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とことこショート

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散歩で出会える人

散歩で出会える人

やっとここまで歩いてきた

散歩に出かけているけど
けっこう長い距離を歩いてきた
もう足腰が痛くて
ゆっくり歩いてる

道行く人は私を追い抜いていく
スーツを着て足早に歩いている人
自転車に乗って、軽快にこいでいる人

みんな私を追い抜いていく

このまっすぐな道
この先の私の人生みたいに長く続いているのだろうか

前から誰かが歩いて来る
私と同じペースみたい
ゆっくりゆっくり歩いている

やっと

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サラリーマンから保育士へ転身

サラリーマンから保育士へ転身

「私は、血の通った仕事がしたいんです」
上司の机に叩きつけた退職願。
生意気にもそんなことを言って会社を辞めた。

毎日、マニュアル通りの仕事をする。
自分自身がAIのような機械化されているように感じる。
だんだん自分では判断ができなくなって、マニュアル本やガイドブックがないと前に進めない。
日常で“考えること”をしなくなってきているように思えた。

そういう思考になったのは、平日に休みを取ってぶ

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RIVER【最終編】

RIVER【最終編】

青柳は、なんとか山本の個展を開きたいという思いで、編集長に何度も掛け合った。青柳自身も会場となる百貨店や美術館、骨董屋に至るまで、足を棒にして探し回った。疲れていても毎日が生き生きしている。
湧き立つ感情が青柳の足を前へ前へ進める。

一方で山本は、不法投棄されていたゴミを電動ノコギリで小さく解体していった。自転車の車輪、ハンガーラックのパイプ…これらの廃材をどう組み立てようか山本の頭の中は、無限

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RIVER【後編】

RIVER【後編】

二人の間に静寂が重くのしかかる。

青柳は言葉を失い、自分が有頂天になっていることを恥じた。この事実を山本一人で抱え込んでいる。
どんな言葉をかけたら良いのか…でも、山本のやっていることは賞賛に値するのではないか。
「山本さん、ごめんなさい。私は…私は…」
青柳は慰めの言葉を言おうとしたが山本の辛い気持ちを肌で感じ、感情が先に出て涙ぐんでしまった。
「あぁぁ青柳さん、ごめん。そんなつもりで言ったん

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RIVER 【中編】

RIVER 【中編】

ひと月くらいたった頃、また青柳が訪ねてきた。突然来た青柳を見て、山本はオロオロしている。
「こんにちは! 山本さん。今日はお話があって参りました。
私、◯◯新聞の記者をしております。
先日、山本さんに助けられて病院の関係者や救急隊の方達に、山本さんのお話を伺って大変興味を持ちました。
上司に企画を提案したらOKが出たので来たのですが、取材をさせていただけませんでしょうか?」
「新聞の記者さんだった

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RIVER 【前編】

RIVER 【前編】

このゆったりと流れる川が好きだ。
川を見ていると心が安らいで、ひとりでいても寂しくなく、心を許せる誰かと一緒にいる心地よさと似ている。

山本は、慈善事業で川のレスキューの仕事をしている。
川で子供が遊んだり、大人が酔っ払って飛び込んだり、危ない時は救助に向かうのだ。
時々、川に金属を不法投棄するものがいる。
川に落ちた時に身を傷つけないよう、それらを拾って清掃もしている。
その拾ってきた金属を加

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スピーチコンテスト【後編】

スピーチコンテスト【後編】

今度は本選…人前で5分…ステージに立って一人でスピーチをする。
息子よ、上がらずにできるだろうか?
さらなる特訓が始まった。
ケリー先生はオーバーリアクションで良いと言った。
「日本人は控えめすぎる、大きな声が出ずモゴモゴ言って会場の人たちに聞こえないことが多い」と言っていた。

それもそうだと感じていた。日本は、核家族化が進んでおじいちゃんやおばあちゃんと一緒に住んでいないことが多い。周りにもい

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スピーチコンテスト【前編】

スピーチコンテスト【前編】

サエコは悩んでいた。
駅前の名の知れた所にするか、自宅から5分程度のアットホームな所にするか…
息子の英会話教室をどこにするかで悩んでいた。
これからの時代、グローバル化は避けられない。SNSの発達、いつでも世界と繋がれる環境、サエコは息子を国際人として育てたいと思っている。
そのためには、小さい頃から英会話教室に通うべきだと考えていた。

まずは、駅前の名の知れた英会話教室を訪ねた。
スーツをバ

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夢【後編】

夢【後編】

美彩は合唱コンクールに向けて全力で練習に励んだ。それは、美彩にとって自分を変える良いチャンスだった。

歌うことが好き。
歌うことで、心の鎖や重りがなくなる。夢へ羽を広げて飛び立てるような気がした。
夢…美彩の夢は…

毎日の課題曲の練習、ソロパートの練習、ボイストレーニング、喉のケア、首顔のストレッチ…やれることは全部やる。
何かに一生懸命に打ち込んだことは初めてだった。
昨日の自分より今日の自

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夢【前編】

夢【前編】

2歳の頃から記憶があった。
みんなの前で歌ったり踊ったりすると、歓声を上げて拍手される。
音楽が流れると、身体が自然と動く。踊りで表現したくなる。
それが美彩にとって喜びを感じるものだった。

小学校に上がって分かったことがある。
歌ったり踊ったりすることは、誰にでも出来るものだと疑いもしなかった。それが出来ない子もいるのだと知った。
音楽の時間、みんなでドレミの歌を歌った。後ろの方からなんとも言

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クリスマスハプニング【後編】

クリスマスハプニング【後編】

大山は、仏壇の写真の三枝を見て遠い昔を思い出していた…

集結する人間の顔は殺気立っている。
自分の生活を守ろうとする農民、高度経済成長を破竹の勢いで押し通そうとする国家…

1966年に現在の成田空港の建設が決まってから始まった空港建設の反対運動。
1971年9月16日には、東峰十字路事件で空港建設反対派600人と警察官260人が衝突し警察官3人が亡くなっている。

1978年3月26日 成田空

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クリスマスハプニング【前編】

クリスマスハプニング【前編】

18歳の姉と12歳の弟の二人暮らし。
父さん、母さんは今年初め、交通事故により亡くなった。
今年のクリスマスは寂しく二人で迎える。

クリスマスマーケットは華やかに賑わっている。
ある露店に可愛らしい髪飾りが並んでいた。
姉はその髪飾りを欲しいと思うがお金がない。弟は取って走れば大丈夫だと言う。
ついに二人は実行してしまう…
露店の店主は怪しげな二人をマークしていた。やっぱりと思い追いかけた。どん

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当たり前なことは大事なこと

当たり前なことは大事なこと

『あー、やってらんない!』 
つい、思ってしまうこと。
家族が嫌いという訳ではない。
でも、私の中で沸々と湯が沸くように温度が上昇している。

『お義母さんの介護』
一年前に交通事故にあった。それ以来、右脚が不自由になって介護を要する事態となった。元々一緒に暮らしている。何をどうすれば良いのか意思疎通は取れていたのでそんなに苦痛ではない。
しかし、腰をかがめる動作が多く少し腰痛が気になり始めている

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ありがとう

ありがとう

私は93歳のおばあさん
もう、いい歳を迎えている
もうそろそろアッチにいってもいいかなと思う今日この頃

私の人生いろいろなことがあったわ
人生の山あり谷あり
谷の方が多かったかしらね
信じてこの道を歩いて来て良かったわ
信じるって自分だけじゃないのよ
自分の子供や孫たちまで想いが繋がるの
ほんと、ビックリしちゃう

おばあさんの私にも若い頃があったのよ
空想することが好きで
あぁなったらいいな、

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