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短編小説

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記事一覧

短編小説 無味

短編小説 無味

「ねぇ、ねぇ。」
「何?」
彼女は氷を噛み砕きながら返事をする。
「今、やってるゲームでさ、共感覚って出てきてさ」
「あれだろ。数字に色が見えたり、味がしたりするやつ」
「それそれ!それでさなんとなく愛ってどんな味がするのかなって思ったんだよね。」
「発想がおかしい」
彼はニヤリと笑う
「暇つぶしに良いでしょ。それに愛の味がわかったらポテトチップス愛の味とか商品出たりしてさ、面白いじゃん」
「はぁ

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短編小説 スノードーム

短編小説 スノードーム

あの日、私は声をあげて泣いた

彼は泣いている私を抱き締めた

一番辛いのは彼なのに

泣きつかれていつのまにか寝ていた私は、過去に戻っていた

タイムスリップしていた

これは神様がくれたチャンスだと思った

でも、実際は悪魔が作った罠だった

私はずっともがいている

何度も繰り返して

理想の世界を作る為に

朝日がカーテンのない僕の部屋を照らす

光の刺激で目を覚ました僕は簡単に目玉焼きと

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短編小説 ハロウィン

短編小説 ハロウィン

ジャック オー ランタンは生前の堕落した行いに、よって死後の世界にいけなくなってしまった姿だとテレビかなんかでやっていた気がする。

その姿は、まるで今の僕みたいだと現実逃避的に考えていた。

まさに今、天国(自宅)の門(チェーン付きドア)は閉ざされていた。
門番(妻)の怒りをかったからだ。

自分の行い(仕事だと言っていたが友人と飲んでいたのがバレた)のせいだとして、ランタンの代わりにスマホのバ

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短編小説 dark

短編小説 dark

少年は幽閉されていた
小さな格子と鉄の扉しかない空間で地に両手足をつけ、うずくまっている
少年は明日には処刑される
しかし、少年は処刑を恐れていなかった。少年は人間ではなくなっていたのである。
竜の血と肉を食べていた為、首を跳ねられても死ぬことはない。そして、その事はこの国はしらない。
ではなぜ少年はうずくまっているのか。
それは竜との契約のためであった。
竜は姫を拐い、姫の影武者をしていた少年に

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短編小説 人生

明日の12時に僕は死んでしまう。
知ったのは一週間前だった。
知った時から僕の人生が始まった気がした。
死を怖がって泣きたい気持ちもなく、ただ、したいことを始めた。
明確な区切りは安心をもたらしてくれる。
人生の終わりに気づいたのはそれくらいだった。
食べたいものを食べて、笑いたい時に笑う。
殴りたい奴を殴って、むかつく奴に大声で文句を言った。
僕は人間から解放されたモンスターになった気分で町を歩

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短編小説    豆腐

短編小説 豆腐

ある長屋に

一人の男の子がいた

男の子は最近あることが気になって仕方がなかった

それは豆腐であった

毎月決まった日に長屋の前に

一丁の豆腐が置かれる

父親も母親も

「「親切なお方もいるもんだ!」」

と言ってたいして気にしてはいなかった

しかし、男の子は違った

気味が悪いし、いったいどんな人が置いているのだろうか

気になって、気になって仕方がなかった

そして、ついに男の子は

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短編小説  私

短編小説 私

私が悪魔だったら

みんなが悪魔だ

私が天使だったら

みんなが天使だ

私が人間だったから

みんなが人間だった

小さな粒が私を作って

小さな匂いを発してる

柔らかな日だまりなんで見たことがないから

人間の証明はできないけど

消えそうな手の平じゃ

なにも遮ることができない

だから私はあなたに聞いてみたくなったんだ

「私は何?」

あなたは不思議そうな顔をスマホに写して

「さぁ

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短編小説 死霊

土手を犬と毎日、散歩する

健康的だと言われるが精神的には

不健康極まりないのだ

歩いても歩いても心は晴れない

犬の散歩が日課だった

今は僕の日課になっている

妻がよそ見をした車に引かれた……

この散歩中に……

だから散歩が僕の日課になった

そして

妻が引かれた時と同じ道を毎日歩いている

なぜ?

分からない

いや、

本当は分かってる

死んだ妻に今もすがっているのだろう

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灰谷魚さんの「7歳の騎士」トリビュート作品(777文字)

この世界は破滅する。私たちはあちこちの土地を知り、人を知り、文化を、物品を、品性を知った。そして、世界の行く末が滅び以外無いことを知った。長い時間をかけて世界は年寄りばかりになり、老人は自分より少しでも年若い者を幼児として扱う習性を持っている。誰もが祖父母で誰もが孫になってしまう。だがその孫たちも次々と死んでいくだろう。病によって。老衰によって。悪意によって。老人の上に老人が折り重なる。その光景は

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短編小説 生き霊

寂れた駅で

喉が乾いて自販機の前に立った

今日は散々だった

イライラを通り越してモヤモヤと頭が熱い

自販機で炭酸系を探していると黒い缶が目についた。

生き霊が見えるようになるミエールz

死霊が見えるようになるミエールα

何だこれ

最近は変な飲み物が増えたがこれはふざけすぎてるな

しかも両方とも微炭酸だ

他の飲み物を見るがこの自販機、この二つしか炭酸がない

最悪だ

完全に

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短編小説 とある朝

とある朝、とある道でトラックが僕たちに向かって走って来た。
立ちすくむ僕を彼は突き飛ばして、彼だけがトラックの下敷きになった。
泣き叫ぶ僕に彼は「忘れないで」と呟き、息を引き取った。
僕は約束を守り、彼を忘れることなく、高校を卒業し、そこそこの大学に入学。卒業後はそこそこの会社に入った。

とある朝、とある道でトラックが歩道に侵入してきた。目の前にいた赤いランドセルを背負った女の子を横に僕は突き飛

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短編小説 飴

ムカつく

なんでそんな顔でこっちを見る

「こっち見んな」

「なんでさ、いいじゃん別にぃ」

いいわけないだろ。

好きなんだよ

でも、好きな人いるんだろ

だからさ……

「ウザイこと、この上ないからこっち見んな」

俺を見ないでくれ

見透かされたら、惨めなんだよ。

「うぷぷっなにそれ?」

友達の関係でも辛いんだ

ほっといてくれ

どうしようもないのが滲み続けてるんだ。

「とにか

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短編小説 ぐるぐる

ぐるぐる
お父さんは僕を抱えて廻ってくれた。
僕の笑い声がアクセルになって、
ぐるぐる
ぐるぐる
ぐるぐる
ぐるぐる
あの時の楽しさは大人になると失ってしまう。
その事に気づいたら、
大人になったことに嫌気がさした。
煙草も酒も、
慰めにはなるが、
あの時のお腹から溢れる楽しさを味わうことはできない。
ぐるぐる
ぐるぐる
無邪気にお父さんに自分の全てをゆだねて廻る
もうそんなことはされないのだけど

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短編小説 好き嫌い

野菜は嫌いだ。

そう言うと君は好き嫌いはよくないと言う。

だから僕は君に言い返す。

好き嫌いは必要なんだよ。

ぼくは野菜は嫌いだけど君は大好きなんだ。

君は好き。

野菜は嫌い

嫌いと言う概念がなければ好きという概念も無いんだよ。

だから、好き嫌いは必要なんだ。

僕にとってはね。

君に好きと言えないのはとても辛いよ。

笑顔でそう伝えると

君は満面の笑みで

「ありがとう。でも

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