マガジンのカバー画像

詩集”poèmes"

6
運営しているクリエイター

記事一覧

固定された記事
詩集[poèmes]について

詩集[poèmes]について

詩集[poèmes](ポエムス)は2020年、ドイツ人陶芸家Tina Kentnerと合同で開催した<poems & pottery> (詩と陶芸) 展で発表された作品をまとめた詩集です。

当時の二人の活動・生活拠点であった京都の身近な自然や季節の移り変わりをインスピレーションに、バッググラウンドや創作ジャンルの違う二人の世界観が交差しました。⇨ note マガジン exhibition "po

もっとみる
イエールのサンセット

イエールのサンセット

昼の残りのクスクスとドレッシングをさっとかけたトマト
フランボワーズが隠し味に効いたライス・サラダ
食後の温かい紅茶

遠浅の海をあっという間にかけていき
インクのにじみみたいになった
子供達の影

薄いピンクから水色、グレーのグラデーションを描きながら
ゆっくりと暮れていく、イエールのサンセット

まだ暖かさを残した砂浜
淡い色合いの中に浮かんでいる白いヨット
強くなりはじめた夜風など
ものとも

もっとみる
早朝のギフト

早朝のギフト

閉じられた日々の中で
日常は静かに循環していた。

外から人が来なくなったとて
人々が一時この街を忘れ去ったとて
我々の日々は進んでいく。

密集していた人や車の数が減り、
以前より静かな日々にはなったけれども…

2020年は確かに例年と違うことも多かった。
毎年人でごった返す、桜が満開の川辺は
細々と花見客が歩いているだけだったし、
真夏の日差しが降り注ぐ、早朝の大通りも
往来がまばらで空いて

もっとみる
Endoumeの朝

Endoumeの朝

雨戸の隙間から
夜明けの気配が漏れ出る
テラスから見える
仄かな青い、海と空

海沿いの街灯と集合住宅のいくつかの明かり
海辺の道路をもくもくとランニングする人につれられ
半ば勢いで外へ飛び出す

一歩一歩踏み出すごとに
白み始めた空が
じゅわり、じゅわりと
暁の朱に染まる

海沿いの道を過ぎ去っていく車たち…
一日はもう始まっている

車の切れ目を縫って
向いの通りへ
海に背を向けて、丘の階段を

もっとみる
とある港町

とある港町

石のアパートに挟まれた狭い路地
早朝の清浄な空気
光はまだ届かず
濃い影が落とされる

どん突きに
海の青が見える
ここからは眩しさにはほど遠い

彼方のきらめきと
足元のざわめきの
両方に引っ張られるように
一つしかない体は
もどかしげに歩を進める

背の高い扉
勇壮な細工を誇るファサードは
経年や排気ガスのために煤け
それが何とも言えぬ
この街のルーズさを代弁している

きまぐれに通りを曲がり

もっとみる
テラス

テラス

帰国前の最後の日曜
明と美礼はどちらが声をかけるでもなく
連れ立って出かけていった

午後の広場は
春を先取りしたような陽気に包まれ
冬ごもりをしていた人々が
陽光とビールを求めて集まっていた

冬場はなかなか太陽が姿を現さない
降り続ける雨がハタとやみ
雲の切れ目から一瞬光が差すと
通りでも市電での中でも
人々は一瞬動きを止めて、空を見上げる
そして見知らぬ者同士でも
顔を見合わせながら微笑み合

もっとみる