から出てきた。

「どうしたん?そんな慌てて」

「お前にさ、渡し、渡し忘れてたから」

俺はポケットから消しゴムを取り出した。

「それ、うちが貸した消しゴムやん。もう無くしたんかと思ってた

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