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たいせつ

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大切にしたい文章などを集めています
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人を殺そうと思ったことがある

人を殺そうと思ったことがある

人を殺そうと思ったことがある。

たった一度だけ。心の底から「殺してやる」と思っていた。それは突然芽生えた感情だった。

相手は兄だった。小さい頃は仲良く遊んでいた。

一緒にゲームをしたり、一緒に近所の大学生の家に遊びに行ったり、一緒におじいちゃんに連れられて散歩をしたりもしていた。あまり覚えていないが、その頃はきっと兄のことが好きだったんだろう。

でもいつからか、兄のことが嫌いになっ

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休職期間中の記録⑨仕事をしてない自分を支える信念/生まれた時からみんな迷惑かけてる

休職期間中の記録⑨仕事をしてない自分を支える信念/生まれた時からみんな迷惑かけてる

土曜日にフジテレビで放送していたTHE SECONDがおもしろくて、M‐1のとてつもない緊張感のある盛り上がりとはまたちょっと違うんだけど、芸歴の長い人たちの貫禄や想いや熟練の漫才にもM-1に近いくらい感動した。
翌朝、youtube musicでM-1アナザーストーリーの各回の主題歌のプレイリストを作って、それを聞きながらnoteを書いている。ハンバートハンバートの「虎」は名曲である。

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がんばっている人が報われる、はちょっと辛い。

がんばっている人が報われる、はちょっと辛い。

「がんばっている人が報われる組織がいい」

かつて勤めていた会社で、ひとりのメンバーが話していたことだ。当時は、ぼくも同感だった。がんばって成果を出した人が報われる。高いポジションに就けたり、報酬が高くなったり。そういう仕組みがあるのが良い組織なんだと。

会社だけではなく、ぼくが通っていた学校でも「がんばっている人が報われる」という価値観は通念だった。勉強や部活で何か成果を出したいならば、がんば

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大切な人がする大切な人の話。

大切な人がする大切な人の話。

大切な人がする、大切な人の話をきくのがすきだ。たとえば友達がしてくれる恋人や親友の話は、自分と一緒にいるときの友達とはすこし違った一面を垣間見ることができておもしろい。

先日、あかねさんが書いたエッセイをよんだとき、まさにそう感じた。

その話を書いたあかねさんとは、ライティングスクールで出会った。わたしにとっては頼れるお姉さんだ。不安な気持ちをぶつけると、応援の言葉を返してくれる、強い味方のよ

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金魚 #かくつなぐめぐる

金魚 #かくつなぐめぐる

 仕事帰り、電車を降りて改札を出た瞬間、駅前のロータリーの様子がいつもより色めき立っているのが分かった。街灯の下ではしゃぐ男子学生たち。植込みの横で話し込む浴衣姿の若い男女。父親に叱られながらも、走り回るのをやめない黄色いTシャツの女の子。その手首に吊るされたヒモの先には、透明の小さなビニール袋があった。袋を満たす水の中でキラリと光る朱色の影に、私はやっと、今日が地元の夏祭りだったことに気付く。

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いまわたしは、靴ひもを結び直している。

いまわたしは、靴ひもを結び直している。

だれかと並んで歩いているとき、靴ひもがほどけることは稀にある。

そういうとき、わたしはその場に立ち止まり、上体をかがませ、急いで靴ひもを結び直す。その間、隣を歩いていた人は前へと進んでいる。わたしは結び終わると、小走りでその人へと追いつく――。

わたしは今、靴ひもを結び直しているのだと思う。

今年の1月末につとめていた会社をやめて、そのあと転職した先は、3か月でやむを得ず辞めることになった。

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いつまで経っても、わからない

今日友人と呑んでいて「人に興味がありますよね」と言われた。
確かに、ある。

その抽象的なことばは、何を意味しているのか。振り返って思ったのは、「どこまでいっても、人は分からん」「でも、分からんけど、掘っていくのは面白い」と言う2つのやや矛盾する認識を持ち続けることだと思う。

誰かの話を聞いて、その人を理解することは面白い。聞くほど、「仮説」として「こう言う人なのか」というイメージは深まっていく

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飛び立つタイミングを失った蝉

飛び立つタイミングを失った蝉

今年に入って、まだ蝉の鳴き声をきいていないように思う。転職してから、東京の真ん中にいる時間が長かったからだろうか。それとも、6月からはじまった突然の暑さに飛び立つタイミングがわからないのだろうか。

飛ぶタイミングは重要だ。蝉には下界で過ごせる期間がたった1週間しかない。ここぞというときを選びたいのだろう。それは6月下旬では、時期尚早なのかもしれない。

夏生まれのわたしは、もうすぐ25歳になる。

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「気持ち短めで」と言いがちな人間

「気持ち短めで」と言いがちな人間

1ヶ月半ぶりに髪を切った。美容室帰り特有の、ほんの少し薬品っぽくも心地いい香りが、鼻腔にまだ残っている気がする。髪がいくらか無くなって、突如として始まった猛暑のこもるような熱気も軽減された。

「気持ち短めで」       

椅子に座り、「今日はどうしますか」と訊かれると、おおよそこのように答えている。魔が差して、大幅に短くしたくなる日を除いては。年に数回訪れるこういう日は結局のところ、散髪後に

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「コーラはかき混ぜるとうまい」 それが伯父のさいごの言葉だった。 【KUKUMU】

「コーラはかき混ぜるとうまい」 それが伯父のさいごの言葉だった。 【KUKUMU】

「おじさん」と発音できなかったのか、周りの大人がそう呼ばせたのか、きっかけは覚えていないけれど、小さい頃、私は伯父のことを「おいちゃん」と呼んでいた。

母の兄で、四十代半ばになっても独身のまま、親元を離れなかったおいちゃん。天然パーマで体格が良く、四角いメガネレンズの奥の目付きは鋭かったから、一見なかなか怖そうに見える。実際、口も酒癖も悪くて喧嘩っ早かった。
だけど姪っ子・甥っ子にあたる私と弟に

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写真の重み

写真の重み

スマホのストレージの空き容量が無くなろうとしている。

昨日、数時間かけて写真やメールの断捨離をしたというのに、残りの容量はあと3GBしかない。

正直、想定外だ。

スマホを買う時は、余裕を持って256GBのものを選んだ。容量のことで悩みたくないからだ。それに、写真だって無駄に撮らないようにしている。動画なんて特に、容量がデカいから節約してきたつもりだ。

それなのに、僕のスマホはもうパンパンな

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夢の国での夕暮れ

夢の国での夕暮れ

ディズニーランドで迎える夕方は面白い。

朝早くから入場して歩き回り、ようやく方向感覚が掴め、ざっくりとした地図を思い描けるようになった頃、街灯に明かりがともる。シンデレラ城もほかのアトラクションもライトアップされて、昼間とはまた違った様相を見せてくれる。

目当ての乗り物には大方乗れた充足感と、もう迷うことなく歩けるという安心感。その二つを抱きながら、ふたたび新鮮な気持ちで夢の国を楽しめる。それ

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シナモンロールは、うさぎですか。

シナモンロールは、うさぎですか。

「シナモンロール」というサンリオキャラクターを、ご存知だろうか。

長く垂れた耳を持つ、うさぎのような姿をしたキャラクターで、その体は二頭身で真っ白い。瞳は淡い水色をしており、その水色が彼(シナモンくんは男の子)のイメージカラーだ。白いおしりにくっつくしっぽは、その名に冠する「シナモンロール」のパンのようにくるりと巻かれていて、なんともかわいらしい。

……やってみて思ったのだけど、人外の、それも

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違いを認め合える仲こそ。

違いを認め合える仲こそ。

相性のいい人について考えている。

一般的に「相性がいい人」とは、価値観が同じであったり、近しかったりする人のことを指す。趣味が合うとか、金銭感覚が似ているとか、笑いどころが同じであるとか。

それを否定するつもりもないし、納得する部分もあるのだが、必ずしも同じであったり、似ていたりする必要はないと思うのだ。むしろ「違い」があって当然で、その違いを認め合える仲こそ「相性がいい」と呼ぶのではないだろ

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