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黄昏どきのスーべニール
プロローグ
あの夜は夢だったのだろうか。
愛し子の柔く少しく汗に塗れた髪の束を指ですくって彼女は部屋の内側の夜に目を向ける。申し訳程度に開いた子供部屋のドアから射し込む廊下の明かりが部屋に少うしだけ陰影をつける。上から二段目の取っ手の引き具合に多少のがた付きの見える子供向けの衣裳箪笥、その横にポンと無造作な風体で置かれている、近所の量販店で購入したような渋い辛子色のカラーボッ
井戸の外の蛙、梅雨待ち帰る。
例年ならばもうそろそろ梅雨の足音が聞こえて来ても良いようなものを、関東地方は梅雨を越して夏本番と相成ってしまったような陽気が続き、本当に今後この星はどうなってしまうのだろうと分不相応な心配をせずにはいられないし、夏のない国に住みたいほどに暑さに弱いのでわたしの中の千代の富士が「体力の、限界…っ!気力もなくなり…!」と涙している今日この頃ですが、昔はこのくらいの時期になるとカエルがね。
幼少のみぎ
自棄っぱちのエゴティスト
我が家は初夏から本番の夏に掛け、身動きの取れないお家柄です。
まずもって飼い主のわたくしが夏バテを起こしやすく、炎天下の中外出すると秒でノックアウトされること。
それともう一つ、我が家にはミニチュア・シュナウザーの十々丸(ととまる)と言う犬がおりまして、いつの間にやら齢も八歳と相成ったのですが、幼い頃からお留守番訓練を散々頑張ったにも関わらず、多分これはもうこの子の生まれついての性分なのでしょ
哭けば井戸からかはづ来る
幼い頃に住んでいた借家は瀟洒な造りの二階建てで、当時の己の体の小ささも相俟ってか大層見映えのする一軒家であった。
否、実際大きくはあったのだろう。敷地面積で三百坪と耳にしたように思う。何処まで本当なのか、取り壊されてしまった今となっては全く判じ得ない話ではあるのだが。
外観は、緑色の屋根に少し乳色の掛かった白い外壁だったように思う。前方には小ぶりな丘と壊れた噴水跡のある芝生の敷かれた庭。家を囲むよ
ネオ・ロマンチックラブイデオロギー
先日仕事の休憩時、雨が降り降り中庭で食事が出来ず仕方なく、休憩室に赴いたところたまたま休憩時間の重なった同僚のおタケちゃんとご相伴、おや奇遇、なんつって彼女の隣の席に落ち着きまして、ふ、と横を見れば彼女わたしの読まないような女性雑誌を開いており、しかも覗いて居るページの内容ときたら『読者1000人に尋きました!ド・キ・ド・キ★わたしと彼のセックス事情』みたいな題名がまるまっちいフォントででかでかど
もっとみる蛹化の女〜ストーカーにあった知人の話〜
兼ねてよりの知人でSNSをやっているSと云う者が居り、その彼から聞いた話である。
Sの幼なじみで同じくSNSをやっている彼の友人Mがフォロワー達と飲み会を開いた。五月のことである。その日は梅雨入り間近で天候も思わしくなく、体調不良で会社を長期休暇していたSは惜しまれつつも飲み会を辞退、思惑とは反してSNS内でカリスマ化してしまって居るSなのであるからして、彼の飲み会不参加に他のフォロワー達は相当
海中の栗を拾う/揺れる娘/渡り鳥の休息。
土曜日の花水川河口、丘サーファーの溢るる中で、遠目に見ても小学校三~四年の男児、波に乗る様が群を抜き、粋でいなせで見目麗しく、見蕩れたり、波打ち際の三人娘、三人三様重量級な肥満体、肉も揺れろと勇ましく、はしゃぐ姿を呆ッと見たり。大磯まで防波堤沿い、歩いて端まで行き着いて、波打ち際で呆として。湿気を含んだ砂の上、踏みしめ踏みしめ平塚へ。戻りまた、防波堤に座って音楽止めて、銀河鉄道の夜を読んで胸沁み込
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