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春の雨【ショートショート ファンタジー】
春の雨はさらさらと降る。小雨だから20分傘を差さずにいても、そんなに濡れない。それでも、仕事帰りに濡れながらみみを探すのはまいる。
最近私は目が見えづらく、動くものくらいしか見えなかった。帰宅するともうすでに暗かった。しかし玄関のドアをするっとみみが通り抜けるのは、うっすらと見えた。あれは本気で外へ出たかったのだ。おむかえなんかの時は、玄関でちょこんと待っている。
「みみちゃん、ぬれるから帰ってお
逃避行【ショートショート】
来ないで。
そう思いながら駅のベンチで待っていた。
春は来た。けれど風は冷たい。マフラーをきゅっと巻き直す。
今夜十時に、とあなたは言った。
二人で遠い街へ行こうと。
私は静かに頷き、互いに少しだけの荷物を取りに家に戻った。
もうすぐ十時。
来ないで、と祈るような気持ちで時計を見る。
「ごめん遅くなって」
息を弾ませて、いつもの笑顔で来たあなた。
二人の未来を疑わぬあなた。
私も笑顔で応じる
悔いて【ショートショート】
高校生の頃、仲の良かった友達と口を聞かなくなった。
私は幼稚園に通う頃から「お心が強い」と言われており、自分で言うのもなんだが、我慢強いほうだった。
その子が何をしたのか、何がきっかけで口を聞かなくなったのかは、思い出せない。
そんな些細なことだったが、多分積み重なって嫌になってしまったのだ。
その子はそれからも何度も私に話しかけてきた。
けれど私がそれに応じることはなく、そのまま卒業して、それか
小牧幸助文学賞 応募作品
①funeral
母の遺体を生前好きだった鉢植えで囲んだ。
②題名:burial
母を炭焼きし、庭の桜の樹のもとに埋めた。
本当はもう少し連作で書くつもりでしたが、仕事が決まったため応募期間に間に合わなくなる可能性を考え、応募させていただきました。
たそがれのお菓子やさん【ファンタジー ショートショート】
そのお菓子屋さんは、ときどきやってくる。
ふかふかした三毛猫さんが、お菓子のワゴンを押してくる。三毛猫さんは手足がちっちゃくかわいらしくて、てちてちと歩いてくる。
ワゴンは薄いピンク色で、前面にはステンシルで白い文字がtwilightと書いてある。白いスカラップのお屋根が付いていて、パンチングされてレースみたいになっている。夕日を浴びながら三毛猫さんはてちてちと歩く。
公園に着くと三毛猫さんは
眠れぬ夜のための【ファンタジー ショートショート】
今年の梅雨開け宣言はなかった。
どうせそんなことだろうと思っていた。
ここのところ有耶無耶に終わることが多かったし、ゲリラ豪雨なんかも増えてきたからだ。
仕方の無いことだとは思う。だけど、梅雨入り宣言はしているのに、しれっとフェイドアウトして終わっていくなんて、なんかズルすぎはしないか?僕はスルーされた梅雨明け宣言に対して、いつもそんなふうに思い、明ける頃になると毎日天気予報に目を光らせていた。
草海原❴ショートショート❵
夏空、草いきれ。
暑いさなかの草原に体を横たえる。
長毛種の犬の背のような草原を風が撫で、その草原が僕を撫でる。
緑色の長毛種に安心して身を横たえる。
汗がダラダラと流れて行くのが気持ちいい。
帰ったらきっと、日焼けしてるだろうな。鼻の頭どころか顔全体に腕にハーフパンツから出た足まで。
それでも気持ちよくて僕はここに横たわり続ける。
暑い風がざあっと通り過ぎ、ふと眠気が襲ってくると、僕は
僕の夏の始まり【ショートショート】
ハイシーズンとは、ずっと、夏場のことだと思っていた。
なぜだろう。気温が上がり、気持ちも上がってくるからだろうか。
暑くなると叫び出したいような喜びに体が満ち溢れる。
僕はずっと、夏がくる度、ハイシーズンがきた!と喜んでいた。
しかしハイシーズンとは、観光客が集い宿などが忙しくなる時期のことだと知った。サマータイムとでも間違えていたのだろうか。
けれど日本ではサマータイムの導入はされていない。
ラブストーリー【ショートショート】
彼とは付き合い始めて2年。
だけど少し離れたところに住んでいるし、ふたりとも仕事が忙しいので、2週間に一回しか会えない。
2週間に一回、土曜の夕方頃私が彼の家の最寄り駅まで行き、彼が車で迎えに来てくれる。それから近くのスーパーで買い出しをしてその日は彼の家に泊まる。
外食がちな彼の心配もあって、土曜の夕食、日曜の朝食、昼食は私が作る。
夕食をとりながら一週間の出来事を話し、片付け終わったら一緒