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あなたと夜と音楽と

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ジャズ初心者の主人公が 友人に連れられてたどり着いた一軒のバー。 そこで出会ったマスター兼ジャズピアニストのおじさんに 音楽とは?人生とは?ピアノとは? さまざまな曲との出会い、… もっと読む
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Unforgettable

ピロン~♪

仕事帰りの電車の中で、スマホが鳴る。

飲みに行きましょうという誰かからの誘いかと思ったが、

例の彼女からのお知らせのメッセージだった。

「仕事おつかれ!いつものバー先週から開いてるみたいよ。」

最後に行ったのはいつだろうか。

年末より少し前、冬の始まりを感じた頃だったろう。

「ありがとう、今日帰りに寄ってみる。」

そっけない文章にうさぎのスタンプをつけて返す。

マスタ

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Blue Train

Blue Train

「今日もか。」

本日都合により休業いたします。

1週間近く、この紙が入口のドアに貼られている。

ここの店でだけの関係だったマスターとは

メールアドレスどころか

この店の電話番号すら知らなかった。

ここに来れば必ず会えると思っていたからだ。

いつもなら鍵が開いているドアも

ずっと鍵がかかったまま。

「今日は帰るか。」

そう誰に言うでもなくひとり呟き、

家路につく。

家に帰

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'Round Midnight

'Round Midnight

今日も遅くなっちゃったな...

雨が降っているのにも関わらず、一駅分を歩いて帰った。

マスターとの会話の後、一枚のアルバムを教えてもらった。

今のご時世、家に帰るのを待つことなく聞くことができる。

実はマスターから

「喋りすぎましたね...

お詫びではないですがこれおすすめなので

聞いてみてください」

とこの一枚を渡された。

Thelonious Monk...

もちろん、名前

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My Foolish Heart

My Foolish Heart

「お待たせしました。」

マスターは2人分のビールを持ってきた。

「さて、何から話しましょうか・・・」

「とりあえず、結婚のチャンスがあったとは?」

「あぁ、それは私が26歳くらいの時に付き合ってた彼女がいたんですが

その子と漠然とですが、結婚を意識し始めていましてね。」

ビールのグラスを手に取り、

眺めながらどこか寂しそうにマスターは話し始めた。

「今になって夢はかなってしまったん

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Lullaby of Birdland

Lullaby of Birdland

「別れようか、僕たち・・・」

「えっ・」

今日も性懲りもなくマスターのバーに来ているわけだが

今日の先客は若いカップルで居心地があんまりよくなかったので

今日は帰ろうかと思っていたところとんでもない修羅場に出くわしたようだ

「待って、何で突然別れようなんて言うの?他にいい人でもできたの?」

「突然ではないよ、もう終わりかなと思ってて今日言うつもりで誘ったんだ、最近お互いに忙しくて会えて

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The Lady Is a Tramp!!

The Lady Is a Tramp!!

今日はなんだかな・・・変な天気だな

そう思いながら僕はまたマスターの店に向かった

店のドアに手をかけたとき、かすかに店の中から話し声が聞こえた。

「今日は先客がいるのか、どんな人だろう?」

ドアを開け、中に入るとマスターと小学生くらいの女の子が

ピアノを囲んで談笑しているのが目に入った

「あ、お客さんだ! こんばんは!」「こんばんは、マスター、彼女は?」

「ご近所さんでね、親御さんが

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Danny boy

駅からしばらく歩くと、彼の店に着いた。

「Closed…」

やっぱりかぁと肩を落としていると

「何してるの、ピアノの音がしてるじゃない。入ろうよ」

そう言って彼女は勢いよく僕にとって未知の世界へと通ずる扉を開けた。

薄暗い店内でそのおじさんはいた

「おぉ、いらっしゃい」

私たちに気が付くと、演奏をやめてそう言った。

「Danny boy...」

無意識に僕は呟いていた。

依然ふ

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煙が目にしみる。

煙が目にしみる。

1人喫茶店にて彼女を待つ。

店の外の帰路を急ぐサラリーマンたちを横目に1人タバコに火を灯す。

待ち合わせ時間はすでに1時間は過ぎたであろうが、

待たされるのは慣れている。

いつものことだ。

しかし今日はタバコも無くなってきたし、

コーヒーカップも空になりつつあるので今日こそ帰ろうとすると、

入り口のドアがカランカランカランと音を立てて開いた。「ごめん、遅くなった。」

遅すぎて、自分

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