可能なるコモンウェルス〈73〉

 アレントは、「明らかにアメリカ憲法の真の目的は権力を制限することではなく、もっと大きな権力を作り出すこと、全く新しい権力の中心を樹立し、それを正式に構成することであった」(※1)と言っている。このような考えは、「憲法とは、権力を拘束し抑制するものとして機能する」のだという、いわゆる一般的な「立憲統治」の理念とは、一見して対極にあるかのように思えるものである。
 ただし「権力=コモンウェルスとは何であるか?」ということについて、もしも少なからず「正しい認識」を持ちうる者であるのならば、この概念の正当性が一体どちらの方にあるものなのかは、おそらく一目瞭然のはずであろう。とはいえ、世の「現実」は後者のロジックにおいてすでに動いているということもたしかなのであって、それはいかんせん認めざるをえないところである。だが、それゆえに「事実」として憲法をめぐる思考の捻れというものは、ますます解き難い混乱と矛盾に陥ってしまっているのが、全くどうにも困りものなのだが。

 話を戻すと、「全く新しい権力の樹立」を目指し、その権威を根拠づけるものとしての憲法制定を企図した、アメリカ革命の人々の「精神」を支えたのは、「永遠の同盟を創設するほど強力な権力原理を発見したという確信」(※2)であった、とアレントは言うわけである。このような「確信」は、あらためて言えば「それ自体として必要とされる全ての法と統治の手段を、実際に構成し構築し執行していくのに十分な力を持つもの」と考えられる、アメリカ植民社会でのそれぞれ「独立」した、またそれぞれ「自立」した社会構成体の存在に、またそれら社会構成体の「結合」によって成立した「拡大されたコモンウェルス=政治体」の存在に、なおかつその成立過程の「経験」という現実に、その裏付けを持っていたのだというわけである。
「…そして、この権力の中心は、拡大してゆく広い領土全体にその権威を行使することになる連邦共和国に見合うように予定されていた。この複雑で精妙なシステムは、共和国の潜在的権力が侵害されないように、また共和国がさらに広がり、『他のメンバーが加わることによって拡大される』ようなとき、多様な権力の源泉が枯渇するのを防ぐように慎重に考案されていた…。」(※3)
 原理的に言うと、このような「権力の拡大」は、「それに加わるメンバーがあり続ける限りは、どこまででも拡大していくことが可能なもの」であり、その「新たに加わるメンバーがそれぞれ独自に持っている」ところの、「それぞれ各々独自の権力」が、けっして他から侵害されることも剥奪されることもないものであるがゆえに、この「拡大されたコモンウェルスの権力」もまた、けっして何によっても全く「減じられること」なく、それどころか「より強大なものとなる」はずなのであり、ゆえにこのように「際限なく拡大されていくコモンウェルス」に加わっているそれぞれのメンバーは、その「それぞれ独自に持っている権力」が、この拡大していくコモンウェルスに「加わっている限りで、現にあるそのままの形で保護され続ける」ことが担保されている、というわけなのである。そしてこの「安全保障の担保」により、さらにこの「同盟関係もまた維持され続け、より強固かつ強大なものとなっていく」のだと、人々には考えられていたわけなのであった。

〈つづく〉

◎引用・参照
※1 アレント「革命について」
※2 アレント「革命について」
※3 アレント「革命について」志水速雄訳

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