こばなし
これまでの作品。
たまに書くエッセイ。自分の考えたことや、体験談がメイン。
しばらくは玉石混合。
4話完結の短編小説です。
第1話「おおきくなったらケッコンしよう」 幼い頃の僕――新田優樹(あらた・ゆうき)は心が不自由だった。 自分がどうしたいのか分からない。今どんな気持ちなのか…
「あーもう。なんで幼馴染ばっかり負けちゃうのよ!!」 俺の部屋でマンガを読んでいた幼馴染——秋元凜々花(あきもと・りりか)は突然叫んだ。 「どうしたいきなり。…
僕、好野陽太(よしの・ようた)には気になる人がいる。 同じクラスの女子生徒、猫目ゆる(ねこめ・ゆる)さんだ。 ホームルームでの席替えで、なんと…… 猫目さ…
ぱちぱちぱち、という打鍵音が放課後の部室に響く。 「彼女は氷のように冷たい視線で……いや、違うな」 僕——山江和喜(やまえ・かずき)はノートPCのキーボード…
オレンジ色の景色の中、僕と愛奈美さんは並んで歩いている。 「……」 僕はやたらと緊張してしまい、愛奈美さんに話しかけられずにいる。 「あ、あのさ」 沈黙を…
愛奈美さんとお昼を共にしてから数週間。 僕は夢のような日々を送っていた。 「はー、今日も愛奈美さん、可愛かったなあ……」 あれから毎日のように、僕は愛奈美…
翌日の昼休み。 僕は八坂さんに声をかけられ、昼食の総菜パンを片手に中庭へと同行した。 僕らが向かったのは花壇を見渡せるベンチ。 そこへ、八坂さんは腰かける…
僕は森野博士(もりの・はかせ)。 虫が大好きな僕は、騒がしい休み時間の教室で、今日も今日とて昆虫に関しての参考書を読んでいる。 「おいハカセ。今日も虫みたい…
「進捗どうですか、先生」 「おかげさまで良い調子だよ。それはさておき、先生はできればやめて欲しいな」 ほぼ無遠慮に部屋へ上がり込んできた女性編集者に、僕は苦笑…
Netflixで映画を見終わった後、無性にむなしくなる。 感想を語り合う相手がいないだけで、こんなにも寂しくなるものだとは、思ってもみなかった。 ——久々にハニー…
——黄昏時には、まだ早いか 沈む夕日が見たくなり、ひとり、海辺へとやってきた。 のどに渇きを覚え、携帯した炭酸水を飲む。 しゅわり、しゅわりという泡の音が…
リビングにて。緊張の面持ちで、姿見の前に立つ。 ——うーん、こう、いや、こうか……? こうでもない、ああでもないと、髪型や服装をあれこれと試している。 …
久々に食うか、と足を運んだラーメン屋。 いらっしゃーせー、という元気のいい店員さんの声と、食欲を刺激するスープの香りが出迎えてくれた。 カウンターテーブルに…
冷蔵庫の中を見て、ため息をつく。 ——卵切らしちゃったな ぱたん、と扉を閉め、パーカーを羽織る。 玄関を出て、最寄りのスーパーまで歩いていく。 たんたん…
玄関口の靴を、じっと見つめる。 あの頃に買った、君と同じメーカーのランニングシューズだ。 見つめていると、走りに行くのもやめてしまおうかと思うほど、寂しい気…
徐々に明るみを帯びていく空。 透き通っていく半月。 明けの明星が、東の空できらきらきらと輝いている。 「もうすぐじゃない?」 「だね」 白んでいる水平線の…
2024年2月11日 11:47
第1話「おおきくなったらケッコンしよう」 幼い頃の僕――新田優樹(あらた・ゆうき)は心が不自由だった。 自分がどうしたいのか分からない。今どんな気持ちなのか分からない。それ故に「どうしたの?」と聞かれても、「〇〇した」と答えられない。 母が聞いてくる。「寂しいの? 痛いの? 悲しいの?」 そのどれにも当てはまらない気がして、首を横に振る。「寂しい? 痛い? 悲しい?」
2024年5月5日 12:45
「あーもう。なんで幼馴染ばっかり負けちゃうのよ!!」 俺の部屋でマンガを読んでいた幼馴染——秋元凜々花(あきもと・りりか)は突然叫んだ。「どうしたいきなり。負けない作品もあるだろ」 部屋の主である俺、城野春太(しろの・はるた)は眉をひそめつつ彼女をなだめようとする。 しかし凜々花の怒りはおさまらない。「はるくんの紹介するラブコメ、全部幼馴染がフラれるじゃん!!」「いや、それは紹
2024年5月4日 16:59
僕、好野陽太(よしの・ようた)には気になる人がいる。 同じクラスの女子生徒、猫目ゆる(ねこめ・ゆる)さんだ。 ホームルームでの席替えで、なんと…… 猫目さんと隣同士になってしまった!「にゃむにゃむ……」 窓際の席の彼女は、授業中だというのにスヤスヤと気持ちよさそうに眠っている。「……」 耳だけは先生にかたむけつつ、視線は寝ている彼女に向ける。 綺麗なショートボブの黒髪に、
2024年5月3日 23:02
ぱちぱちぱち、という打鍵音が放課後の部室に響く。「彼女は氷のように冷たい視線で……いや、違うな」 僕——山江和喜(やまえ・かずき)はノートPCのキーボードから指先を離した。「突き刺すような視線で……いや、ジト目で……うーん、そもそも……」 更には腕を組み、ひとりごとをブツブツと漏らしている。「は~、どう書けば伝わるのか全然わからん」 最後にはそう言って頭を抱えた。 そん
2024年5月2日 22:57
オレンジ色の景色の中、僕と愛奈美さんは並んで歩いている。「……」 僕はやたらと緊張してしまい、愛奈美さんに話しかけられずにいる。「あ、あのさ」 沈黙を破ったのは愛奈美さんだった。「さっきは助けてくれて、ありがとう」 彼女はぽつり、ぽつりと語り出した。「私ね、あんなふうに言ってたけど、本当はすっごく怖かったんだ。でも、博士くんの姿が見えた時、すっごく安心した……」
2024年5月1日 21:50
愛奈美さんとお昼を共にしてから数週間。 僕は夢のような日々を送っていた。「はー、今日も愛奈美さん、可愛かったなあ……」 あれから毎日のように、僕は愛奈美さんとお昼ご飯を食べた。 休み時間や登下校の際に話すことも増え、以前からすると明らかに距離が縮まっている。「っていうか今度の日曜日、何着ていこう?」 それというのも愛奈美さんとの約束で、週末に植物園に行くことになったのだ。
2024年4月30日 18:49
翌日の昼休み。 僕は八坂さんに声をかけられ、昼食の総菜パンを片手に中庭へと同行した。 僕らが向かったのは花壇を見渡せるベンチ。 そこへ、八坂さんは腰かける。「……森野くん、何してるの?」「え? あ、えっと、」 僕はどうしていいか分からずに、直立していた。「もー。遠慮しないで」 八坂さんはそんな僕を見かねて、ベンチの空いたスペースをぽんぽん叩き、着席をうながした。「じ
2024年4月29日 22:12
僕は森野博士(もりの・はかせ)。 虫が大好きな僕は、騒がしい休み時間の教室で、今日も今日とて昆虫に関しての参考書を読んでいる。「おいハカセ。今日も虫みたいな顔してんなー」 ニタニタとした笑い声に顔を上げると、クラスメイトの日野猛(ひの・たける)と、その取り巻きが絡んできた。「そんなに虫の本ばっか読んでると、虫になっちまうぞ?」「たまには俺らの遊び相手になってよ~」「そうだ、虫ご
2024年4月28日 22:00
「進捗どうですか、先生」「おかげさまで良い調子だよ。それはさておき、先生はできればやめて欲しいな」 ほぼ無遠慮に部屋へ上がり込んできた女性編集者に、僕は苦笑いを浮かべる。「将来有望な作家さんなんだから、今のうちから先生って呼んでもよくありませんか?」「まあ、そこまで言うなら勝手にしてくれ」 彼女の言動から圧力を感じた僕は、早々に抵抗を諦めた。 とある出版社の編集者である彼女
2024年4月27日 22:02
Netflixで映画を見終わった後、無性にむなしくなる。 感想を語り合う相手がいないだけで、こんなにも寂しくなるものだとは、思ってもみなかった。 ——久々にハニーラテでも飲むか 自嘲気味に笑いつつ、孤独感を紛らわせようとキッチンへ向かう。 食器棚には、かつて二つあったマグカップの、そのうちのひとつが寂しげにたたずんでいた。「……」 虚無感に襲われる前に、それを食器棚から取り出
2024年4月26日 22:40
——黄昏時には、まだ早いか 沈む夕日が見たくなり、ひとり、海辺へとやってきた。 のどに渇きを覚え、携帯した炭酸水を飲む。 しゅわり、しゅわりという泡の音が、喉の奥ではじけては消えていった。 それは波の音とリンクして、心地良く僕の鼓膜をゆらしてくれた。 ——波の音って、お母さんのおなかの中の音と一緒なんだって あの日そう語った君は、今、どこにいるのだろうか。 君との出会いは、
2024年4月25日 22:28
リビングにて。緊張の面持ちで、姿見の前に立つ。 ——うーん、こう、いや、こうか……? こうでもない、ああでもないと、髪型や服装をあれこれと試している。 今日は会社でのプレゼンが控えている。 好印象を与えるためにも、身だしなみには気をつかわなければならない。 ——分からんなぁ 迷ったあげく、客観的な評価が欲しくなった。「あのさ――」 と、声をあげたが、返ってくる声はな
2024年4月24日 22:03
久々に食うか、と足を運んだラーメン屋。 いらっしゃーせー、という元気のいい店員さんの声と、食欲を刺激するスープの香りが出迎えてくれた。 カウンターテーブルに通された僕は、さっそくオーダーを済ませる。 漬け物を食べながら待っていると、数分後には注文したラーメンが目の前に置かれた。「いただきます」 箸をとる前に手を合わせ、一緒に頼んでいたおろしにんにくをラーメンに投入していく。 —
2024年4月23日 22:23
冷蔵庫の中を見て、ため息をつく。 ——卵切らしちゃったな ぱたん、と扉を閉め、パーカーを羽織る。 玄関を出て、最寄りのスーパーまで歩いていく。 たんたんと、淡々と。 途中で信号に足止めされ、心の中で舌打ちをした。 青信号を待つ間、やることもなく街並みを眺める。 不意に、カラフルな外装のスイーツショップが目に入る。 君とよく通った、思い出の店だった。 ガラス張りの窓の向こうの
2024年4月22日 21:42
玄関口の靴を、じっと見つめる。 あの頃に買った、君と同じメーカーのランニングシューズだ。 見つめていると、走りに行くのもやめてしまおうかと思うほど、寂しい気持ちに襲われる。 ——家にいても一緒か 気持ちを振り切るようにして靴を履き、玄関を出た。 いつものコースを走り出す。 今日は休日、いつもより長めに走るとしよう。 思えばあの頃もそうしていた。「あっ、これとかよさげじゃない
2024年4月21日 15:18
徐々に明るみを帯びていく空。 透き通っていく半月。 明けの明星が、東の空できらきらきらと輝いている。「もうすぐじゃない?」「だね」 白んでいる水平線の向こうを見つめてささやいた。 つぶやくほどの声でも、意思疎通ができる距離で君と歩いている。 昨日よりも近くなったような、そんな距離感だった。 「良い空気。いつもこうならいいのに」 夜分に草木が浄化した空気を吸い込んで君が言