映画『デタッチメント 優しい無関心』
2011年/製作国:アメリカ/上映時間:97分
原題 Detachment
監督 トニー・ケイ
※日本「劇場未公開作品」。「レンタル」、もしくは「ソフト購入」により視聴可能。
予告編(海外版)
Story
アメリカ。
代用教員として荒れた学校を渡り歩くヘンリー・バース。
ヘンリーの一校への滞在期間は数週間程度。そのため生徒や同僚教師達と深い関係を構築することは出来ない。しかし子ども時代に負ったトラウマを抱え、他人と深く関わることを避けているヘンリーにとっては、むしろそのような関係の方が居心地が良かった。
しかし新たに赴任することになった荒廃しきった高校にて奮闘する日々の中、売春行為を行うまでに身を落とした家出少女エリカと出会い、放っておけずに自らの掟を破り自宅に保護してしまったことにより、ヘンリーは否応なく他人の人生と深く向き合わざるを得なくなり、その人生は思いもしなかった方向へと大きく変化してゆくこととなる・・・
タイトル「Detachment」 意味
1:「分離」「脱離」「孤立」
2:「私心がない【公平な・客観的な】こと」「超然とした態度」
3:(軍隊の)「分隊」「特殊部隊」等の軍事用語
「感情的に関わらない」ことを指す場合や、「世俗の利害にとらわれない」ことを表す場合等に用いられる。
とのこと。
レビュー
一人の男性教師の視点を中心に、現代アメリカの低所得者地域にある公立高校の教育現場の実情を、真撃に、且つ忖度なしに鋭く描く本作はしかし、学校教育に関する事柄だけが主題ではない。
実は、より大きな主題として、登場人物各々が抱える自己の「心理的葛藤」と、それを抱えた状態での他者との「距離(接し方)」を、どのように選択し維持してゆくかという、人口密集地である都市空間において必然的に生じる、コミュニケーションに関する永遠の課題についての考察が中心に据えられている。
さらには政治システムの荒廃と至らなさ等についての言及も主題のひとつとして扱われており、良く言えば内容の濃い、悪く言えば過密で遊びの無い構成となっている。
ただ個人的には、製作者側の奥深い知性と燃え滾る感情、そして現状の社会システムへの至極真っ当な不満と主張がマグマのように噴出し迸っている本作は、最高に好きな類の作品であり、驚く程多くの体験を授けてくれた傑作であった。
※これほどの内容を「97分」にまとめ上げたのは凄いし、タイトにすることにより発生した粗の部分は、鑑賞者が脳内補完すれば良いため全く気にならなかった
内容について語りだすと止まらなくなるであろうし、ネタバレとなるため触れずにおくが、「本作の台詞の多くが至言であり、それゆえに台詞を追うだけでも大いに楽しめる作品であった」ということだけは、明記しておきたいと思う。
「言葉」と「会話」、そして「読み書き」。それらが現代を生きる私たちの人生において(人生を決定付けることとなる対人関係において)如何に重要なものとして存在しているのか(又は「存在してしまっている」のか)を、本作には改めて学ばせてもらった。
また、本作にはあらゆる暴力が登場する。
というか、日々の中で私達がよく遭遇する暴力のパターンの、半数以上を取り上げていると言っても過言ではない。
私達は日々、多かれ少なかれ、なんらかの暴力に晒されながら生きており、場合によっては(意識「する」「しない」に関わらず)他人に暴力を振るってもいる。さらには他人が暴力を振るわれている姿に「当たり前のように」遭遇する。
そして他人が暴力にさらされているのを目撃した場合、私達はその他人と、どのような「距離」にて接してゆくのかを「選択」せざるを得ない状況に自動的に追い込まれてしまう。しかもその「選択」により発生する相手との「距離」のパターンは、無限に存在している。
例えば大まかに考えるだけでも「全くの無関心に、気にも留めない」「無関心ではないものの、自分の手には負えないと判断し一切関わらずに傍観する」「相手との間に明確な線引きをした上で、間接的に(一定の距離を保ちながら)出来る限りの援助を行う」「相手との身体的な距離を縮め、リスクを覚悟で、自分の命(時間)を費やし、直接且つ親密に、相手の人生に関わる」等々、限りなくある。
ちなみに、暴力に晒されている他人に関心を持ち距離を縮めて関わることをしなければ大抵の場合、暴力に晒されている他人を助けることは出来ない。しかしもし距離を縮めて直接相手に関わったなら、即座に相手に対する「責任」が発生し、それを負うこととなる。
当然ながら私達は、全ての他人に関わることの出来る時間(命)や体(体力)を持ち合わせてはいない。それどころかむしろ自分の抱えている問題により、時間も体も手一杯だったりする。
そのような日々の中、常に変化し続ける自分と他者との間に、どのような「距離」を選択(設定)してゆくのか。
本作の主人公の「とある選択(決断)」と「ラストシーン」は、多くの鑑賞者の心を捉えるに違いない。
Artwork
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