記事一覧
生土礼賛 (うぶすならいさん)展
第1章 土の誕生
わたしは土。
わたしは土。太古の昔からこの星にある。実を言うと、この星が生まれるまえからわたしは存在していたんだ。わたしは宇宙に漂う、たくさんのいろんな物質だった。それがぶつかりあって、くっつきあって、星になったんだ。物質たちは溶けて、冷えて、固まって、砕けて、流れて、混ざり合い、積み重なり、大地が生まれた。わたしは命をはぐくむ大きな土台となった。そして命は、最後にまたわ
ロンドン遠吠え通信 Vol.8
さて、最終回は作品の扱い含め展覧会作りについての差異を書いておきたいと思います。
ロンドンでの展覧会の設営時のこと。すでに予算ギリギリのため、メディアプレイヤーに接続するUSBスティックを節約しようと、シンガポール人のチームメイトがメンバーに私物の供出を呼びかけました。私の持っているものはデータ読み込み時にピカピカ光るので使えないと言ったら、「ぜんぜん問題ないよ、天井近くに置くんだから誰も見ない
ロンドン遠吠え通信 Vol.7
ロンドン留学中の筆者がキュレーティングにおける文化的差異など考える本連載ですが、筆者はめでたくロイヤル・カレッジ・オブ・アートを卒業しました! というわけで、この連載もラスト2回となりました。
今回は「アーティスト・キュレーター」について。
こちらではキュレーティングにおいて、作る人(作家)と集める人/見せる人(キュレーター)の区別を見直す試みがしばしば行われます。ヘイワード・ギャラリーが主催
ロンドン遠吠え通信 Vol.6
「この作品の意味は何ですか?」
という質問って困るよねー、と作家に言われて、そうだねーと同情することがこれまで何度かありました。学芸員も作品の「意味」をストレートに聞かれると一瞬固まったりもします。まあ、一般の方はいいとして、ジャーナリストでそういう質問する人はもっと頑張ってくれるといいなと思っていた。留学するまでは。
しかしこっちに来たらこのストレートな質問はデフォルトだったのでした。作家は
ロンドン遠吠え通信 Vol.5
ロンドン留学中の筆者がキュレーションにおける文化的差異について考えてみている連載です。
今回は、先月フリーズに出展されたユナイテッド・ブラザーズの作品について書きたいと思います。<このスープ、アンビバレントな味がする?>と題されたこのパフォーマンスは、ユナイテッド・ブラザーズ(荒川医・智雄)によるもので、彼らのお母さんが福島で採れた野菜を使ってスープを作り、来場者にふるまうというもの。
最初に断
ロンドン遠吠え通信 Vol.4
ロンドン留学中の著者がキュレーションにおける文化的差異について考えてみている連載です。今回は議論の文化について。中国、広州出身のクラスメート、インティンが論文の授業でこんな質問をしていました。「もし教授や偉いキュレーターにインタビューして、自分の意見と違ったとき、そのことを書いてもいいものでしょうか?」。先生方の答えは当然イエスで、クラス全体がそりゃそうよ、というムードが漂う中、私だけ「わかる、そ
もっとみるロンドン遠吠え通信 Vol.3
ロンドン留学中の筆者がキュレーションにおける文化的差異について考えてみている連載です。第三回はコレクションの文化について。なんかこっちって家の中の様子が違う・・・と気づいたのは、クリスマスに招かれたとあるお宅にて。家の廊下や部屋の壁におびただしい数の絵画が飾ってあります。プロのものともアマチュアのものとも判断がつかない絵画群に、一緒に居た聡明なクラスメイト、ネフェルティティは「ちょっとどうかな?と
もっとみるロンドン遠吠え通信 Vol.2
ロンドン留学中の筆者がキュレーションにおける文化的差異について考えてみている連載です。第二回はライティングの授業で考えたことについて書きます。
プレスリリースの、テキストと画像の分量が、日本とは逆かもしれない。ライティングの一環として行われた「プレスリリースの書き方」という授業で、ゲスト講師のコリン・ミラード(注1)が配布したサンプルの中、写真があるのは約半数。そしてあっても一つのプレスリリ
ロンドン遠吠え通信 Vol.1
序
「ロンドン遠吠え通信」は、拓殖響(さぼ)さんと坂口千秋(さかぐ)さんの、日本アート業界におけるセルフメディアの草分け的メールマガジン「Voidchicken nuggets」に、2014年から翌15年にかけて連載された、私のロンドン留学記である。
日本の公立美術館に12年勤めた後、2013年秋からRoyal College of Art、Curating Contemporary Artコ
”よりよい表現”が連れてくる暴力について
2021年3月24日、「表現の現場調査団」の調査結果が報告された。これは国内で初めて美術や演劇、映像、文筆業などの表現の現場で横行するハラスメントの実態を調査したものだ。「自分は関係ない」と思う方にも一読をおすすめしたい。加害者として突然訴えられ、社会的地位を失うリスクの度合いを測ることができるだろう……などと書いたなら扇情的に響くだろうか。
しかしながらこの調査の一つの大きな目的は、表現の現場