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新月下旅舟
2024年6月8日 04:37
題名『病院の桜』(隠しテーマ・春爛漫)あなたがいない初めての春です去年は病院の駐車場で桜を見ました押す車椅子さえ長く座れなくなっていたけれど私がどうしても見せたくて連れて行ったあなたはにっこりと笑って「きれーねぇ!」って言うと疲れたように目をつむって眠った私は残された時間に焦っていてあの頃はいろいろ無理をさせていた奇跡が続いて死なないんじゃないかって本気で考えてた
2024年6月6日 06:02
題名『入学式』(隠しテーマ・誰よりも、ずっと)入学式。期待と不安に押し潰されそうな会場にはスマホをこちらに向けた親たちがいた。同じ新入生にはニコニコしてる者やガッツポーズして親のカメラに写ろうとする者ひどく緊張してうつむきつまづいてる者早くも友達を作っている者ひとり言を喋っている者先生も様々だ。笑ってる、にらんでる、苛々してる、無表情、年齢も幅広い。私は「
2024年6月4日 05:50
題名『親孝行』(隠しテーマ・これからも、ずっと)私は、これからも、ずっと。そう、見慣れた部屋で時を過ごし、老いて、死ぬ。引きこもり?を始めたときに、覚悟はしていた。人生を捨てたのだ。心臓は動いているが、自殺したのだ。これからも、ずっと、親に迷惑をかけて心配もされるだろう。生きていることだけが、親孝行だから。世間的には無能で無駄な、生ゴミだろう。親孝行
2024年6月2日 03:57
題名『河川敷』(隠しテーマ・沈む夕日)昔、おじいちゃんと河川敷を散歩していた。ある日、沈む夕日を見ながら、「夕日はまるで青春の涙と思わんか?」急にそんなことを聞かれた。燃え尽きることも出来ず、やり残したこともいっぱいあって、濃く朱色に染まるのは、泣いて腫らした目のようじゃ。「どうしたん? じっちゃん」「詩人みたいじゃ」おじいちゃんは耳を触りながら、聞こえない振りをし
2024年5月31日 06:24
題名『オンナともだち』(隠しテーマ・君の目を見つめると) 彼女は職場が同じで仕事以外ではほとんど話さなかった。 ある夜、送別会で隣の席に座ったことがあって、お酒のせいもあったのか会話が盛り上がった。 それから時々、二人でお酒を飲むようになった。 彼女は明るい陽気なキャラに映っていたけど、彼氏が働いては「オレに合わない」と言って仕事を辞めることに振り回されて悩んでいた。だけど本気で彼
2024年5月29日 06:21
題名『はつ恋』(隠しテーマ・星空の下で)偶然ばったり 地元のお祭り初めて見た 君の私服は可愛すぎてそれからクラスで 意識をしてしまい視線が合えば 慌ててそらした母親ふたりが 仲良くなってて流星群を みんなで見たよね…あの公園で好きとも言えずに 卒業してしまい十年以上? 大人になってたはつ恋はいつも同じひかりを届けてくれる星空の下にいるように君のこといまも他人と比
2024年5月27日 05:18
題名『さよならの予約』(隠しテーマ・それでいい)このお店はパスタが人気なのこのメニューがいいんじゃない?「それでいい」今年の流行ならこんな感じだけど?さすが私!その服似合ってるじゃん「それでいい」今度の日曜日どこにゆく?久しぶりに遊園地で遊びたいなぁ「それでいい」たぶん、わかってるそれがいい、これがいい、君がいいあの日のあなたは、もういないそれでいい、これ
2024年5月25日 04:13
題名『プレゼント』(隠しテーマ・1つだけ)私の家は貧乏でしただから、幼い頃は我慢しました誕生日とクリスマス一年に二回だけ欲しいものを買ってもらえる小学高学年になるといつも母と交渉しました1つだけ?母も負けません1つだけ!ある年のクリスマス姉が私に言ってきました1つと1つ、足さない?そして何万もするゲーム機買わない?考えてみれば奇妙です数千円と数千円
2024年5月23日 05:38
題名『くだらない日々』(隠しテーマ・大切なもの) ぼーっとしたり、テレビを見たり、ゲームをしたり、だらだらスマホでSNSを眺めていたり、時間の無駄遣いは天才だった。 学校の授業は、いかにも聞いてるふりして空想の世界へ飛んでいた。気づけば?好きな子の横顔を盗んで見ていたことは毎度のこと。 親の言うことは聞かず、逆らい反発することがカッコいいとさえ思ってた。 社会の歯車に順応しよう
2024年5月21日 06:25
題名『別れ話』(隠しテーマ・エイプリルフール) エイプリルフールはいろいろ諸説あるけれど、イギリスのオークアップルデーや、フランスの旧正月を貴族が祝ってた説や、インドの揶揄節なんかもあって、午前中しか嘘は駄目って五月の祭りだったオークアップルデーのしきたりが近年広がっただけで…、 うん、うん、うん、へー、知らなかった、すごい、よく知ってるねー、 男は知識を競い合い優位に立つ会話が好
2024年5月19日 05:20
題名『プラットホーム』(隠しテーマ・幸せに)新幹線の上りのプラットホーム荷物は日付指定で送ったらしい遅めの桜が駅のベンチまで舞い落ちる君も薄めのピンク色の洋服で女友達とはしゃいでた発車のベルと音楽が鳴りイカツい鼻の天狗のようなヤツがくるお腹をすかした餓鬼のように乗客たちを食べ尽くすガラスの窓越しに泣きながら必死に手を振る君がいる恋じゃなく、友達を選んだ未来の切符
2024年5月17日 06:26
題名『閉店時間』(隠しテーマ・何気ないふり) チリン、チリチリリン。 鈴の付いた定食屋の古いドアを開けたように、賑やかな音を響かせてあなたは出て行こうとする。 後悔という、お釣りも受け取らず、たくさんの管を付けたまま、酸素マスクは曇ってる。 私を泣かせないためか、いつもの優しい顔で、穏やかな顔で、何気ないふりで、密やかにあなたは死にました。 何気ないふりで、しばらく呆然として