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  • あいかきくみこ

    北摂ニュークリアエイジの徒然

記事一覧

ニュークリアエアリア9

インターホンを押しながら、「おはようございます」と外から挨拶をする。客でもなければ、事業所から派遣された介護者でもない。友達というのも躊躇いはある。肇は長屋のド…

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1年前

ニュークリアエアリア8

 多くの日常行為における自らの身体を、他人に委ねなければならない。いや、他人に委ねるという行為が習慣になっていると言った方がいい。そんな創さんの生まれながらの60…

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1年前

ニュークリアエアリア7

 この時間帯は通勤や通学の人混みに巻き込まれる。1人の身体は大きな流れに組み入れられ、流体の一部となる。そうあって、肇の身体も意思も脆弱なモノと化し、加害や被害…

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1年前

ニュークリアエアリア6

 「行ってきます」とも言わず、「行ってらっしゃい」とも言えず与高が学校へ行くと、直後に創さんから電話があった。 「笹塚君今いいか、実はな、、、」 低音でゆっくりと…

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1年前

ニュークリアエアリア5

 次の日、今から2週間も前のことだが、このルーティンが行われるようになってはじめて与高は玄関にコメを迎えに来なかった。コメの足をぬぐうことなく家に入り、リビング…

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1年前

ニュークリアエアリア4

家に帰るといつもコメを迎えてくれる与高がいない。早く中に入りたがるコメをリードで抑えながら、足裏についているかもしれない汚れを、適当に拭き取った。この作業にどれ…

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1年前

ニュークリアエアリア3

 歩いていると気分はましになってくる。冬になろうとする季節、朝6時はもう薄暗い。昨日の夜は雨が降った。夜のうちにたまった温もり。もわっとしたぬるい空気が塊となっ…

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1年前

ニュークリアエアリア2

 やることが多くなって、急かされる気分になると肇の機嫌は悪くなった。今日は朝から落ち着かない。そういう時は、すぐにでもエアポケットのようなシェルターや何もしない…

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1年前

ニュークリアエアリア1

 パン屋の前に自転車が置かれている。朝6時の見慣れた風景だが、以前とは違う。間違い探しのような話しではなくて、この自転車の持ち主が変わってしまった。パン屋の中で…

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1年前

つくるの実況(1)

 丹波のグリエゴさん(以下Ⅰさん)が、現在「恋人つなぎ」というタイトルで小説執筆中である。高校生同士の恋愛物語で、Ⅰさんが去年から書き始めて、はや一年くらい経つ…

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1年前
1

カイズカイブキ

 6年前にうちに来た時にはすでに大きくなり過ぎていたカイズカイブキを伐った。3本あるうち2本を、もう葉っぱという葉っぱ、枝という枝の全てを刈り込んで、あとは幹だ…

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1年前

協同討議

元機関紙といったところの地方紙の制作運営に最近関わっている。無給ボランティアのサークル活動ではあるが、一つの誌面、一つの記事、一つの討議を掛け値なしのしがらみや…

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1年前

執筆代行など共同作業

丹波のグリエゴさんのすすめでこのnoteをすることになった。 丹波のグリエゴさんが今書いている小説を書ききるための編集者兼介助者のような関りが、今年の6月から始まった…

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1年前
1

うちに来て間もないころ

五太(ごんた)と名付ける。愛称はゴンで。 夏は毎朝6時に散歩に出かけた。ゆめ、としお、フェアリー、ポチ、きせき、くう、もなか、マロン、せとか、さすけ、小麦など、犬…

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1年前
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ニュークリアエアリア9

インターホンを押しながら、「おはようございます」と外から挨拶をする。客でもなければ、事業所から派遣された介護者でもない。友達というのも躊躇いはある。肇は長屋のドアの前に立たされた時、いつも初めて考えるようにして創さんとの関係に直面する。
介護に来る人はインターホンは押さず、挨拶しながら勝手にドアを開けて部屋に入ってくる。肇が部屋の中にいるときに、何度もそういう場面に出くわしたことがある。客やそのほ

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ニュークリアエアリア8

 多くの日常行為における自らの身体を、他人に委ねなければならない。いや、他人に委ねるという行為が習慣になっていると言った方がいい。そんな創さんの生まれながらの60年に及ぶ生活を想像することの方が難しい。その生活はいつになっても正解はない。今でも、毎日数時間後に起こる尿意、小便の事一つ、誰にどのようにして頼むかを用意周到に組み立てているだろう。気がのらない中でも冗談を言ったりして、どうすれば伝わるか

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ニュークリアエアリア7

 この時間帯は通勤や通学の人混みに巻き込まれる。1人の身体は大きな流れに組み入れられ、流体の一部となる。そうあって、肇の身体も意思も脆弱なモノと化し、加害や被害も入り混じった社会の奈落へと突き落とされる。ここでは、電車の中でしがみつき押しつぶされることはあっても、ホームでは立ち止まることは許されない。自由を手に入れようと思っていたのに、その目的や言葉すら失った流体は表情もなく、かつての欲望が形成し

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ニュークリアエアリア6

 「行ってきます」とも言わず、「行ってらっしゃい」とも言えず与高が学校へ行くと、直後に創さんから電話があった。
「笹塚君今いいか、実はな、、、」
低音でゆっくりとした少し聞き取りづらい、いつものトーンに安堵する。創さんは良いことを伝える時もあまり良くない時も、電話は同じようにして始まる。電話だけではないが、いつも準備万端なのだ。よく聞いておかないと話が突然どっちに転がるか分からない。この日のように

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ニュークリアエアリア5

 次の日、今から2週間も前のことだが、このルーティンが行われるようになってはじめて与高は玄関にコメを迎えに来なかった。コメの足をぬぐうことなく家に入り、リビングにいた与高に向かっていたコメの後姿を見送った。コメをあやしながら、肇には見向きもしなかったが、学校へは行ったようではあった。
 大人として、親として何かを話さなくてはならないと思っているが、肇は何を話していいのか分からなかった。美紀は与高が

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ニュークリアエアリア4

家に帰るといつもコメを迎えてくれる与高がいない。早く中に入りたがるコメをリードで抑えながら、足裏についているかもしれない汚れを、適当に拭き取った。この作業にどれほどの意味があるのか分からなかったが、肇は一人でやったことがなかった。散歩から帰ってきた肇がコメを背中から抱き上げ、前に放り出されたコメの足を、与高が一本ずつぬぐう。いつ始まったとも知れない玄関での共同作業が、終わったことを知った。

「学

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ニュークリアエアリア3

 歩いていると気分はましになってくる。冬になろうとする季節、朝6時はもう薄暗い。昨日の夜は雨が降った。夜のうちにたまった温もり。もわっとしたぬるい空気が塊となって、朝が深まるごとにそこらではじける。夜の空気は光と太陽の熱に置き換わっていく。こんな時に死ねたらいいなと考えてみる。去年に看取った父親の死を思ってみる。
 父親が死んだ後に、コメが家に来た。今までになかったルーティンが、はじまった。それま

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ニュークリアエアリア2

 やることが多くなって、急かされる気分になると肇の機嫌は悪くなった。今日は朝から落ち着かない。そういう時は、すぐにでもエアポケットのようなシェルターや何もしない時間に浸りたくなる。
「Do not panic」
 三郎の家の2階の部屋から降りる階段上の壁、ちょうど目線の高さで目立つところに、力ない筆跡で書かれた張り紙があった。今はその階段もなければ、家もない。10年以上前のことで度々思い出すくらい

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ニュークリアエアリア1

 パン屋の前に自転車が置かれている。朝6時の見慣れた風景だが、以前とは違う。間違い探しのような話しではなくて、この自転車の持ち主が変わってしまった。パン屋の中で、パンを作る人が前とは違う。
 そのことに気づいているのか、コメはいつものようにパン屋の前の大きな道路を軽快に渡った。先を急いでいるのは、仲間と会いたいのか、うんちがしたいのか、はたまた縄張りを確認するような保守的な慣習なのか。
 道の脇に

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つくるの実況(1)

つくるの実況(1)

 丹波のグリエゴさん(以下Ⅰさん)が、現在「恋人つなぎ」というタイトルで小説執筆中である。高校生同士の恋愛物語で、Ⅰさんが去年から書き始めて、はや一年くらい経つようだが、この小説に私が関わったのは最近になってからで、もう今年の6月になっていた。なので、はじめとさいご以外の大筋は書かれている状況であったが、それでもⅠさんは書ききれないでいて悩んでいた。それどころか、Ⅰさんの執筆を手伝ってくれていたサ

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カイズカイブキ

カイズカイブキ

 6年前にうちに来た時にはすでに大きくなり過ぎていたカイズカイブキを伐った。3本あるうち2本を、もう葉っぱという葉っぱ、枝という枝の全てを刈り込んで、あとは幹だけになった。
 はじめ、私にはそのつもりなく、去年にもやったように梯子を立てて、5メートルくらいの高さの枝を、カリスマ美容師のように繊細にハサミでちょきちょき切っていたら、相方さんが梯子の下でクスクス笑い出した。
 暑い中、高所で刃物をもっ

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協同討議

協同討議

元機関紙といったところの地方紙の制作運営に最近関わっている。無給ボランティアのサークル活動ではあるが、一つの誌面、一つの記事、一つの討議を掛け値なしのしがらみや忖度もなくできるのが心地よいし、おまけに記事もできれば、それを読んでくれた人の反応まで知れるので、今のところその制作作業は楽しくやっている。
さて、今日は社会主義がなぜ魅力をなくしたのかということについて、新聞社に対して協同討議が持ちかけら

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執筆代行など共同作業

執筆代行など共同作業

丹波のグリエゴさんのすすめでこのnoteをすることになった。
丹波のグリエゴさんが今書いている小説を書ききるための編集者兼介助者のような関りが、今年の6月から始まった。丹波のグリエゴさんは、まるでUFOキャッチャーのように、文字を救い出す。ipad画面上に突如現れる縦の緑の線と横の緑の線の交わるところをプロットしてタイピングする。一語一語を抽出して、文字通り文章を紡ぎ出す。今の私のように、ブライン

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うちに来て間もないころ

うちに来て間もないころ

五太(ごんた)と名付ける。愛称はゴンで。
夏は毎朝6時に散歩に出かけた。ゆめ、としお、フェアリー、ポチ、きせき、くう、もなか、マロン、せとか、さすけ、小麦など、犬のコミュニティーがある。スマホも財布も時計も持たず、眼鏡もかけず、マスクも公園に入るときだけにして、顔も洗わず帽子をかぶって半分眠った状態で、朝から散歩を楽しみにしているゴンに連れられるようにして、毎朝家を出る。