山田 たかし

これは、私の心のほんの一部

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紹介系エッセイのお手本(仮)

諸君は、「もみじ饅頭」なる食べ物をご存じだろうか。カエデの葉の形をして、中に餡やらカスタード、チョコクリームやらがぎっしり詰まった、あの饅頭である。私は縁あっ…

山田 たかし
1か月前
1

1700

               序  家が少し揺れて、聞いたことのあるミュージックホーンが流れてくる。    揺れが止んだ。また耳に高音が走り始めた。畳みかけたシ…

山田 たかし
5か月前
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認める 後編

 遂に軍勢が東国を出立する日になった。私が所属する搦手軍は、箱根の山々の北を通り、伊豆の足柄峠を越えて駿河の沼津の方面へと進む道を取ることとなった。沼津まではめ…

山田 たかし
7か月前
1

認める 前編

 頃は寿永三年。鎌倉殿から、木曽義仲殿の上洛以来の横暴を止めよという命が下った。鎌倉殿からすれば、義仲殿は従兄弟にあたるわけで、軍勢からもどよめきが起こった。し…

山田 たかし
7か月前
1

或る書状

 こんな書状が届いた。  ――私は彼の、無造作に前髪を散らし、眼に涙をためて俯いて座っている様子が今でも忘れられません。この男はいきなり、「僕には君を幸せにでき…

山田 たかし
8か月前
4

横笛⑤

 結局、二人の再会は叶わず、涙に暮れたまま横笛は往生院を後にした。   滝口はその後ろ姿を見届けながら、使いの者を呼んだ。 「ここ、往生院では世離れした静けさの中…

山田 たかし
10か月前
2

横笛④

 宮中の外に出るのは出仕し始めの頃以来であった。  春なりはじめの梅津の里、横目に見つつ、過ぎてゆく。梅の香りも今はただ、慰みにさえ、つゆならず。二人で見ていた…

山田 たかし
10か月前
2

横笛③

 その頃横笛は、今日も今日とて宮中で忙しく働いていた。  滝口が悄然れていたあの日以来、横笛は片時も彼の事を忘れずに待ち続けていた。だが、彼がやって来る気配は一…

山田 たかし
10か月前
2

横笛②

 翌朝、滝口は身なりをいつも以上に整えて出仕した。遠目に見える帝の竜顔や、同じ詰所で勤める同僚の顔を見て、涙が数行流れた。  無事に最後の仕事を終え、その日の夜…

山田 たかし
10か月前
3

横笛①

 高野の山には金剛峯寺という、弘法大師が開いた真言宗の総本家たる寺がある。そこに、頬はこけ、手足は牛蒡のように痩せ細った、あらまほしき一人の僧が修行をしている。…

山田 たかし
10か月前
3

どくはく

「独白」というのは、『日本国語大辞典』によれば、「①芝居で、登場人物が心中の思いなどを観客に知らせるために、相手なしで、ひとりでせりふを言うこと、また、そのせり…

1

桧山

この話は私山田がアルバイトをしている和食屋の店主から聞いた話である。今から三〇年ほど前のお盆の頃の話だという。  店主は夕方の営業を終え、その時一緒に営業してい…

4

やる気

 夏休みの何でもない日の話である。その日は雨が終日降っていた。  私は、起床してからすぐに、小学館の日本古典文学全集「平家物語」の巻五を読んでいた。源平合戦の様…

夢十夜創作②「第二八〇夜」

 こんな夢を見た。  四辺(あたり)一面、暗闇が広がっている。時々、どこからともなく微かな声が聞こえてくるばかりで、それも何を言っているのかが判然としない。まる…

夢十夜創作①「第五・五夜」

 ※この作品を読まれる前に夏目漱石大先生の著作、「夢十夜」を読まれることを強くお勧めいたします。特に「第五夜」に関連する部分が多いため、それだけでも読んだ上で、…

はじめに

 男も女もすなる「のをと」といふものを、我もしてみむとてするなり。  申し遅れたが、私の名前は山田である。今まで大きな挫折を1つもせず、何不自由ない人生を享楽し…

紹介系エッセイのお手本(仮)

紹介系エッセイのお手本(仮)

諸君は、「もみじ饅頭」なる食べ物をご存じだろうか。カエデの葉の形をして、中に餡やらカスタード、チョコクリームやらがぎっしり詰まった、あの饅頭である。私は縁あってこの饅頭に出会ったのだがもう首ったけで、危うく主食の座に君臨しかけるほど食べまくっていた。だから、並大抵の人には負けないくらい、もみじ饅頭に関する知識を持っている。

そこで今回は、僭越ながら、もみじ饅頭の正しい食べ方を伝授させて

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1700

1700

               序

 家が少し揺れて、聞いたことのあるミュージックホーンが流れてくる。  
 揺れが止んだ。また耳に高音が走り始めた。畳みかけたシェフパンツを膝の上に置いて座ったまま、目の前の姿見鏡を何ということもなくじっと見つめる。鏡の向こうの私も、私をじっと見つめている。
 その眼に映る私は、どうやら涙を流しているようだった。その顔を見て、大事な何かを思い出せない、ということを

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認める  後編

認める 後編

 遂に軍勢が東国を出立する日になった。私が所属する搦手軍は、箱根の山々の北を通り、伊豆の足柄峠を越えて駿河の沼津の方面へと進む道を取ることとなった。沼津まではめいめいで向かうことになったから、相模の屋敷から、庭に咲き始めた梅の花を手折って、する墨に乗って出発した。
 あの日、鎌倉殿からする墨を賜ったあの日、豪奢な厩に入り、改めてする墨と対面した。その時はすぐ隣の「生けずき」が頂けなかったことに腹の

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認める  前編

認める 前編

 頃は寿永三年。鎌倉殿から、木曽義仲殿の上洛以来の横暴を止めよという命が下った。鎌倉殿からすれば、義仲殿は従兄弟にあたるわけで、軍勢からもどよめきが起こった。しかし、棟梁の命令は絶対である。源氏方の武士として、従わない訳にはいかぬ。
私は、搦手の軍勢として、九郎義経殿のもとにつくこととなった。搦手は南の宇治の方から回って京へと向かう。逢坂の関を越えて、京の東側の粟田口から上洛する大手に比べれ

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或る書状

或る書状

 こんな書状が届いた。

 ――私は彼の、無造作に前髪を散らし、眼に涙をためて俯いて座っている様子が今でも忘れられません。この男はいきなり、「僕には君を幸せにできない」と言ってきました。彼は少し前から世に言う「浮気」をしていたようなのです。
 彼とは、大学に入学した直後に入会したバドミントンのサークルで出会いました。同じ学部で、趣味や音楽の好みが似通っていたこともあり、すぐに意気投合いたしまして、

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横笛⑤

横笛⑤

 結局、二人の再会は叶わず、涙に暮れたまま横笛は往生院を後にした。 
 滝口はその後ろ姿を見届けながら、使いの者を呼んだ。
「ここ、往生院では世離れした静けさの中、勤行することが出来ていました。ですが、こうして彼女に今の住まいを見られてしまいました。今回こそ、自分の想いを抑えることが出来ましたが、次彼女がやって来た暁には、遁世者の戒めを破ることになりかねません。ですので、ここを離れることにいたしま

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横笛④

横笛④

 宮中の外に出るのは出仕し始めの頃以来であった。
 春なりはじめの梅津の里、横目に見つつ、過ぎてゆく。梅の香りも今はただ、慰みにさえ、つゆならず。二人で見ていた月明かり、今は一人で眺め行く。桂の川の水面月、何故かぼやけて朧気で。大堰の川に行き着けば、流れる水は涙のよう。並々ではない恋煩い、一体誰のせいだろう・・・・・・。
 横笛は何とか嵯峨の山に着いた。往生院とは聞いたものの、どこの坊とも分からな

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横笛③

横笛③

 その頃横笛は、今日も今日とて宮中で忙しく働いていた。
 滝口が悄然れていたあの日以来、横笛は片時も彼の事を忘れずに待ち続けていた。だが、彼がやって来る気配は一塵も無かった。
 ――悄然れていたし、身の上に何かあったのではないか。いや、もしかしたら違う女の人のもとへ行かれたのかもしれないわ。いやいや、あれだけ一途に私の事を思ってくださって、言葉にもしてくださったのだから、それはないわ。でも――。横

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横笛②

横笛②

 翌朝、滝口は身なりをいつも以上に整えて出仕した。遠目に見える帝の竜顔や、同じ詰所で勤める同僚の顔を見て、涙が数行流れた。
 無事に最後の仕事を終え、その日の夜も横笛のもとへと向かった。彼女はいつもの通り部屋に迎え入れ、今日あった事を語る。滝口は笑顔で返事をするが、朝から別の事に頭が捕らわれていて話が殆ど入ってこなかった。
 別の事、とは、昨日の父の勘当に関しての事だった。彼は、想い人と添い遂げら

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横笛①

横笛①

 高野の山には金剛峯寺という、弘法大師が開いた真言宗の総本家たる寺がある。そこに、頬はこけ、手足は牛蒡のように痩せ細った、あらまほしき一人の僧が修行をしている。
 彼の名を、滝口時頼という。彼は今や人々から「高野聖」と呼ばれ、尊ばれている。何も、最初からこのような呼ばれ方をしていたわけではない。そこには深い所以があるのである。

 滝口は遁世前、宮中の警備役として出仕していた。あの平治の乱の立役者

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どくはく

どくはく

「独白」というのは、『日本国語大辞典』によれば、「①芝居で、登場人物が心中の思いなどを観客に知らせるために、相手なしで、ひとりでせりふを言うこと、また、そのせりふ。ひとりぜりふ。モノローグ。②転じて、ひとりごとを言うこと。また、そのひとりごと。」とされています。ここでいう「独白」は概ね②にあたるかと思います。まあ、読者の皆さんの前で相手なしに私がひとりで語るわけですから、①にもなることでしょう。今

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桧山

桧山

この話は私山田がアルバイトをしている和食屋の店主から聞いた話である。今から三〇年ほど前のお盆の頃の話だという。
 店主は夕方の営業を終え、その時一緒に営業していた店主の弟の一郎と、従兄弟の直樹と共に店の客席で麻雀をしていた。夕方の営業が終わったのが午後十時頃で、そこから十局ほど打っていた。その局では店主が立直をツモって上がった。次局を準備しようとしていると、「こんばんは。」と出入り口の方から声が聞

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やる気

やる気

 夏休みの何でもない日の話である。その日は雨が終日降っていた。
 私は、起床してからすぐに、小学館の日本古典文学全集「平家物語」の巻五を読んでいた。源平合戦の様々な戦いのうち、「富士川の戦い」辺りの話である。この巻は、「文覚」という不思議な僧が登場したり、平家滅亡への微量ながらも不穏な雰囲気が漂ったりしていて、なかなか面白い展開であったため、いつもより多く読み進めてしまった。
 古典文学を読むのに

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夢十夜創作②「第二八〇夜」

夢十夜創作②「第二八〇夜」

 こんな夢を見た。
 四辺(あたり)一面、暗闇が広がっている。時々、どこからともなく微かな声が聞こえてくるばかりで、それも何を言っているのかが判然としない。まるでトンネルの中で叫んだ時に聞こえるような声である。ただ、なんとなく賑やかな声だということ、それだけは分かっていた。
 自分は心細くなって、その声のする方へ叫んでみた。しかし、何も返ってこない。そもそも自分から声が出ていたのかすら不確かであっ

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夢十夜創作①「第五・五夜」

夢十夜創作①「第五・五夜」

 ※この作品を読まれる前に夏目漱石大先生の著作、「夢十夜」を読まれることを強くお勧めいたします。特に「第五夜」に関連する部分が多いため、それだけでも読んだ上で、この作品を読んで頂けるとより楽しめるようになっております。

――はっと目が覚めた。
 何でも余程酷い夢を見た後のようで、寝汗をびっしょりかいていた。内容こそ思い出せないものの、悪夢を見たという感覚だけが残り、もう一度眠ろうとしても、なかな

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はじめに

はじめに

 男も女もすなる「のをと」といふものを、我もしてみむとてするなり。

 申し遅れたが、私の名前は山田である。今まで大きな挫折を1つもせず、何不自由ない人生を享楽してきた・・・・・・はずだった。今は辺境の地にて1人暮らしをせかせかと営む一般大学生である。大学での授業や、提出せねばならない課題はそっちのけで、この「note」に逃げてきた。これはかつてフロイトやその末娘アンナの提唱した「防衛機制」の1つ

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