moment64 side:unfold
「病院来れますか?」
ケータイを見ると、短いメッセージが入っていた。
病院に着いて、病室のドアをノックしようとしたら、ドアが開いた。
にのが立っていた。
あと15分と言われ、あまり時間がないことに気づいた。
「はるちゃん」
「大野さん、来てくれてありがとうございます」
「お話できるようになったんだね」
「おかげさまで。
大野さん、ドア閉めて鍵かけて。」
疑問に思いながらも言われた通りにした。
「あ、あの、いろいろありがとうございました。
あの時も、大野さんが助けてくれたって。松本さんと。」
「うん。」
「…私どうなってました?覚えてないんですあんまり。」
「…聞いてどうすんの?」
言い方が良くなかった。でも、できれば言いたくない。
何を言えばいいのかわからなかった。
黙っていると彼女が続けた。
「単純に、どうなってたのかなって。途中から記憶がないから。」
「…そう、」
彼女が自分の腕をさすったときに、まくれた病院着から出た腕は強くこすったようなあとがついていた。よく見ると首も。
「はるちゃん、足見せて」
「足?なんで?やだよ」
「腕のこれは?どうしたの?足もじゃない?首も。」
「汚いから洗ってるの。」
「汚い?」
「触られた感触が消えないから」
そういうことか。
何も言えなかった。
「いくら洗っても、いくらこすっても、何も消えない。何があったのかよく思い出せないけど、怖いし気持ち悪かったことだけはよく覚えてる。
暗いのが怖いから、夜でも電気はつけっぱなし。ドアの鍵を締めるのはあの人が入ってきそうだから。
鏡を見れば顔の傷で思い出す。ごはんを食べれば唇の感触を思い出す。気持ち悪くて食べられない。なんでもかんでも、思い出すきっかけになってる気がして」
どおりで、痩せてるわけだ。
「私、死のうとしてたでしょ。」
彼女は自分の左手を首に当てた。
カッターを押し付けたところ。
「あの頃はね、よくわからなくなってて。自分でもあんまり記憶にないし。この傷は何って友達に聞いたら、最初は誤魔化されたけど、あとでちゃんと教えてくれた。大野さんが止めてくれたことも。
死んだらいけないのはよくわかるんだけどね。でももう、ちょっと疲れた。フラッシュバックするあの日のことに、耐えるのが。前向きになるのも、我慢するのも、疲れた。
こんなに気持ち悪い自分でいるなら、死んでもいいかなって。たまに思う。」
なんて言えばいいかわからなかった。
言えることなんて何一つない。
彼女が言って欲しい言葉ってなんだろう。
生きて欲しいも、死んで欲しいも、
どっちも傷つける気がした。
「ごめんなさい。こんなこと言ったって、どう反応したらいいかわかんないですよね。全部全部、ごめんなさい。私があの人に捕まらなければ、ついていかなければ、東京に来なければ、仕事をしなければ、私はみなさんを困らせることはなかった、」
それは、違う。
「はるちゃん、
…正直、なんて言えばいいかはわからない。
だけど、オレは今はるちゃんといたいし、一緒に仕事できるのも嬉しい。だから、戻ってきて欲しい。ゆっくりでもいいから。
オレのこと、置いていかないでよ。」
彼女の頬に涙が伝った。
「でも、私、こんなんで…傷だらけだし…」
「大丈夫。一緒に治していこう。心も体も。ね。」
何度目だろうな、彼女が泣いてるのを見るのは。
「とりあえずゆっくりでいいから。無理しないでね。」
「うん。」
「じゃあね。また来るから。」
「うん。」
「おやすみ」
「あ、…待って」
「ん?」
「あの、ちょっとだけ…」
そう言って彼女は両手を広げた。
「いいの?」
うん、と頷く。
抱きしめると痩せたことがよくわかった。
「生きててよかった。ほんとに。」
腕に力が入った。
「大野さん…苦しい」
「あ、ごめん笑」
「…安心した。」
彼女はふわふわと笑っていた。
「あ、これ」
イヤリングはオレが持ったままだった。
「なくすといけないと思って、預かってたよ」
「あ…よかった…なくしたと思ってた…。ありがとうございます。」
彼女はイヤリングをぎゅっと握った。
「私の、お守り」
お守り。か。
「ごめんね、返すの遅くなって」
「いえ、ありがとうございます。大野さんが持っててくれてよかった。」
「じゃあまたね」
少し笑った顔が見れて、オレも安心した。
ドアを閉めた。
振り向くとソファに座ったにのがいた。
「待っててくれたの?笑」
「呼ばれたのオレだけじゃないんだと思って。」
「それはオレも思った笑」
「見た?腕。」
「うん。全部でしょ?首から足まで全部。」
「気持ち悪いんだろうね。そりゃあそうだよ。でも、肌が傷つくからさあ」
「やめなって言ったよ」
「うん。 首のあのデカいガーゼみたいなところは?」
「…あれは、自分で。」
「は?自分でって…」
「あの日から1週間くらい経った頃かな。ふらっと病院来て病室のぞいたら、彼女自分でカッター押し付けててさ。止めに入った時の反動でちょっと切れちゃって。」
「…」
「…やっぱり、フラッシュバックするみたい。それに耐えられないって。」
「…やっぱり殺しとけばよかった。」
「オレは一発殴ったよ」
「そうなの?」
「笑ってたんだもんあいつ。なんか、彼女のこと呼び出したみたいだね。謝るとかなんとか言って。そしたらのこのこついてきた、でもこいつブスだし身体も大したことないとか言ったからね、殴った。」
「…」
「いろんなとこ触られて、口もだよ?言ってたさっき。だから、ごはん食べられないって。」
「そういうことか…痩せてたもんね」
「そろそろ退院かなあ?」
「まあね。病院で治療できるのはここまでだろうね。飯もオレたちが連れ出したほうが食べるかもしれない。」
「1人だと食べなさそうだね」
「大野さん」
「ん?」
「あいつのこと、守ってやってね」
「どうしたの」
「オレだってそりゃ、ずっと近くにいるよ。守る。でも、あいつが選ぶのはきっと大野さんだから。」
「どうだろうね」
「…ま、いいや。それはもう少し先の話だろうし。
ミシマのこと殴ってくれて、ありがとうございました。」
「うん。」
にのは立ち上がって帰ろうとした。
「勝手に離脱すんなって。彼女は、にのを必要としてる。」
にのは振り返らず話した。
「それは恋愛感情じゃない。オレたちは利害関係だっただけなんだよ。だから、守りきれなかったんだ。バチが当たったんだよ。」
「恋愛感情とそうじゃないのと、何か別なの?」
沈黙が流れる。
「好きなんじゃないの?」
「じゃあどうすればいい?」
振り返ったその顔は、いろいろな感情が混ざった顔だった。
「…どうしようもない。どうもできない。ただできることとすれば、毎日当たり前のことをする、そして彼女を想い続けること。だと、オレは思ってる。」
「…」
「彼女、イヤリング握ってたんだ。あのとき。」
「え?」
「彼女見つけたとき、手に握ってたんだ。意識はなかったけど、手に力が入ってて。開けたらイヤリング入ってた。握ってた手は傷が多くて、たぶん抵抗したんだろうね。」
「…」
「さっき返したよ。彼女、お守りだって言ってた。すごく、大事にしてるんだなって。思った。」
「そんな、あんなの安物なのに…。ピアノ弾くのに、手怪我したらいけないのに。なんでそんな…」
「それくらい彼女には大切なものなんだね。」
「バカだな…」
「彼女は、にのを必要としてる。」
「じゃあ諦めなくていいのね?」
「当たり前じゃん。」
「オレはね、あいつにクリーム買わなきゃいけないの。ごはんも食べさせなきゃいけないの。やることいっぱいなの。大野さんのフォローしてる時間ないから。」
「おう。」
「…ありがと。」
ゆらゆらしてる。
みんな、ゆらゆらしてる。
どうすればいいって質問に
明快な答えが出せない。
どうすればいいかわからないことなんて、どうしようもないんだ。
なのに、大事な人のことになると、なんとかして助けたいと思う。笑顔になれるように、なんとかして、なんとかして。
何かをすれば相手が喜ぶわけじゃない。
そんなの完全にエゴなんだよ。
だけど、何もできないことは辛いことだ。
それは、よくわかる。
結局できるのは自分のことだけ。
お守り、か。
その言葉が、妙に残った。
期待はしていないはずなのに
なんだか悲しかった。
期待、してたんだな。
待ってるだけじゃ、ダメ、か。
多少の嫉妬心が自分にもあることが
ようやくわかった。
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