見出し画像

神の草の集落まで、キリマンジャロ方面の丘

神の草の集落まで、無人の高速道路を時速二〇〇キロで走る。タクシーはナイロビの西、キリマンジャロへの方角に向かっていた。二〇〇キロの速度は雨雲のなかに入る。巨大な雨粒たちが目前に出現しては容赦なくフロントガラスを叩く。雨は上からではなく前方から降ってくるのだ。

道のりはまだまだ残されている。神の草により召喚される神を見るまであと何時間もある。雨雲から出ると、一時停車した。運転手が外に出て口笛を吹いた。うつらうつらしていたぼくも外にでる。

丘の上だった。白くけむって見えない下を見つめて、霧が晴れていくのを待っていると、緑が広がった。山の下の起伏の緑に、白骨死体のような飛行機の残骸が見えた。そりゃ、あんなところに墜落したら片付けも大変だろうからな、と思う。

丘の上、断崖のギリギリに立つ。ギリギリであればあるほど、意識が空に羽ばたいていくような心地になって透明のエアクラフト。丘の上から山の裾の起伏の緑へと滑空すれば、翼の先に虹の円ができている。

勢いよく旋回して起伏の緑から、遠くサバンナのらくだ色の上空まで飛び、粒のような動物の大移動を眺め下ろす。動物たちの大移動に沿って上空を飛んでいると、神の草の集落は次回にして、今回はこの丘でいいんじゃないですか? と運転手はとなりで伸びをした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?