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【小説】コウレイシャカイ

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創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品『コウレイシャカイ』をまとめたものです。各回を更新するごとにこちらの方にも追加していきます。高評価・コメント・フォロー、そして何よ… もっと読む
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【抱き合わせ】創作大賞2023の感想&『コウレイシャカイ』あとがき

【抱き合わせ】創作大賞2023の感想&『コウレイシャカイ』あとがき

 以前から私の記事を読んでくださっているあなたはお久しぶりです。本作『コウレイシャカイ』を機に私を知ってくださったあなたははじめまして。中山翼飛です。

 今回の記事はタイトルの通り、先日応募期間が終了しました創作大賞2023への私見と、私がイラストストーリー部門へ応募しました小説『コウレイシャカイ』のあとがきを一つの記事にまとめたお得なセットとなっております。そのため、「お前の小説なんか知らねえ

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【小説】コウレイシャカイ 最終話(創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品)

【小説】コウレイシャカイ 最終話(創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品)

 体術、技術、思考力。それらに長じるサラディンの攻撃は始皇帝を着実に追い詰めていき、彼は家康が遺した薬品を打ち込むタイミングを窺っているようだ。サラディンを妨害しようとする兵甲達は葛野が排除していく。

(これを知られればやつの能力で燃やされるだろう。チャンスは一回だけだぞ、サラディン!)

 始皇帝は既に息切れを起こし、市内各地に放っているせいか兵甲を新たに現出することもしない。サラディンの斬撃

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【小説】コウレイシャカイ 第十三話(創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品)

【小説】コウレイシャカイ 第十三話(創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品)

「······敵はチャンスをあげるといいつつ街中で戦いを起こすことで人々の死への恐怖を煽り、自分達の目的を達成するつもりです」

 フレイヤが言うと葛野は舌打ちし、

「だがやるしかねえだろ。絶対に止めてみせる」

 その言葉にサラディンは重々しい声色で、

「私があのとき、あいつを止めていればこうはならなかった。だが私は不死などには興味が無いし、自由を与えられたなら戦わない選択だってできると思っ

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【小説】コウレイシャカイ 第十二話(創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品)

【小説】コウレイシャカイ 第十二話(創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品)

「······logオと∫ジュリエットdxですよ。タイトルだけで面白いじゃないですか!絶対生で観たいって思ってたんです!だからいいタイミングで戻って来られました!」

 助手席で興奮気味に話す赤髪の少女の話を、フレイヤはただ黙って聞くことしかできない。本当だったら、その少女だって友だちと一緒にその劇に出ていたはずなのだから。

「監視役っていっても、わたし悪いことしないって約束します。だからフレイ

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【小説】コウレイシャカイ 第十一話(創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品)

【小説】コウレイシャカイ 第十一話(創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品)

『世界中の人々が降霊者に、ですか······面白いことを仰いますね。使い方次第ではこの国が抱えている様々な問題を解決できるかもしれません』

 アカツキ市が降霊者の位相間現象による戦乱に脅かされてから二日。電話の向こうの支倉が穏やかながらも一物ありそうな表情を浮かべているのを確信した富寿満は低い声で、

「それで、審議の結果は?」

『失礼、気を悪くしないでいただきたい。現状降霊研究は非常に有用性

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【小説】コウレイシャカイ 第十話(創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品)

【小説】コウレイシャカイ 第十話(創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品)

 銀の甲冑に身を包んだ騎士が和の鎧を纏った武士と鍔迫り合いを演じ、その脇から金の兜を被った戦士に斬られて霧散する。位相間現象同士の激しい戦闘から少し外れた場所、開戦地から数十メートル離れた道路の真ん中で銃を構える葛野は、引き金を引けずにそっと腕を下ろした。

 あの金髪の研究者が掲げた『誰も死なせない』という理想はもう崩れた。元来葛野は、例え罪の無い被験者を殺してでも降霊者を止めるべきだという立場

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【小説】コウレイシャカイ 第九話(創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品)

【小説】コウレイシャカイ 第九話(創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品)

 階段を一気に駆け上がり、扉を開け放つ。デジャヴのような行動だが、今度は一人ではない。富寿満が派遣してくれた治安部隊の隊員達が赤い上着と白いビョルク帽の兵士達を倒し、いくつもの銃口でスレイマンを囲んでいるのだ。その中心に立つ鹿嶋は禿頭の男を睨みつけ、正面から言葉を突きつける。

「ここに来るまでにいろんな人が死んでるのを見た。いろんな人が殺されかけているのを止めた······あんたの兵士にだ、スレ

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【小説】コウレイシャカイ 第八話(創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品)

【小説】コウレイシャカイ 第八話(創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品)

「牛丼買ってきたんですけど、今何人いますか?」

 美味そうな匂いが立ちこめる箱を両手で抱えているフレイヤが尋ねると、治安部隊の隊員達が歓声を上げた。彼女に続いて同じく牛丼の箱を抱えた鹿嶋も本部に入ってくる。

「悪いな、バイフィールド博士、鹿嶋少年。今本部にいるのはわたしを含めて三十五人だ」

「じゃあ余裕で足りますね。一応五十個買ってましたから」

 富寿満に応えてフレイヤと鹿嶋はテイクアウト

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【小説】コウレイシャカイ 第七話(創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品)

【小説】コウレイシャカイ 第七話(創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品)

「······ってことがあって、絶対あたしのこと意識してるじゃんって思わされたらすぐにやっぱそうじゃないかもってことが起きるんです。もう訳わかんないですよ!」

 バスを降りながら磯棟はまくし立てるが、宮沢は一言も文句を言わずに静かに話を聞いてくれた。『市営団地前』という何の捻りも無いバス停の傍では既に人だかりができており、治安部隊が規制線を張って市民に逃げるよう言い聞かせているが効果は皆無だ。

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【小説】コウレイシャカイ 第六話(創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品)

【小説】コウレイシャカイ 第六話(創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品)

 箕篠麻衣が通う高校の学園祭は文化祭と体育祭を三日間にまとめたもので、八クラスで構成された各学年から一クラスずつ集まった合計八つのブロックが優勝を争う。体育の部のブロック演技は特に配点が高く、学園祭期間はほぼ毎日練習時間が設けられるのだ。そのため生徒達は午前の授業が終わると各ブロックの色をベースとしたデザインのブロックTシャツに着替え、一時間半ほどの午後の練習が終わると制服に戻って下校したり部活に

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【小説】コウレイシャカイ 第五話(創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品)

【小説】コウレイシャカイ 第五話(創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品)

「鹿嶋くん!」

 ホテルの屋上で戦況を見下ろしていたフレイヤは、黒髪の高校生が大型モニターの前を突っ切って落下していくのを目にして思わず叫んだ。鹿嶋は重たい音を立てて歩道橋の上に叩きつけられ、ピクリとも動かない。

(またなの······?また私は、誰かを死なせたの?)

「フレイヤさん」

 膝から崩れ落ちそうになるフレイヤを、隣で位相間現象の映写機の調整作業に勤しむエディソンが呼び止める。

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【小説】コウレイシャカイ 第四話(創作大賞2023•イラストストーリー部門応募作品)

【小説】コウレイシャカイ 第四話(創作大賞2023•イラストストーリー部門応募作品)

『今日は何かあったの?明日は三年生がブロックCMを撮りに来るから、衣装を持って来てね!』

 下校中のバスの車内、磯棟実理はとうとう学校に戻ってこなかった鹿嶋陵平へのメッセージを打ち終わった。後は送信するだけなのだが、その指先にはまだ迷いがある。

(そっけなさすぎかな?逆に踏み込みすぎ?何かあったことなんて明らかなんだけど、具体的に何があったかは知りたいような知りたくないような······という

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【小説】コウレイシャカイ 第三話(創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品)

【小説】コウレイシャカイ 第三話(創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品)

「今からわたしに降りるのは、一体誰なんですか?」

 そう尋ねる被験者の少女は、リクライニング式の柔らかな椅子に深く腰掛けていた。彼女の声色にも表情にも不安は一切無い。尋ねたのは純粋な好奇心からだろう。専門外の人間に純粋な好奇心を向けられると無条件に嬉しくなってしまうのだから、やはり自分は研究者気質だ。フレイヤはいまさら実感して少し気恥ずかしくなる。

「さっきも言った通り、『誰』っていう特定はで

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【小説】コウレイシャカイ 第二話(創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品)

【小説】コウレイシャカイ 第二話(創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品)

 熱の塊を押しつけられているような炎天下、睡眠不足の鹿嶋陵平は重い教科書類が詰まったリュックを背負って階段を四階まで上りきり、教室へ入る。鹿嶋の通う高校は、自由な校風と文武両道を特色と言い張るいわゆる自称進学校だ。だから八月を十日ほど残したまま授業を始めるし、大学について生徒にやたら調べさせる。だが夏休み明けの約三週間は学園祭シーズン。この期間だけは皆課せられた勉強から逃れ、貴重な青春を満喫するこ

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