可能なるコモンウェルス〈72〉

 「一つの」国家としてのアメリカ共和国=合州国。その設立と、それに引き続く憲法制定に奔走した人々は、「より大きな『力』の結合」として彼ら自身が現実に経験した、アメリカ植民社会における「拡大=増大されたコモンウェルス」創設の過程にこそ、その正当性および権威性を見出していた。
「…独立宣言に先行し、あるいはそれと平行し、あるいはそれにつづいて、十三の植民地がすべて憲法を作成した…。」(※1)
 この「より大きな国家」アメリカ新共和国=合州国の設立に先行して、「それよりも小さな政治体」においてはそれぞれ「独自」に、または「自発的」に、すでに憲法が作成されていたのであった。ということは、そこにはすでにそれぞれ「独立したコモンウェルス」が存在していたのだということもまた、明白な事実として見出されてくるわけである。
 もしも仮に、それら「より小さな政治体」において作成されていたものが、たとえ「憲法という形態のものではなかった」としても、しかしそれでもなお、それ以外の仕方においていくつもの「独自のコモンウェルス」が、自らの独立性を何らかの形で表現していたことだろう。そして、「アメリカ合州国」とはあくまでもこのような、「独立したコモンウェルスの結合体」として出発していたはずのものなのであった。その意味するところとはすなわち、この「より大きな結合体=アメリカ合州国」が、それら独自のコモンウェルスを「解消して、一つのコモンウェルスに糾合した」というものなのではなく、またけっしてそのようなものであってはならないのだということを、「具体的に表現するもの」となっているわけでもあった。
 出発の地は、あくまでもこの「より小さな政治体」にある。この原点こそ新国家「アメリカ合州国」は、自らの存立正当性を担保する「権威」として、自らの存立構造に組み入れることが求められた。そしてこの「より大きな政治体=共和国」設立に向けた組み上げ=汲み上げの作業は、まずは各「州国家」の設立においてはじまっていたのであった。
「…『一般的な権威を……すべて、下位の諸権威から』引きだすという、マディソンがアメリカ憲法にかんして要求したことは、すでに植民地が州政府を設立するときにおこなっていたことを、全国的な規模でくり返したものにすぎなかった。州政府の憲法を起草した地方議会や人民会議の代表者たちは、その権威を正式に権威づけられた多くの下部団体----地区(ディストリクト)、郡(カウンティ)、郡区(タウンシップ)----から引きだしていたのであった。これらの下部団体の権力を侵害しないようにすることは、つまり彼ら自身の権威の源泉を維持することにほかならなかった。…」(※2)
 それ自体として必要とされる全ての法と統治の手段を、実際に構成し構築し執行していくのに十分な力を持つものと考えられる、「権力=コモンウェルス」の結合として現実に経験された、各「州共和国」の創設、およびそれを現実のものとすることを裏付けている「州憲法制定の過程」は、その過程を全国的な規模で反復するものとなる「合州国憲法制定の過程」において、まさしくその権威づけとして機能することとなった。「より上位における権力の結合」を裏付ける権威は、「より下位にある各権力相互における結合の、その事実=現実そのもの」において見出される。上位権力の結合が、その権威の正当性を損なうことなく実現されるものとなるためには、下位における各権力相互間での結合の、「その事実=現実そのものを、そのままの形式において引き継ぐ」のでなければならなかった。つまり、下位において現実になされたことを、上位においてもその形式として何一つ違えることなく引き継ぐことにより、そこで生じた権力が有する存立の権威もまた、「形式として何一つ違うことなく継承されうる」ものとなるのだ。
 だからこそ逆に、上位において諸権力=コモンウェルスが結合されることが、かえって「下位の各コモンウェルスが有する《権力》を侵害したり剥奪したりするようなものにならない」ように、そこから上位に見出されることとなる権力=コモンウェルスは、より細心の注意を払われなければならなかった。なぜなら「下位の権力を侵し奪う」ということは、すなわち彼ら=上位権力自身の有するべき「権威」を滅却させてしまうことに直結するわけなのだから。彼ら=上位権力が「実際に存立できている」のは、下位権力=コモンウェルス相互がしっかりと結合し支え合っているおかげなのである。下部権力を侵害せずに、あくまでそれをそのままに維持し、かつそれら互いの結合を「総体的に増大させていくこと」において、その増大された「権力の総体」である、「より上位における権力の結合」は、はじめてその「権力としての存立」を正当化うるのである。

〈つづく〉

◎引用・参照
※1 アレント「革命について」志水速雄訳
※2 アレント「革命について」志水速雄訳

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?