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𝚂𝚘𝚞𝚟𝚎𝚗𝚒𝚛.

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旅の記憶 Ⅱ( May 2022~ )
『 旅の記憶 』の バックナンバー(2冊目)です。東京を離れ、直島で暮らしはじめてからのこと。
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はじめまして、直島。

はじめまして、直島。

31th May 2022

岡山からフェリーを乗り継ぎ、直島へやってきた。
今日からしばらく、ここで暮らすことになる。

荷解きを終える頃には、もう日付が変わっていた。
親友から『誕生日おめでとう』というメッセージが
0時ぴったりに届いて、この日を迎えたことに気づく。

前の住人が使っていた家具をととのえ、眠りについた。



朝 目が覚めると、窓の光と 緑が眩しい 。

" ああ、い

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待ち合わせは、隣の島で。│ 豊島美術館

待ち合わせは、隣の島で。│ 豊島美術館

Jun.2022

自然と日記を綴りたくなるような。
わたしが覚えておきたい記憶とは、だれかと過ごした 些細な時間のことかもしれない。

直島に来たばかりの頃、ひとりの女の子と仲良くなった。彼女は宮古島からやってきた、綺麗で、どこか不思議な雰囲気を纏ったひとだった。

いろいろな場所を旅をしていて、もう次の春には海外へいくつもりなのだという。彼女のつぎの移住先がとなりの豊島だというので、ひと月が経

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エル・グレコの、天使に会いに。│倉敷・大原美術館

エル・グレコの、天使に会いに。│倉敷・大原美術館

Jul.2022

島暮らしをはじめて、旅をすることが 日常になった。

" ちょっとした休みの日にも、
気軽に旅行に いけたらいいのに "…

東京にいる頃から、ずっとそう思っていた。

海や自然と ともに暮らすこと。
思い立ったときに、好きな場所に行けること。

それが わたしの、理想の暮らしのかたちだった。

長野での旅を終えるまで、一人旅は苦手だった。
美しい景色や

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遊牧民のわたしと、 農耕民族の彼女│La forêt des murmures

遊牧民のわたしと、 農耕民族の彼女│La forêt des murmures

Oct.2022

豊島で過ごした日から 7ヶ月。去年の旅と同じように、また 5月に、彼女と再会できた。

伊勢神宮へと向かう 列車のなかで、やっぱり彼女は
自分は「農耕民族」なのだと言い、わたしを「遊牧民」と呼んだ。

朝、ひと足先についた豊島の港で、やってきたフェリーから降りてくる人たちを見守っていた。なだれこむ人影のなかに 彼女をみつけて、思い切り手をふる。

そう 明るく手を振り返してく

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死を想い、今日という日の花を摘む │ Les Archives du Cœur

死を想い、今日という日の花を摘む │ Les Archives du Cœur

Oct.2022

ボルタンスキーに はじめて出会ったのは、2019年。
国立新美術館で 開催された、展覧会でのことだった。

響き渡る咳の苦しそうな声、遺骨入れを思わせるブリキ缶、ホロコーストを彷彿とさせる、積み上げられた衣類の山… その会場には、" 死の気配 " が充満していた。

人間の不在。かつては " そこにいた " という 気配。

そんな 異様な雰囲気でありながらも、ひとつひと

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島暮らしの冬、親友が会いにきた。

島暮らしの冬、親友が会いにきた。

Dec.2022

早いもので、直島にやってきて半年が過ぎた。

紺碧の海に浮かぶ、現代アートの楽園。

初夏の誕生日にやってきてから、夏と秋と季節が過ぎ
空気の澄んだ冬がやってきた頃、海をこえて
親友がここまで会いに来てくれた。

瀬戸内の海は青い。
それは幼い頃から見ていた 江ノ島海岸の灰色とも、
穏やかな葉山の 白昼夢のような水色とも違っていた。

目の覚めるような、透明でありながら
どこか

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海のまち、ちいさな島のクリスマス

海のまち、ちいさな島のクリスマス

Dec.2022

以前住んでいたのは、美しい港町のほど近く。

ひょんなことから、学生時代の友人たちと
再会したのは、去年のクリスマスのこと。
卒業式以来、10年ぶりの再会だった。

新入生として はじめて入った教室で、彼女たちは
わたしの前と後ろの席に座っていた女の子たちだった。

さて 早いもので、あっという間に 今年もまた
クリスマスがやってきた。

2週間前に新居に越してきたと思えば、来

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また何度でも、旅にでよう。 │倉敷・再訪

また何度でも、旅にでよう。 │倉敷・再訪

Dec.2022

「車出します!海さんの好きな場所に行きましょう!」

岡山から直島へやってくる、5歳年下の女の子。
身体を壊してしまって以前の仕事は辞めることになったけど、無事に新しい仕事も始まり、はじめて一緒に遊びに出かけた。

ちょっと前に来たばかりの小さな街なので、どこにどんなお店があったかもよく覚えていた。一方、「倉敷に来るの、3年ぶりなんですよ~」という彼女。地元民というのは、案外そ

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Day1. はじまりの記憶をめぐる旅│大塚国際美術館 Ⅰ

Day1. はじまりの記憶をめぐる旅│大塚国際美術館 Ⅰ

Feb.2023

美術を好きになったのは、高校生のときのこと。
芸術研修のために、イタリアへ行ったことが はじまりだった。

当時のわたしは レオナルド・ダ・ヴィンチだけは辛うじて知っているものの、ミケランジェロもラファエロさえも知らない、絵を描くことが好きなだけの学生だった。そんな無知な学生ながらもイタリア美術史を学んだ一年後、その地を踏んだときの衝撃は、今でも忘れることができない。

およそ

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Day1. はじまりの記憶をめぐる旅│大塚国際美術館 Ⅱ

Day1. はじまりの記憶をめぐる旅│大塚国際美術館 Ⅱ

Feb.2023

イタリアのことを書くだけで、楽しくていくらでも書けてしまう。ルネサンスだけでなく、バロックのこともゴシックのことも、その先のほかの国の芸術のことも書きたいけれど、思い出を綴ろうとすると終わりがない。

現地で観た絵画だけでなく、日本にやってきた世界中の絵画と、ここで再会することができたのも嬉しかった。「あの展覧会で観た」とか「あの子と一緒にみて、二人とも好きな絵だった」とか。そ

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Day2. 奥村土牛の "翡翠" の海を見る│鳴門・渦潮

Day2. 奥村土牛の "翡翠" の海を見る│鳴門・渦潮

Feb.2023

絵画って、自由だ。
草木を "緑色" で 描かなくてもいいし、たとえば海だって、"青色" で 描かなくてもいいのかもしれない。

日本画の展覧会に足を運ぶようになったのは、大学生の頃に、東山魁夷の絵に出会ったことがきっかけだった。

寺院、そして日本庭園。大人になると味覚が変わるというけれど、その良さがわかるようになるまで時間を要するものがあるかもしれない。日本画の展覧会に足を

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旅をすること、 暮らすこと。

旅をすること、 暮らすこと。

Jan.2023

年末年始を乗り越えて、1週間の休暇をもらった。
申請したのは3日間だけだったのだけど、そこに4日間がプラスされた7連休。

以前の仕事では、どれだけ取りたくても難しかった長期休暇が、こんなにあっさりもらえるなんて。(嬉しいけれど、できればもう少し早めに知りたかったところ)

さすがに1週間ともなると、国内旅行ではもったいない気がして「これは海外に行くしかない!」と思い立つ。けれ

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