頭の中のぐるぐるがおさまるまで正体を隠すよ

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記事一覧

ふわふわ脳みそ

羊を数えたのに、眠れない。 497、498、499、500。 500匹目の羊を飼い始めた頃には 頭の中は わたがしみたいなふわふわで埋め尽くされて、わたしは ぬいぐるみみたいな ふ…

ゐ
1か月前
2

自分が自分のものであるために必死で言葉を生み出す度に、誰かの傀儡として生きていた頃の息のしやすさを思い出すのでしょうか。あなたにあなたとして生きて欲しいと願うこ…

ゐ
1か月前

天国ユートピア

ひとりで音楽をしていた頃、よく天国について考えた。脳内に構築された天国は、ユートピアだった。私が音楽を始めるきっかけをくれた人の唄が絶えず流れていて、大人になっ…

ゐ
1か月前

花束

くさい恋愛小説のような言葉で綴るのは、あの人を傷つけた自分をどうにかして違う人に仕立て上げるためで、ドラマチックな言葉で売り出してフィクションみたいに楽しもうと…

ゐ
1か月前
1

きれいなせかい

18歳で家を出た。かつて愛したきれいなせかいを再現したくて、白いベッドとピンクのカーテンで部屋を飾った。きたないものは、全部実家の机やクローゼットに眠らせてきた。…

ゐ
1か月前
2

きたないことば

初めて「死ね」と書き殴った小学生三年生の夜、ひとつ大人に近づいた。「きもい」と口に出した小学五年生の放課後、もうひとつ大人に近づいた。高校時代、早朝の満員電車に…

ゐ
1か月前
8

心のそと

充電の減りがやけに早いノートパソコンと、硬いままの雪見だいふくと、なんだかよく分からない白い毛に塗れたスーツとともに生きた。多分、温度のないものたちにも多少の救…

ゐ
1か月前
10

「東京のせい」

1年前の寒い季節の話 1月、長年崩壊寸前で堪えていたはずの心があっけなく全壊した。雪が降りそうなくらいに冷え込んだ夜のことだった。 産まれてこの方、愛と信じ切って…

ゐ
2か月前
3

青い呪い

物心ついた時から、青色が好きだ。 SNSのアイコンも、歯ブラシも、愛用しているクリアファイルも、今着ている部屋着も、全部が青い。 おまけにバンドのイメージカラーも青…

ゐ
2か月前
5

二次会

「ドレス持ってないから、同窓会には行かない」 去年の1月、成人式の後の集まりに、君は来なかった。普段からボーイッシュな服装を好む君らしい理由だなと、変わらないな…

ゐ
4か月前
7

23世紀

私は今日、200回目の誕生日を迎えたよ 君が眠っている間に 不老不死の薬ができて あっという間に23世紀を迎えた 君が眠っている間に 心がデータになって 愛情はUSBメモリ…

ゐ
5か月前
2

0から1になる

成人年齢が18歳に引き下げられた。 だから私は3年前から正真正銘の大人で、21歳の始まりは大人4年目の始まりとも言える。 3年目が4年目になることは何ともない。 問題は、…

ゐ
5か月前

寿命、あるいは時限爆弾

「好き」が時限爆弾になって、幾つも体内に埋め込まれている。 機械仕掛けの感情は、飼い慣らせない。 爆発までの残り時間を私は見ることができない。 ずっと、何かを、…

ゐ
6か月前
4

さよなら神様

いろんな神様のもとを渡り歩いてきた。 親なり、恋人なり、親友なり、音楽家なり、誰か1人の絶対的な存在が、手を引いて正解に導いてくれる。そんな生き方が楽だった。考…

ゐ
7か月前
6

心は消耗品(歯磨き粉)

「心は消耗品」だなんて陳腐な言い回しだけど、そうとしか言いようのない現象が度々起こる。 もう好きだった人を思って詞は書けないし、好きだった曲に泣くことも出来ない…

ゐ
7か月前
1

朝焼けを飲みたい

バンドの深夜練習を終え、疲労困憊で重たい身体を引きずりつつ、新宿からの始発に乗った。20分も各駅停車に揺られていると、誤魔化しが効かなくなった吐き気によって途中下…

ゐ
7か月前
3

ふわふわ脳みそ

羊を数えたのに、眠れない。
497、498、499、500。

500匹目の羊を飼い始めた頃には
頭の中は わたがしみたいなふわふわで埋め尽くされて、わたしは ぬいぐるみみたいな ふにゃふにゃになる。

小さい頃、木製の大きな棚をマンションに見立てて ぬいぐるみたちを住まわせた。
そこには確たるヒエラルキーが存在していて、弱肉強食だとか年功序列だとか、大人がそう呼ぶような仕組みが たしかに敷かれて

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自分が自分のものであるために必死で言葉を生み出す度に、誰かの傀儡として生きていた頃の息のしやすさを思い出すのでしょうか。あなたにあなたとして生きて欲しいと願うことは、食事をするように苦しみを飲み込むことを義務としてしまうことや、あなたの心を殺してしまうことと同義なのでしょうか。四月の寒い日、六畳一間にひとりぼっちの無防備な心を、あなたに見せつけてみたい。私は私のものでありたいのに、そういった正当な

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天国ユートピア

ひとりで音楽をしていた頃、よく天国について考えた。脳内に構築された天国は、ユートピアだった。私が音楽を始めるきっかけをくれた人の唄が絶えず流れていて、大人になって着るのが恥ずかしくなった水色の甘いワンピースを着ている。チルシスとアマントみたいな見知らぬ精霊なんていないし、横暴に転生先を決める神様もいない。好きなものに、きれいなものに囲まれて、好きな人が天国に来た時は嬉しいだろうかそれとも悲しいだろ

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花束

花束

くさい恋愛小説のような言葉で綴るのは、あの人を傷つけた自分をどうにかして違う人に仕立て上げるためで、ドラマチックな言葉で売り出してフィクションみたいに楽しもうとしている。承認欲求と紙一重の最低な防衛本能を満たし切るために、最後のあの人との話を。

別れを告げてから2度目の春が来る。
まだ、この寒い日を花冷えと呼んでいい程 暖かい日は重ねられていないから、(花冷え)とでもしておく。

人に弱さを見せ

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きれいなせかい

18歳で家を出た。かつて愛したきれいなせかいを再現したくて、白いベッドとピンクのカーテンで部屋を飾った。きたないものは、全部実家の机やクローゼットに眠らせてきた。14歳で撮ったプリクラも、下手くそな二次創作も、二の腕がいやに締め付けられる安物のTシャツも、置いてきた。詞を書き綴ったノートだけは連れてきた。汚れてしまったせかいのなかで、自分の書く言葉だけが標のように光っていたから。

2年経っても、

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きたないことば

初めて「死ね」と書き殴った小学生三年生の夜、ひとつ大人に近づいた。「きもい」と口に出した小学五年生の放課後、もうひとつ大人に近づいた。高校時代、早朝の満員電車に揺られながら、頭の中できたないことばたちを繰り返し唱えた。大人になる1歩手前にいた。大学二年生の冬、両親に向かって汚い言葉を吐いた。大人になったと思った。

幼少期、テレビに出ている大人は、私と違う言葉を話した。大きな口をした司会者が、間抜

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心のそと

充電の減りがやけに早いノートパソコンと、硬いままの雪見だいふくと、なんだかよく分からない白い毛に塗れたスーツとともに生きた。多分、温度のないものたちにも多少の救済能力はあって、例えば雪見だいふくの蓋裏のメッセージなんかは、量産だとしても少し心を補修してくれるような、そんな気がしている。スーツやノートパソコンは、社会に適合しながら生活しているという錯覚を起こさせて、まともな生き方をしている幻覚を見せ

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「東京のせい」

「東京のせい」

1年前の寒い季節の話

1月、長年崩壊寸前で堪えていたはずの心があっけなく全壊した。雪が降りそうなくらいに冷え込んだ夜のことだった。
産まれてこの方、愛と信じ切っていたそれが、精巧な偽物なのだということが明るみになった。全てを誰かのせいにしたかった。そうしないと立っていられなかった。

相応の見返りを求められるくらいなら、大事にされない方が生きやすいと思った。
だから、壊れた私を治そうとしてくれた

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青い呪い

青い呪い

物心ついた時から、青色が好きだ。

SNSのアイコンも、歯ブラシも、愛用しているクリアファイルも、今着ている部屋着も、全部が青い。
おまけにバンドのイメージカラーも青い。
色のもつ呪力に操られて、時に操って生きているような気がする。

カメラロールを見返していたら、残しておきたい記憶には無意識に青色を置いていることに気が付いた。
大切な人たちとは海に行き、特別な日には青い服を着ている。青くない記憶

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二次会

二次会

「ドレス持ってないから、同窓会には行かない」

去年の1月、成人式の後の集まりに、君は来なかった。普段からボーイッシュな服装を好む君らしい理由だなと、変わらないなと思った。

ホストになった男の子も、ママになった女の子も、私と同じようなボブヘアの男の子もいたけれど、彼らのどんな話よりも君の話が聞きたかった。
恩師たちからのビデオメッセージが流れ、笑いと感動の熱が冷めないまま会は閉じた。二次会のカラ

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23世紀

23世紀

私は今日、200回目の誕生日を迎えたよ

君が眠っている間に 不老不死の薬ができて
あっという間に23世紀を迎えた

君が眠っている間に 心がデータになって
愛情はUSBメモリに保存した

君が眠っている間に 空中飛行が主流になって
通った小さな駅はなくなった

数え切れない程の始まりと終わりが世界を作ること、その終わりとともに終われないのがたまらなく惨めなこと、散り際が綺麗というのは案外道理にか

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0から1になる

0から1になる

成人年齢が18歳に引き下げられた。
だから私は3年前から正真正銘の大人で、21歳の始まりは大人4年目の始まりとも言える。
3年目が4年目になることは何ともない。
問題は、一の位が0から1になること。

生活が、1にしたくなかった0で溢れ返ってしまった。上手く付き合っていかなくてはならない。1度知ってしまった不快さを、酷く現実味を帯びたまま予期できてしまうから動き出せなくなる。緩衝材代わりの好奇心が

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寿命、あるいは時限爆弾

寿命、あるいは時限爆弾

「好き」が時限爆弾になって、幾つも体内に埋め込まれている。

機械仕掛けの感情は、飼い慣らせない。
爆発までの残り時間を私は見ることができない。

ずっと、何かを、誰かを好きになることは爆発を待つことと同義だった。終わりまでの暇つぶしのような時間を大切だと思ってしまうから、怖かった。爆発の跡が虚しく煙を上げていた。

延命治療が効かない好意に、その爆発の威力に、ただの燃えかすになった思い出に、傷つ

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さよなら神様

さよなら神様

いろんな神様のもとを渡り歩いてきた。

親なり、恋人なり、親友なり、音楽家なり、誰か1人の絶対的な存在が、手を引いて正解に導いてくれる。そんな生き方が楽だった。考えなくてよかったから。

神様は、いつだって正しい。私の好きだった人を酷い言葉で罵った神様1号も、自死を美化した2号も、お酒と煙草に溺れた4号も、当時の私にとっては正しかった。だから並べられた御託に笑って頷いて、熱心な信徒でいることを

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心は消耗品(歯磨き粉)

「心は消耗品」だなんて陳腐な言い回しだけど、そうとしか言いようのない現象が度々起こる。

もう好きだった人を思って詞は書けないし、好きだった曲に泣くことも出来ない。浴びせられた酷い言葉に傷を増やされることもない。

色々な種類の心を持ち合わせている。
甘かったり、苦かったり、美味しかったり、美味しくなかったり、時には不良品だったりする。
いくつも消費して、使い切って、使いきれずに捨てたりもして、新

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朝焼けを飲みたい

バンドの深夜練習を終え、疲労困憊で重たい身体を引きずりつつ、新宿からの始発に乗った。20分も各駅停車に揺られていると、誤魔化しが効かなくなった吐き気によって途中下車をする羽目になった。

降りたのは、「花」という字が入る綺麗な名前の駅。思い返せばあの駅に吐き気を催した私はかなり不釣り合いだったが、そんなことを考える余裕もなかったので、エスカレーターを駆け上がってトイレを探した。

死人色だった顔に

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