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しょんぴん版 THE短編集

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短編
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クロズミさん 京都八木

クロズミさん 京都八木

【6870文字】

それは赤穂浪士が討ち入りして18年後、江戸幕府は開府100年を越え、江戸市中ではめ組の人が威勢よくマトイを振るいながら、大岡越前守が咎人と善人を正確に選別しつつ、与謝蕪村が五七五に世界を封じ込めながらも、徳川吉宗が贅沢を毛嫌いしていたその頃。享保3年、西暦1718年、今から300年以上も前のこと。
江戸から遠く離れ、京の都から更に峠をひとつ越えた所に、その八木村はあった。園部藩

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福山浄化町奉行所改め帖

福山浄化町奉行所改め帖

【12635文字】

『コンビニ絶叫騒動の巻き』
  〜第1話から第4話まで一気掲載〜

【第1話】

ーーーーーーーーーーーーーー
今日も福山浄化町奉行所の目が光る。
街にはびこる諸悪を許しまじと、
正義と人情のお裁きで天晴一件落着!
ーーーーーーーーーーーーーー

 日が傾き頬をなでる風がキンと冷え込み始めて来たこの季節、晴れ渡り澄んだ空気は遠い峰々の稜線もくっきりと、遠近感を無視したような近

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半可通ループ(彼女の粉)

半可通ループ(彼女の粉)

【2864文字】

どのくらい経っただろう
ふと気付くと
僕は暖かな陽を浴びながら
電車に揺られている事に気付いた
座席に座っているらしい
少しウトウトしている
僕をよく知っているという女性と
並んで一緒に座っている様だが
僕には彼女が誰だか分からない

その女性は背中に大きな荷物を抱え
シートへは浅くしか座れていない
辛そうだ
彼女をもっと辛くしているのが
その手にしているものだった
何か茶色い

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昼行燈の経済論

昼行燈の経済論

【9130文字】

昼行燈とはよく言ったもので
間口の狭い店の脇に赤ちょうちんが
風に吹かれて暇そうにぶらぶらと揺れている
果たして明かりは灯っているのか
この晴天の昼過ぎには分からない

暖簾が出されてるところを見れば
どうやら昼の2時でも開けてる店の様だ
高架線の方から熊五郎はいつものように
肩をすぼめ申し訳なさそうにやって来て
恐る恐る暖簾を両手で分けると
その奥の引き戸をそっと開けて入って

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正偽の見方

正偽の見方

[9764 文字]
◆怒り氏がやって来た。
見るもの触れるもの全てをけなし、全てに怒声を浴びせ、完膚なきまで怒りの対象を叩きのめす、というのが氏の印象である。そんな風に怒り氏の事を遠巻きに見ている御仁は多かろう。しかし怒り氏が常に怒っているかと言えばさすがにそうではない。氏の中ではちゃんと怒りの矛先を選別しているという。少なくとも本人はそう思っている。しかし残念ながらその表情は常時眉間にしわが寄り

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ガーのチカラ

ガーのチカラ

[3705文字]

この2か月程度、ほぼ毎日午後8時ごろ妻と共に50分程度のウォーキングをしている。コロナ禍で世界が閉塞している中で、例外なく僕らもまた閉じこもり気味となり、気分転換と運動不足解消という名目で始めたのだ。平たく言えばつまり、コロナ太りで緊張感のなくなった腹を見るに見かねて、思い付きで付け焼刃の運動を始めたという訳だ。付け焼刃だし、やめて誰かに迷惑をかけるわけでも無し、三日坊主でもい

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イアン・ミッチェル回顧

イアン・ミッチェル回顧

[2579文字]
僕が中学校の時にビートルズを超えたという触れ込みで世界を席巻したバンドがあった。
そのベイシティローラーズは同級生のリエちゃんのハートを完全に鷲掴みにしたらしく、日々を追うごとにビートルズ派の僕と対立の溝を深めていた。

そんな年の熱い夏の日、
プールの授業が終わって僕は校庭の真ん中を横切る様に歩いて校舎に戻っていた。
そこへ背後遠くから、
「エスエーティーユーアール ディエーワ

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松井昌平 プロフィール

松井昌平 プロフィール

【 松井昌平プロフィール 】

1963年3月26日生まれ。
2024年の誕生日現在61歳。
広島県福山市出身。 (ホントは岡山)

1981年に上京し甲斐バンドのローディーとして現(株)シンコーミュージック・エンタテイメントに所属したが、甲斐バンドが独立したためそのまま(株)ビートニクに所属。人脈だけ作り早々に辞める。
1988年頃より作曲家として個人で活動。ロッテや政府広報、シチズンなど

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シャボン

シャボン

[4423文字]

天気の良い初夏の昼下がり。僕は営業車で比較的新しい分譲建て売りの団地に行っていた。客と約束していた時間より少し早かったので、まだ何も建っていない空き地の前に車を停め、深くため息をつきながらシートベルトを外し、ここぞとばかりにゆったりと座り直した。
今日も殺人的な暑さだと思った。

ふとフロントガラスの前をキラキラと半透明の玉がふわふわと横切るのを見つけた。シャボン玉だ。見回すと

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インドの神髄

インドの神髄

[2721文字]
#小説 #短編

「インド人の作るカレーが必ずしも旨いとは限らぬ。」
「はぁ?」
弟子はまたこの師匠妙な事を言い出したなと思った。
「もしくは、カレー好きのインド人だからこそ、他所のカレーは食えぬという場合もある。」
自分の頭と椅子の背もたれを同時に抱え込む様にして座っていた弟子は、ここに来た事を少し後悔し始めていた。
「なんの話ですかそれ、僕はただ女心が分らないと言ってるだけ

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黒犬

黒犬

[3066文字]
#小説 #短編

 一人と一匹が「さようなら」をしようとしていた。

「そろそろさようならだね。」
「でもまだ、もう少し・・。」
彼女の言葉がつまった瞬間、意志とは裏腹にひとすじの涙が頬を走った。不安がらせないように頑張っているつもりでも、やはりもう会えなくなると思えば我慢など出来るものではない。
「もう一回一緒に散歩が出来たら・・。」
彼女はあわてて言葉をつなげようとした

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四次元飴

四次元飴

[3521文字] #小説 #短編

「何もかも卒業してはならぬ。」
と師匠は酸っぱい顔をしながら言う。
「へぇ〜、じゃぁ僕はいつまでたってもハンパなまんまじゃないですか。」
弟子はそう言いながら、コイツ大丈夫か?といぶかった視線を師匠の横顔と、自らの腕時計へせわしく送った。師匠はこの弟子の視線に気付いたが、知らぬ顔で腕を組み昼下がりの明窓を見据えながら重々しく言う。
「卒業無き修行にこそに、人生の

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イトー君

イトー君

[2453文字] #小説 #短編

ぃと・・・
伊藤君?
伊藤君かな…?

ぁのォ~ っちょっと失礼しま・・
ぉぉおお~っ! 伊藤君じゃないか!!
やっぱ伊藤君だ!
そうだと思ったんだよ
こんな所で会うとはなぁ!
元気にしてたのか?
見た感じあんまり変わったように見えないが
・・ずいぶん苦労もしたみたいだなぁ
でもまぁまぁ元気そうで良かった!
ぁそうだ時間あるかい?
立ち話もなんだから
ちょっ

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巣立ち

巣立ち

[3681文字] #短編 #小説

まだ免許を取れない中学の頃から母親に、
「あんた、オートバイだけは乗りたいって言わないねぇ」
と先手を打たれ、 まだションベン臭かった僕はまんまと、
「あんなものには興味ネェよ」
と言わざるを得なくなっていた。しかし当時当然ながらバイクに興味のない高校1年生などこの世に居る筈もなく、僕は十六才の誕生日を迎えた途端、そういった行きがかり上仕方なくこっそりと

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