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映画感想・メモ

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映画感想文と映画にまつわるアレコレを集めています。
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鏡(アンドレイ・タルコフスキー)映画感想文

鏡(アンドレイ・タルコフスキー)映画感想文

鏡(アンドレイ・タルコフスキー監督、1975)

なんと美しく静かな映画だろう。
雨、水溜り、炎、そして記憶の断片。
冒頭、柵に座って煙草を吸っている主人公の母。その母をカメラがじっと見つめている。そこに遠くから医者がやって来て道を尋ねてくる。医者も一緒に煙草を吸おうとして柵に座ると柵が壊れて二人とも転がり、医者が笑う。草が風で揺れている。
このシーンだけでも美しくすばらしい。
ただ絵的な美を追求

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『竹取物語』と『かぐや姫の物語』について考えていること

『竹取物語』と『かぐや姫の物語』について考えていること

高畑勲監督のアニメーション映画『かぐや姫の物語』(2013)の疑問点というか不思議だったのはかぐや姫が原作の『竹取物語』より弱い……というより優しい人間として描かれていたことです。(2024.4.6改訂)

原作のかぐや姫は気高く計算深く高潔で、それでいてエロティックでもあり、女性として男に辛辣すぎるのではというぐらい強い。

文豪・川端康成が書いた『竹取物語』についての解説から引用するならば、『

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瞳をとじて(監督:ビクトル・エリセ)を観て寝てしまった。映画感想?駄文

瞳をとじて(監督:ビクトル・エリセ)を観て寝てしまった。映画感想?駄文

2024.3.3 川崎市アートセンターにて観ました。

良い映画だったと思う。たぶん。

というのも観ている途中うとうとしちゃったから💦

最初からやばいなあ寝そうだなあという予感があったものの、見事、瞳を私はとじてしまいました。

ビクトル・エリセの31年ぶりの映画なんだから映画ファンとしては絶対スクリーンで観なくてはいけないと思って観たけど……。思えば『ミツバチのささやき』もDVDで観た時途

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ボーはおそれている 映画感想

ボーはおそれている 映画感想

2024.2.21に観てきました。

この映画を一言で表すと、

「もう勘弁してください!」

アリ・アスター監督と主演ホアキン・フェニックスによる盛大な悪夢御伽話、またはアリ・アスターの壮大な自己セラピー。

アリ・アスターはいつも自伝を書くように映画を撮っている。少なくとも自身の経験、しかもトラウマを基に映画をつくっているように思える。
『ヘレディタリー/継承』をつくっても、『ミッドサマー』を

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PERFECT DAYS 映画感想文

PERFECT DAYS 映画感想文

いつも近くにいてほしい映画。

何か特別なことが起きるわけではない。

東京の公衆トイレ清掃の仕事をしている男(役所広司)の日々の話。

映画館を出た後夕陽を浴びながらハイボールを一杯呑みたくなった。というか呑んだ。

それと映画を観た後サブスクでルー・リードの”Perfect Day”、ローリング・ストーンズの”めざめぬ街”、金延幸子の“青い魚”、ニーナ・シモンの“Felling Good”など

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『戦場のメリークリスマス』と私

『戦場のメリークリスマス』と私

1983年公開、大島渚監督の映画『戦場のメリークリスマス』(以下『戦メリ』)の存在を知ったのは、『フィルムメーカーズ 2 北野武』 (責任編集:淀川長治、キネ旬ムック)の中で紹介されていたのを中学生の時に読んだ時だ。
その時はビートたけしの出演作品の中でとても重要な一本だという認識だけだった。
その本を読むのと同時期に坂本龍一の『/04』と『/05』というアルバムを聴き当然のごとく“Merry C

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動かない映画 『ジャンヌ・ダルク裁判』と『アンナ・マクダレーナ・バッハの年代記』

動かない映画 『ジャンヌ・ダルク裁判』と『アンナ・マクダレーナ・バッハの年代記』

最近、動かない映画を2本観た。

監督:ロベール・ブレッソン
『ジャンヌ・ダルク裁判』(1962)

こんな映画初めて観た。
ひたすらジャンヌ・ダルクが地下牢と裁判の行き来だけをし、最後に処刑台で磔にされ火炙りにされて終わる。
回想シーンなどない。無駄なカメラワークもない。音楽も冒頭と最後しかない。
あまりに無駄がなさすぎて観ている間は正直なぜこれを観せられているのかと退屈になっていたが、観終わっ

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表現とは「対話」だと大林宣彦監督から教わった。

表現とは「対話」だと大林宣彦監督から教わった。

2019年2月に、映画作家の大林宣彦監督から直筆のお葉書が届きました。

僕は次のようなある悩みを手紙に書いて大林さん宛に送ったのでした。

我ながら長いっ!重いっ!

そして、そのお返事が来たのです。
一部抜粋します。

芸術表現とは、送り手と受け手の等しい「対話」なんですね。

noteというものも表現による「対話」のためにあるように思います。

記事を書く人も記事を読むだけの人もコメントをお

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黒澤明監督の言葉でぼくは映画の見方を変えた。

黒澤明監督の言葉でぼくは映画の見方を変えた。

上の綾野つづみさんの記事
【映画感想文】小学生は『君たちはどう生きるか』をどう見たのか

を読んで、黒澤明監督が文藝春秋1999年4月号の企画『黒澤明が選んだ百本の映画』の中で次のように語っていたのを連想しました。

映画について理論的に分析したりするのも大切な勉強の一つなので、例えば批評する際に分析・読解をやらないよりやった方がいいとは思いますが、でも最終的には淀川長治さんみたいにそして子どもの

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映画『シェルタリング・スカイ』を観て雑感

映画『シェルタリング・スカイ』を観て雑感

シェルタリング・スカイ

公開年:1990年
監督:ベルナルド・ベルトルッチ
原作:ポール・ボウルズ
音楽:坂本龍一
出演:デブラ・ウィンガー、ジョン・マルコヴィッチ、キャンベル・スコット等

映画

原作小説

タバコ、セックス、音楽、ギャグの描写が原作小説よりマシている。
しかしマシているからと言って良い方向に行っているかと言うと一寸疑問である。
ある部分を除き原作のダイジェストのようになって

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映画について改めて思い知ったこと

映画について改めて思い知ったこと

宮﨑駿監督の映画『君たちはどう生きるか』について考えたこと、調べたことを改めてまとめてみようと試みた。
結果全然まとまらず、しばらく途方に暮れた。

いつだかに似たような経験をしたなあとふと振り返ってみると、ああ思い出したくもない、最悪の結果に終わった大学の卒論を書いていた時と同じ苦しみであった。
奇しくも卒論は同じスタジオジブリ制作、監督は高畑勲氏の映画、『かぐや姫の物語』についての研究だった。

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『君たちはどう生きるか』をどう誤解するか(2023.7.29改題・内容改訂)

『君たちはどう生きるか』をどう誤解するか(2023.7.29改題・内容改訂)

2023.7.14初鑑賞

宮﨑駿さんの監督作品ともなれば、あらゆる分析ができるわけで、今回の『君たちはどう生きるか』にしても、たとえばあの空から降ってきた物語の主軸となる不思議な塔は、あれはスタジオジブリそのもの、あるいは宮﨑駿監督作品そのもの、あるいは日本のアニメ史ではないかという指摘もあります。

そして塔の内部の世界観、すなわち主人公眞人の冒険譚は、宮﨑さんが今作の作品制作に取り掛かるきっ

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