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〈身内びいき〉は、いずこも同じ。 : 「第5回本格ミステリ大賞」予想

旧稿再録:初出「アレクセイの花園」2005年5月10日、14日】

※ 再録時註法月綸太郎先生、第5回本格ミステリ大賞受賞、おめでとうございます! …今更ですが)


いよいよ、来る5月13日に「第5回本格ミステリ大賞」(本格ミステリ作家クラブ主催)の選考会が行われ、法月綸太郎『生首に聞いてみろ』の受賞が「確定」する。

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……というのは、もちろん皮肉で、「同書の刊行前」から(連載も読まずに)「そうなる」と予測した、私の「予言」の当たり外れがハッキリする、というわけである(笑)。

ちなみに、私の予想では、「小説部門」は前述のとおり法月綸太郎の『生首に聞いてみろ』、「評論・研究部門」は天城一の『天城一の密室犯罪学教程』が受賞。

その理由をおさらいすると、「本格ミステリ大賞」を主催する「本格ミステリ作家クラブ」は、笠井潔・法月綸太郎・巽昌章の三人が中心となって立ち上げた批評家集団「探偵小説研究会」が、「新本格」系の作家などに呼び掛けて設立した団体であるため、その中心人物の一人たる法月綸太郎にとって「本格ミステリ大賞」は、もともと有利に出来ているからで、その事実は、笠井潔が『オイディプス症候群』などで「第3回本格ミステリ大賞」をダブル受賞した段階で、歴然たる事実として、すでに「衆目の一致するところ(暗黙の了解)となっている」ということだ。
ともあれ、詳しくは、

・「笠井潔が、真に望んだこと。」

・「『2004 本格ミステリ・ベスト10』の舞台裏」

などの拙論をご参照いただきたい。
(※ どちらも本稿再録時リンク切れ。後日再録の予定)

なお、「評論・研究部門」での『天城一の密室犯罪学教程』の受賞を予測する理由は、もともとこの作品は、法月綸太郎『生首に聞いてみろ』、綾辻行人『暗黒館の殺人』に次いで、「小説部門」のダークホースになる作品として、私がその名を挙げていたからである。

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『天城一の密室犯罪学教程』は、半分が「理論編」の論文、半分が「実践編」の創作からなる本で、『このミステリーはすごい!』(以下『このミス』)や『本格ミステリベスト10』(以下『本ミス』)あるいは『週刊文春ミステリーベスト10』では「創作」本として、ベスト投票の対象となっていた本である。

ところが、この「本格ミステリ大賞」では、都合の良いことに「評論・研究部門」に回されたしまったのだ。

つまり、この「配慮」は、法月綸太郎や綾辻行人の受賞の妨げにならないよう、この本を「小説部門」からはずし、その代償として「評論・研究部門」で賞を与える(=丸め込む)ためになされたものだ、と容易に推察できる。

また、このことを、はらぴょんさんは、候補作発表段階の本年1月31日、当「花園」への書き込み(「人はそれを既視観と呼ぶ」)で、

>  ※ここで、「ほほう、そうきたか」と思ったのは、『天城一の密室犯罪学教程』が、評論・研究部門にノミネートされているが、小説部門にはノミネートされていないということです。

>  ※小説部門でノミネートされなかったのは、評論・研究部門で大賞を与えるためではないか。仮に、小説部門でもノミネートされていたら、一位 ・二位にはならないが、組織票の票割れを起こす可能性があるのではないだろうか。

と語っていた。

そんなわけで、本日は「第5回本格ミステリ大賞」受賞作の妥当性を考えるための資料を、ひとつ提供したい。
ミステリマニアのサークル「SRの会」の会誌『SRマンスリー』の本年3月号に発表された、SRの会の「2004年度ベストテン」投票結果である。

SRマンスリー

(※ 画像は、1992年4月号)

一一なお、「国内ミステリ」篇については、投票者数47名。8票以上の得票があれば有効で、その平均点で順位が決まる。(※ 「◎」が「第5回本格ミステリ大賞」候補作

1. 『愚か者死すべし』
     原尞 7.25(16)
2. 『臨場』 
     横山秀夫
 7.19(16) 
3. 『紅楼夢の殺人』
     芦辺拓 
 7.04(23) 
4. 『生首に聞いてみろ』
     法月綸太郎
 6.94(35) 
5. 『追憶のかけら』
     貫井徳郎  6.91(11)
6. 『百鬼徒然袋 風』
     京極夏彦  6.90(10)
7. 『名探偵 木更津悠也』
     麻耶雄嵩  6.89(19)
8. 『ほうかご探偵隊』
     倉知淳   6.86(14)
9. 『アルファベット・パズラーズ』
     大山誠一郎 6.84(19)
10. 『さよなら妖精』
     米澤穂信  6.93(12)

14. 『螢』
     麻耶雄嵩
  6.75(24) 

18. 『犯人に告ぐ』
     雫井脩介  6.63(8)

23. 『硝子のハンマー』
     貴志祐介  6.57(23)
24. 『イニシエーション・ラブ』
     乾くるみ  6.56(16)

31. 『暗黒館の殺人』
     綾辻行人
  6.35(31) 

まず、最初に断っておくと、SRの会は、その昔「本格の鬼」が集ったと言われたほどのサークルなので、善かれ悪しかれ「本格ミステリ」には、強いこだわりを持った会員が揃っている。だから、「本格の力作」と評判のとった作品は、多くの会員に読まれるという傾向がある。

その意味で、第1位に輝いた原尞の『愚か者死すべし』は、いわゆる「私立探偵もの」ではあるが、「本格」としても優れていたということが、この結果からうかがえよう。
しかし、『愚か者死すべし』は、昨年末に刊行されたもののため、昨年末にアンケートの実施された『このミス』や『本ミス』の対象とはなっておらず、ここでの議論でも「対象外」としたい。

さて、見てのとおり、SRの会のベストテンでは、「第5回本格ミステリ大賞」の候補作は、僅差で『臨場』『紅楼夢の殺人』『生首に聞いてみろ』の順番となっており、そこからすこし落ちて『螢』、さらにぐっと落ちて『暗黒館の殺人』という結果になっている。

得票数を見ていただけばお分かりのとおり、『このミス』や『本ミス』などで「本格の傑作」と評判を取った作品は、多くの会員に読まれている。

ところが、『本ミス』で第2位だった綾辻行人の『暗黒館の殺人』の順位がハッキリと低いのは、結果としてこの作品が「本格」マニアの期待を裏切った、ということなのであろう。
このあたりの否定評価は、「第5回本格ミステリ大賞」の予選でも問題となったところであった(「『暗黒館の殺人』は、本格としては凡作ではないのか」という疑義)。

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また、『このミス』『本ミス』で断トツの1位だった『生首に聞いてみろ』が、僅差とは言え、『臨場』と『紅楼夢の殺人』に遅れをとっているという事実も、注目すべき点だ。

一一で、すでにお気づきの方もあろうが、このベストテンには『天城一の密室犯罪学教程』が入っていない。
なぜかというと、SRの会のベストテンでは、年来、候補作品を「長篇・連作短編集」「短編集」「評論その他」の3つに区分しているため、「連作短編集」ではない『天城一の「密室犯罪学教程」』は、「長篇・連作短編集」部門から外れて、「短編集」部門に入ってしまったからである。だが、その得票結果はというと、

『天城一の密室犯罪学教程』天城一 7.25(16)

で、もしも「長篇・連作短編集」部門に入れられていたら、断トツの第1位だったのである。

これは、SRの会会員の「本格マニア意識」をモロに反映した結果ではあるのだが、こういう作品が「本格ミステリのための賞」を標榜する「本格ミステリ大賞」で、法月綸太郎や綾辻行人の「ひさびさの長篇作品」が、有力候補に挙がった時に、この賞でのみ、「評論・研究」部門に回されたというのは、とても興味深いことだと言えるのではないだろうか。

なお、私が、横山秀夫の『臨場』が「第5回本格ミステリ大賞」を受賞したら、その時は「逆立ちで世界一周をする」と公言していることも、再度、申し添えておこう。

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一一私のこの自信は「横山秀夫は、新本格系の作家ではなく、本格ミステリ作家クラブでは外様だ(よって、冷や飯を食わされるだろう)」という認識から来ているのである。


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人それを出来レースとも呼ぶ 
 投稿者:園主  投稿日:2005年 5月14日(土)01時01分15秒

 ★ みなさま
「第5回本格ミステリ大賞」の投票結果を入手したので、ご報告いたします。
――ほぼ予想どおりですが、どうぞご参考になさって下さい。

【小説部門】

『生首に聞いてみろ』    19票
『紅楼夢の殺人』      17票
『暗黒館の殺人』      13票
『蛍』            7票
『臨場』           3票

【評論・研究部門】

『天城一の密室犯罪学教程』 16票
『子不語の夢』       13票
『探偵小説と日本近代』    2票
『名探偵ベスト101』    2票

本日は、速報まで。

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