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記事一覧

活動なしに快楽は生じない。同時に、あらゆる活動を完全なものにするのも快楽である。

活動なしに快楽は生じない。同時に、あらゆる活動を完全なものにするのも快楽である。

文化の読書会ノート。

アリストテレス『ニコマコス倫理学』第10巻 快楽の諸問題と幸福の生

納富信留『ソフィストとは誰か』と交互に読んでいる(読み終えたので、正確には「きた」)。

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第10巻は前半、快楽について論じ、半ば以降は幸福を語り、後半は知性の至高性や徳と幸福を経由して教育・立法・政治で終わる。つまり政治学の序章にあたる。

ここでは快楽について

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書き言葉は話し言葉の影に過ぎない

書き言葉は話し言葉の影に過ぎない

文化の読書会ノート

納富信留『ソフィストとは誰か』第2部第8章 言葉の両義性ーアルキダマス『ソフィストについて』 結び ソフィストとは誰か

(アリストテレス『ニコマコス倫理学』と本書を交互に読んでいる)

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アルキダマス『ソフィストについて』は、古代ギリシャの知的活動にあった、今の時代では忘れ去られた影を時代の証言として浮彫にしてくれる。

「語り言

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恋することは、友愛のある種の超過。

恋することは、友愛のある種の超過。

文化の読書会ノート。

アリストテレス『ニコマコス倫理学』第9巻 友愛(続き)

納富信留『ソフィストとは誰か』と交互に読んでいる。

(第8巻の感想でも書いたが、友愛の巻は、時間を越えて説得性の高い部分だ。この9巻のまとめでは、いくつかのポイントに絞ってとりあげる)

一つ目が好意と友情関係だ。

両者は似ているようで違う。好意は一方的で、友情は相互作用だ。そして、好意は「愛すること」でもない。

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人は友になる気のない者を友にしてはならない。

人は友になる気のない者を友にしてはならない。

文化の読書会ノート。

アリストテレス『ニコマコス倫理学』第8巻 友愛

納富信留『ソフィストとは誰か』と交互に読んでいる。

友愛は人が生きるにあたって必要であり、かつ美しいものだ。ここでは、友愛のうち、人間のさまざまな性格や情念にかかわる問題を考察する。

友愛はすべての人が対象なのか?友愛には複数あるのか?

それには「愛されるもの」を知ることが前提になる。1)善きもの 2)快いもの 3)有

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快楽と苦痛について研究することは政治哲学者の仕事になる。

快楽と苦痛について研究することは政治哲学者の仕事になる。

文化の読書会ノート。

アリストテレス『ニコマコス倫理学』第7巻 抑制のなさと快楽の本性

納富信留『ソフィストとは誰か』と交互に読んでいる。

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人の「抑制のなさ」とは何を指すのか?

「意思の弱さ」「脆弱」「忍耐のなさ」といったことと同じなのか?違うのか?

ソクラテスは行為者の無知によって「抑制のなさ」が表出するというが、それならば、無知のありかそのものが問われ

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私たちの本当の敵は、自らの内にある「哲学者」ぶる態度だ。

私たちの本当の敵は、自らの内にある「哲学者」ぶる態度だ。

文化の読書会ノート

納富信留『ソフィストとは誰か』第2部第6章 弁論の技法ーゴルギアス『パラメデスの弁明』 第7章 哲学のパロディーゴルギアス『ないについて』

(アリストテレス『ニコマコス倫理学』と本書を交互に読んでいる)

基本的に『パラメデスの弁明』はゴルギアスの弁論術の宣伝と書かれたと思われるが、弁論術の教科書としてみると見誤る。

論理的な完全性は「装っている」に過ぎないと思われる。ま

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古代ギリシャの人たちにとっての鳥肉をアリストテレスは語る。

古代ギリシャの人たちにとっての鳥肉をアリストテレスは語る。

文化の読書会ノート。

アリストテレス『ニコマコス倫理学』第6巻 思考の徳と正しい道理

納富信留『ソフィストとは誰か』と交互に読んでいる。

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今回は特に第9章の「すぐれた熟慮」に焦点をあてる。

熟慮のよさとは、「思慮」が真なる仕方で把握している目的、こうした目的を実現をするのに役立つような事柄に即した正しさ、である。「思慮」のベストな状態を指している。それでは、アリス

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哲学が基盤とする「真理/虚偽」の区別を妖しくなし崩すところに、ゴルギアスの「言論」の秘密がある。

哲学が基盤とする「真理/虚偽」の区別を妖しくなし崩すところに、ゴルギアスの「言論」の秘密がある。

文化の読書会ノート

納富信留『ソフィストとは誰か』第2部第4章 ソフィスト術の父 ゴルギアス 5章 力としての言論

(アリストテレス『ニコマコス倫理学』と本書を交互に読んでいる)

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ソフィスト自身の視点から、ソフィストの活動を明らかにするため、当事者の著作が残るゴルギアスとアルキダマスの作品を分析する。ここではゴルギアスの『ヘレネ頌(しょう)』を取り上げる。

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アリストテレスは、本当に痛いところをついてくる。

アリストテレスは、本当に痛いところをついてくる。

文化の読書会ノート。

アリストテレス『ニコマコス倫理学』第5巻 正義と不正

納富信留『ソフィストとは誰か』と交互に読んでいる。

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(正義と不正を論じているが、不正に焦点をあてたまとめをしたい)

正しいことには、名誉や財貨、その他の国制を共有する人々に分け与えられる「配分」、つまり「等しい」「等しくない」との種類の他に、「是正的なもの」に分かれる。

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「哲学者」という職業や社会的身分は(大学においてすら)存在しない。

「哲学者」という職業や社会的身分は(大学においてすら)存在しない。

文化の読書会ノート

納富信留『ソフィストとは誰か』第一部第三章 ソフィストと哲学者

(アリストテレス『ニコマコス倫理学』と本書を交互に読んでいる)

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(現代に生きる)私たちも、自身がソフィストである可能性に直面しながら、それを批判し、自らが哲学者となることによってしか、両者の対は明らかにならない。

ソフィストとは誰か? それは、私たち自身

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「確信らしき誤解」に振り回されないためにー「ここにいる」大切さ。

「確信らしき誤解」に振り回されないためにー「ここにいる」大切さ。

人工知能が人を衰退させるか?という議論が盛り上がっています。

一方、先週末、民間軍事会社ワグネルによるロシア国内での反乱にメディアが注目しました。よく分からない情報や憶測がさまざまに飛び交い、「現場で知ること」の重要さを改めて認識させられます。

上記はまったく異なる種類の記事ですが、ぼくは一つのことを想起しました。日本語版を準備しているソーシャルイノベーションの第一人者、エツィオ・マンズィーニ

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エツィオ・マンズィーニの著書の「日本語版読書へのメッセージ」下訳を公開。

エツィオ・マンズィーニの著書の「日本語版読書へのメッセージ」下訳を公開。

エツィオ・マンズィーニの『Livable proximity ; ideas for the city that cares』(Egea 2022) の日本語版を準備しているため、「はじめに」の下訳を以下に公開しました。

今回は2弾目として、特別に日本語版読者に向けてマンズィーニに書いてもらったメッセージの下訳をここに公開します(写真はnoteのためだけです)。因みに、本書の構想は2020年10

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中間のものには名前がないため、両極端が互いに対立しているように見えてしまう。

中間のものには名前がないため、両極端が互いに対立しているように見えてしまう。

文化の読書会ノート。

アリストテレス『ニコマコス倫理学』第4巻 その他の<性格の徳>および悪徳

納富信留『ソフィストとは誰か』と交互に読んでいる。

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「気前のよさ」は財貨(価値が貨幣によって計られる限りのすべてのもの)における中庸である。財貨の所有が取得と保管、使用が消費と贈与に関連する。

気前のよい人がなすべきこととは、財貨を与える

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国際文化交流を考えるー『国境を越えるためのブックガイド50』を読む。

国際文化交流を考えるー『国境を越えるためのブックガイド50』を読む。

「あれだけ文化交流を深めたのに、衝突は避けられなかった」、「あれだけ文化交流を深めていたために、衝突があっても、心もとないながらも絆は保てた」。

世界では、この2つの表現が闊歩している。これらをどう解釈すると良いのか?という問いが常にある。

ぼくが様々な経験を積んだうえで国際文化交流の必要性を痛感し、異文化理解の仕方についての本『ヨーロッパの目 日本の目』を上梓したのは2008年だった。

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