秋田しげと

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  • ファンタジー小説

    実は、ファンタジーの入り口は身近なところに潜んでいるのでは…… という視点で描いています。 夢のようでもあり、現実のようでもあるファンタジー作品です。

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    イマジネーションの源泉である、自分自身の体験談を綴ります。

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    知られざる戦いを掘り起こし、また有名な戦闘の視点を変え、深堀りして戦争の本質に迫ります。

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    古典を独特の視点でわかりやすく要約し、物語の本質を浮かび上がらせます。

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    死相が見えてしまう女性占い師が、事件を通じて友達と心を許しあう過程を描いたミステリー小説です。

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朗読小説『八日月の幻』発売開始☆朗読・伊吹まいなさん

拙著、短編小説『八日月の幻』が、声優の伊吹まいなさんによる朗読小説として発売開始しました。 本作は、同名の短編集『八日月の幻』に収録された4作品中、表題作の1作品をピックアップしたもの。ジャンルは青春・純文学。 朗読の担当は、声優事務所・INSPIONエージェンシー所属の声優、伊吹まいなさん。 男女年齢もさまざまな登場人物を、一人で演じ分けする技術の高さはもちろんですが、その演技が限りなく演劇に近い手法でかつ、朗読の枠を超えずにギリギリで収めているので、不自然な感じが無

    • 『繚乱コスモス』(9)☆ファンタジー小説

       眠れたのか、それとも起きたままだったのか。  不快なまどろみの中で朝が来た。  徳子は重い身体を起こして扉を押し開け、嫌味なほど燦々たる陽光に照らされた風景を見て、本格的な『ヘンなこと』はこれからなのだと悟った。 「おい、大丈夫か?」  ウタウラが心配して、ふらりと戸口に寄りかかった徳子の肩を支える。  今考えると充分すぎるほどの予兆はあったが、覚悟が無かった。日常から隔離された衝撃によって、精神が剥離してゆくのに耐える、覚悟である。 (美奈子の家が無い。街並みが違う。

      • 復活の乙女 -ジャンヌ・ダルク外伝-

        1436年5月 フランス ロレーヌ地方 メス 一人の男が街頭に立ち、興奮気味にわめき散らしている。 「復活したのだっ! 間違いない。私は見た、声を聞いた、あのときのように私の額に十字を切ってくれたっ!」 その身なりは、襟を立てた白いシャツに青いチョッキ。その上から赤いハーフコートを羽織り、白いズボンに皮のブーツを履いている。手にはドラゴン細工のステッキを握って、それを振り回していた。 そのどれも高級品であるが、いずれも煤け、汚れている。 幅広の帽子から覗く青白い頬と、や

        • 『繚乱コスモス』(8)☆ファンタジー小説

          ※※※ 「雨の音……」  瞼を開くと曇ったレンズを覗いたように、視界がおぼろげだった。ただ、比較的大きな葉が雨を受ける音だけ、鼓膜を通り過ぎて脳裏で響いている。リズムや音階とは程遠い、生命の鼓動に近い音色が、心を落ち着かせた。事件が夢だったと思わせるほど、静謐な時が流れている。  かけられている毛布はゴワゴワした肌触りだったが、柔らかい枕、白いシーツが心地良く徳子を包んでいる。 (犯人、捕まったのかな? 痛っ……)  考えると、こめかみに刺さるような痛みが走った。それによっ

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        朗読小説『八日月の幻』発売開始☆朗読・伊吹まいなさん

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          『繚乱コスモス』(7)☆ファンタジー小説

           徳子は、一刻も早くこの家から出て行こうと、目眩を耐えながら立ち上がった。すると、窓の外に人影が見える。部屋の様子を窺っているようだった。従業員かとも思ったが、従業員が垣根を越えて美奈子の部屋を覗くとは考えにくい。 「誰っ?」  徳子は短く言って窓から外を見る。そして、影の手元に一筋のナイフが光るのを見て息を飲んだ。 「ひっ!」  母屋からは、何の警戒もしていない桐下駄の鳴る音が近付いてくる。美奈子だ。  窓の人影は、美奈子を狙っているのは明白だった。 (美奈子ちゃん、来ちゃ

          『繚乱コスモス』(7)☆ファンタジー小説

          生き抜く ー南極観測船『宗谷』秘史ー

          昭和十八年一月二十八日 早朝 ニューギニア ブカ島 クイーンカロライン 日本海軍 特務艦『宗谷』艦上 「右舷後方、雷跡四っっ!」 『宗谷』は、見張員の絶叫で測量作業から瞬時に戦闘態勢に入った。  全員、絶望的な眼差しで右舷に視線を走らせる。 『宗谷』は全速でも12ノット。米軍の潜水艦でも追いつく程度の速力しか出ない。速力の遅い船は当然舵の利きも悪く、魚雷が近付いてからではとても回避できるものではない。  それを、乗組員全員が知っている。 『宗谷』は砕氷機能を持った民間船

          生き抜く ー南極観測船『宗谷』秘史ー

          雪の中の歩兵銃 ー八甲田山雪中行軍秘話ー

          明治三十五年 一月二十八日 青森県 八甲田山中 弘前歩兵第三十一連隊・雪中行軍隊 「真っ白、真っ白で前が見えませんっ!」  歩兵第三十一連隊八甲田山雪中行軍隊長、福島大尉の耳に、嚮導の叫び声が地吹雪に混じって、途切れ途切れに聞こえていた。  彼らの前進する意志が鈍っていることを察した福島は、風に負けじと声を張り上げる。 「だからと言ってこんなところで停止したら、死ぬだけだっ! 進めっ!」  先頭に立って嚮導を務めるのは、地元の猟師たちで軍人ではないから、福島の命令にも反

          雪の中の歩兵銃 ー八甲田山雪中行軍秘話ー

          『繚乱コスモス』(6)☆ファンタジー小説

          「もう遅いけど、いいのかしら?」 「わたしは大丈夫よ。それに、帰りは車で送るから心配しないで」 「そうしてもらえると嬉しいわ」  美奈子が立ち上がると玄関にゆき、靴を履いて外に出る。  徳子は不思議そうに聞いた。 「ねえ、美奈子ちゃんのお部屋に行くんじゃないの?」 「そうよ」 (んもぅ、ナゾの行動が多いんだから)  しかし、ここに来るまで美奈子のナゾ行動には必ず意味があると学習した徳子は、そのまま黙ってついてゆく。  風流な竹の垣根にそって裏手にまわり、板戸を開けると、まる

          『繚乱コスモス』(6)☆ファンタジー小説

          『繚乱コスモス』(5)☆ファンタジー小説

           女将が襖を開けると、12畳の和室があった。しかし、畳はその半分ほどしか敷いておらず、残り半分は縁側に沿って板の間があり、その左右両側に花が飾ってある。 「綺麗なお花ですね」  部屋には、乱舞した蝶が今にも飛び出してきそうな円山応挙の絵や、瑠璃色に光沢を放つ明時代の壷など、どれも一級品が飾ってある。それらを褒めるより先に、まず花を褒めたのは、女将か美奈子の趣味だと思ったからである。  予想は当っていたらしく、女将が嬉しそうに言った。 「右はわたくしが選んだアッツ桜で、左はこの

          『繚乱コスモス』(5)☆ファンタジー小説

          『繚乱コスモス』(4)☆ファンタジー小説

          ※※※ 「山代さん、昼間はごめんなさい。お茶こぼすというか、ぶちまけちゃって……」  頭を下げる徳子に、美奈子は慌てた様子で手のひらを横に振る。 「いえ、気にしないでください。それに会社では宮島さんの方が先輩ですから、丁寧な言葉遣いでなくてもいいですよ」  美奈子が6月入社であることを思い出したが、敬語を使う理由は、彼女が一つ年上というだけではなく、尊敬する気持ちがあるからだ。よって態度を変えようとは思わない。 「山代さんこそ、わたしにですます言葉は使わなくてもOKです

          『繚乱コスモス』(4)☆ファンタジー小説

          『繚乱コスモス』(3)☆ファンタジー小説

          ※※※ (美奈子さんにこのお茶を飲ませるワケには……)  徳子は震える手で茶碗を持ち上げつつ、猛烈に考えた。お局OLに気遣いするのとは別の脳ミソを、フル回転させる。 (これしかないっ!)  決めるが速いか、徳子はコケた。茶碗を持ったまま。  中身はテーブルにぶちまけられ、美奈子以外の3人は初め驚いた表情を浮かべ、次第に迷惑そうな表情へと変化する。 「おいっ、ナニをやっとるんだっ、イヤすみませんですはい……」  開発部の課長は、徳子に対しての小言と来客への謝罪を交互に繰り

          『繚乱コスモス』(3)☆ファンタジー小説

          『繚乱コスモス』(2)☆ファンタジー小説

          ※※※ 「おはよう」  美奈子が教室に入ると、その場は一瞬静まり返り、次いでクラスメイトたちの声は囁き声に変化する。 「おはようございます」  徳子は思わず、教師に挨拶するかのように丁寧に返してしまう。徳子のほかに挨拶を返す生徒はいない。  美奈子は静かに席に着いて一限目の数学の教科書を用意すると、もう一冊、文庫本を取り出した。そして、本の中ほどに挟んだしおりを開いて読み始める。  徳子の耳に、一人の友人が顔を近づけて言った。その声には侮蔑のトーンが含まれている。 「徳

          『繚乱コスモス』(2)☆ファンタジー小説

          柳田国男『遠野物語』式・驚きのクマ対策

          昨今のクマ被害については、ご存知の方も多いと思います。 わたし自身、登山中に5mの距離でクマに遭遇した経験があり、万が一襲われたときの対策を調べるうちにふと、こう思いました。 「クマが出没するのは、今に始まったことではないはず。クマに関するプロであるマタギは、どのように対処していたのだろう?」 昔のマタギの情報は多くありません。現在の猟師は銃を持っているので、一般人の参考にはなりません。 そこで思い当たった書物が柳田國男『遠野物語』。岩手県の物語集なので、クマの種類は”ツ

          柳田国男『遠野物語』式・驚きのクマ対策

          『繚乱コスモス』(1)☆ファンタジー小説

           宮島(みやじま)徳子(のりこ)は、所属する課のお局OL、黒田の言葉に内心呆れていたが、さも感心したように装っていた。  黒田はそれに気付きもせず、話を続けている。 「でね、気に入らないヤツが来客対応するでしょお? そしたら、社内システムの会議予定表を見るのよ」  徳子はほんの少し茶色い、ロングの髪を耳の後ろに手ですいて、コクコクと細い顎をしきりに頷いてみせた。しかし黒田の言う、気に入らないヤツと社内システムの会議予定表が頭の中で繋がらない。 「黒田さん、それで何がわかるん

          『繚乱コスモス』(1)☆ファンタジー小説

          V-22 オスプレイ私見

          サイクリング中、オスプレイが飛んでいたので、思わず感想を漏らしてしまいました。沖縄ではありません。関東地方の田舎です。 近所に基地があるわけでもないので、フラットな立場で簡潔に私見を述べようと思います。 まず、音です。これが、youtubeにUPした動画ではわからないと思うのですが、UH-60のような、よく飛んでる普通の?軍用ヘリと比較すると、お腹にズンズン響く音です。 すぐに「オスプレイだ」とわかります。音でなく、空気を伝わる『振動』が特徴的なので、わかるのです。 音量

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          ワレ戦闘航海ニ支障ナシ ー物見崎沖海戦ー

          昭和十九年六月十四日 青森県下北半島 物見崎沖 「破口を塞げっ! 板切れ持って来い早くっ!」  東洋海運所属『相模川丸』は、左舷に魚雷をうけて浸水していた。 「魚雷、また来ますっ!」 「機関全速うっ! 取り舵一杯っ」  船底では叫び声が飛び交い、船橋では米潜水艦から攻撃を受けた旨と、船の被害状況が打電される。 「当るなよっ……」  船員たちの祈りが通じたのか、二発目の魚雷は船首スレスレを通過していった。船員たちの最優先任務は目下、一発目の魚雷による破口を塞ぐことであった。

          ワレ戦闘航海ニ支障ナシ ー物見崎沖海戦ー