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きのう、なに読んだ?

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日々読んだ本や長文記事などの、読んだ部分について紹介と感想をメモします。
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2019年8月の記事一覧

『モモ』は傾聴とリーダーシップの書だった | きのう、なに読んだ?

『モモ』は傾聴とリーダーシップの書だった | きのう、なに読んだ?

『モモ』を久し振りに再読した。

『モモ』を初めて読んだのは小6の時。中学入試の面接の待ち時間に読む本を買おうと、書店で偶然手に取ったものだ。以来約40年、大切にしてきた。今も本棚のトップポジションに置いてある。

この物語の世界では、人々はゆったりと生活を楽しんでいた。世間話をし、自然に親しみ、子どもたちは空想にふけっていた。しかし、時間泥棒がいつのまにか人々の間に忍び込み、「時間を節約して貯蓄

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「良い形で本に出会えれば、人は読む」という暗黙の前提(Beloved by Toni Morrison) | きのう、なに読んだ?

「良い形で本に出会えれば、人は読む」という暗黙の前提(Beloved by Toni Morrison) | きのう、なに読んだ?

トニ・モリスンの代表作 Beloved を読んだ。

内容紹介を日本語版のAmazonページより引用させていただく。

元奴隷のセサとその娘は幽霊屋敷に暮らしていた。長年怒れる霊に蹂躙されてきたが、セサはそれが彼女の死んだ赤ん坊の復讐と信じ耐え続けた。やがて、旧知の仲間が幽霊を追い払い、屋敷に平穏が訪れるかに思えた。しかし、謎の若い女「ビラヴド」の到来が、再び母娘を狂気の日々に追い込む。死んだ赤ん

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レナード・バーンスタインと家族ぐるみで付き合った無名の日本人 | きのう、なに読んだ?

レナード・バーンスタインと家族ぐるみで付き合った無名の日本人 | きのう、なに読んだ?

読み終えた瞬間、スタンディング・オーベーションしちゃった本。家族がいて、拍手はちょっと小さくなっちゃったけど。これです。

本書の主題は、レナード・バーンスタイン。音楽を、人を、人生を全力で愛した、20世紀を代表する音楽家。残した膨大な資料は、米国議会図書館に寄贈された。そこにあるのは、例えば、妻フェリシアからの手紙がフォルダー3つぶん。バースタインから妻への手紙もフォルダー3つぶん。著者は、資料

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アメリカの高校生は授業で「文学」をたくさん読まされる(Beloved) | きのう、なに読んだ?

アメリカの高校生は授業で「文学」をたくさん読まされる(Beloved) | きのう、なに読んだ?

2019年8月5日、トニ・モリスンが亡くなった。1993年にノーベル文学賞を受賞した、アメリカの作家だ。黒人を主人公にした作品が多い。

トニ・モリスンは、小説のほかにもエッセイや詩も書き、人種問題、人権問題について積極的に発信してきた。その発言は知性と良心とあたたかさにあふれ、「ならぬことは、ならぬものです」という強さも感じさせた。たとえば、こちら。

In this country Ameri

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日系アメリカ人俳優、ジョージ・タケイの強制収容体験(They Called Us Enemy) | きのう、なに読んだ?

日系アメリカ人俳優、ジョージ・タケイの強制収容体験(They Called Us Enemy) | きのう、なに読んだ?

アメリカのマンガ「They Called Us Enemy」を読んだ。ジョージ・タケイが太平洋戦争中に経験した、日系アメリカ人強制収容のことを中心にした回顧録だ。

著者のジョージ・タケイは、日系アメリカ人の俳優だ。私の世代の人なら、テレビシリーズ「スタートレック」のスールーだと言えば分かるだろうか。宇宙船エンタープライズ号のパイロットだ。ウィキペディアには、日本語吹替版では役名は「カトー」になっ

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社会は「慣習の束」でできている (『日本社会のしくみ』)| きのう、なに読んだ?

社会は「慣習の束」でできている (『日本社会のしくみ』)| きのう、なに読んだ?

『1940年体制』を読んだ流れから『日本社会のしくみ』の前半と、いったん真ん中を飛ばして終章に目を通した。これは、大好きなタイプの本だわー。Kindleでハイライトしてたら、終章なんてほとんどハイライトになってしまったじゃないか。

本書の狙いは、ざっくり言うと、こういうことだ。

本書が検証しているのは、雇用、教育、社会保障、政治、アイデンティティ、ライフスタイルまでを規定している「社会のしくみ

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稀な人(『岩田さん』) | きのう、なに読んだ?

稀な人(『岩田さん』) | きのう、なに読んだ?

「岩田さん」とは、任天堂前社長の岩田聡さんのことだ。4年前、胆管腫瘍のため55歳の若さで亡くなった。

本書は、岩田さんが生前、「ほぼ日刊イトイ新聞」に登場したコンテンツと任天堂社の「社長が訊く」から、岩田さんの語ったものを抜粋し編集したものだ。だから、内容だけで言えば、今もウェブで無料で読める。でも、この本にはお金を出す価値があるし、ウェブ記事より長く読み継がれる可能性もある。「編集」が本書の価

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『1940年体制』 ー 働きかたのアップデートは、戦時体制からの脱却

『1940年体制』 ー 働きかたのアップデートは、戦時体制からの脱却

『1940年体制』は1995年出版。2010年に最後の11章が加筆された。1995年時点での金融制度、経済官庁の体制や税制、企業の仕組みは、どれも1940年前後につくられた戦時体制をそのまま踏襲していることを、シンプルかつ丁寧に論じた本だ。

増補版の前書きに、こうある。

刊行時から日本社会は大きく変貌した。経済体制についても、大きな変化が生じた。したがって、これらについて述べた本文中の記述は、

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