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朗読小説『八日月の幻』発売開始☆朗読・伊吹まいなさん
拙著、短編小説『八日月の幻』が、声優の伊吹まいなさんによる朗読小説として発売開始しました。
本作は、同名の短編集『八日月の幻』に収録された4作品中、表題作の1作品をピックアップしたもの。ジャンルは青春・純文学。
朗読の担当は、声優事務所・INSPIONエージェンシー所属の声優、伊吹まいなさん。
男女年齢もさまざまな登場人物を、一人で演じ分けする技術の高さはもちろんですが、その演技が限りなく演
『繚乱コスモス』(9)☆ファンタジー小説
眠れたのか、それとも起きたままだったのか。
不快なまどろみの中で朝が来た。
徳子は重い身体を起こして扉を押し開け、嫌味なほど燦々たる陽光に照らされた風景を見て、本格的な『ヘンなこと』はこれからなのだと悟った。
「おい、大丈夫か?」
ウタウラが心配して、ふらりと戸口に寄りかかった徳子の肩を支える。
今考えると充分すぎるほどの予兆はあったが、覚悟が無かった。日常から隔離された衝撃によって
『繚乱コスモス』(8)☆ファンタジー小説
※※※
「雨の音……」
瞼を開くと曇ったレンズを覗いたように、視界がおぼろげだった。ただ、比較的大きな葉が雨を受ける音だけ、鼓膜を通り過ぎて脳裏で響いている。リズムや音階とは程遠い、生命の鼓動に近い音色が、心を落ち着かせた。事件が夢だったと思わせるほど、静謐な時が流れている。
かけられている毛布はゴワゴワした肌触りだったが、柔らかい枕、白いシーツが心地良く徳子を包んでいる。
(犯人、捕まった
『繚乱コスモス』(6)☆ファンタジー小説
「もう遅いけど、いいのかしら?」
「わたしは大丈夫よ。それに、帰りは車で送るから心配しないで」
「そうしてもらえると嬉しいわ」
美奈子が立ち上がると玄関にゆき、靴を履いて外に出る。
徳子は不思議そうに聞いた。
「ねえ、美奈子ちゃんのお部屋に行くんじゃないの?」
「そうよ」
(んもぅ、ナゾの行動が多いんだから)
しかし、ここに来るまで美奈子のナゾ行動には必ず意味があると学習した徳子は、そのま
『繚乱コスモス』(5)☆ファンタジー小説
女将が襖を開けると、12畳の和室があった。しかし、畳はその半分ほどしか敷いておらず、残り半分は縁側に沿って板の間があり、その左右両側に花が飾ってある。
「綺麗なお花ですね」
部屋には、乱舞した蝶が今にも飛び出してきそうな円山応挙の絵や、瑠璃色に光沢を放つ明時代の壷など、どれも一級品が飾ってある。それらを褒めるより先に、まず花を褒めたのは、女将か美奈子の趣味だと思ったからである。
予想は当って
『繚乱コスモス』(4)☆ファンタジー小説
※※※
「山代さん、昼間はごめんなさい。お茶こぼすというか、ぶちまけちゃって……」
頭を下げる徳子に、美奈子は慌てた様子で手のひらを横に振る。
「いえ、気にしないでください。それに会社では宮島さんの方が先輩ですから、丁寧な言葉遣いでなくてもいいですよ」
美奈子が6月入社であることを思い出したが、敬語を使う理由は、彼女が一つ年上というだけではなく、尊敬する気持ちがあるからだ。よって態度を変
『繚乱コスモス』(3)☆ファンタジー小説
※※※
(美奈子さんにこのお茶を飲ませるワケには……)
徳子は震える手で茶碗を持ち上げつつ、猛烈に考えた。お局OLに気遣いするのとは別の脳ミソを、フル回転させる。
(これしかないっ!)
決めるが速いか、徳子はコケた。茶碗を持ったまま。
中身はテーブルにぶちまけられ、美奈子以外の3人は初め驚いた表情を浮かべ、次第に迷惑そうな表情へと変化する。
「おいっ、ナニをやっとるんだっ、イヤすみませ
『繚乱コスモス』(2)☆ファンタジー小説
※※※
「おはよう」
美奈子が教室に入ると、その場は一瞬静まり返り、次いでクラスメイトたちの声は囁き声に変化する。
「おはようございます」
徳子は思わず、教師に挨拶するかのように丁寧に返してしまう。徳子のほかに挨拶を返す生徒はいない。
美奈子は静かに席に着いて一限目の数学の教科書を用意すると、もう一冊、文庫本を取り出した。そして、本の中ほどに挟んだしおりを開いて読み始める。
徳子の耳
『繚乱コスモス』(1)☆ファンタジー小説
宮島(みやじま)徳子(のりこ)は、所属する課のお局OL、黒田の言葉に内心呆れていたが、さも感心したように装っていた。
黒田はそれに気付きもせず、話を続けている。
「でね、気に入らないヤツが来客対応するでしょお? そしたら、社内システムの会議予定表を見るのよ」
徳子はほんの少し茶色い、ロングの髪を耳の後ろに手ですいて、コクコクと細い顎をしきりに頷いてみせた。しかし黒田の言う、気に入らないヤツ