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ラブ・ストーリーが書けません


 夜の終わりを告げるような星と、眠れぬ誰某が綴った言葉のグリッターチュールに見惚れる。
 四月の初めに嘘を吐かない、「対面よりかネットでの交流の方がずうっと難しい」あなたの口癖は「好き」であり、ぼくとしては数の一つになりたくなかったが、何故だか言われず。

 傾くベッドサイド、仄かなミュゲ、オーロラフィルム、タブレット端末の検索履歴は『不安と恐怖の違い』、トランプゲームのルールはおろか、テレビで定期的に放送されるアニメーション映画のあらすじさえもあの人はよく知らなくって、ただ、こちらが幼い頃に渡したテーマパークのお土産を
「ストラップの紐が切れてしまったのなら今度はぬいぐるみにしよう」
と、部屋に飾ってくれた。
 社交辞令の「大事にするね」ではなく(どれだけ嬉しかったでしょう、心なしかキャラクターのキリンも誇らしげで)。

 けれど、幾つもの顔を持っており、電車に乗って、花見客と思しき団体に出会せば、憂いを帯びた表情で艶やかなフルーツ盛り沢山のタルトをゆっくりと切り分けながら「自分は一生ひとりかも知れない」だとか。「そういうところだよ」の甘酸っぱさを飲み込んで、残りは冷蔵庫に入れた。
 
 確かにちっぽけなパーティの名残、温もりは午前の孤独感を加速させる。
「毎日毎日、決して楽じゃあ、ないのに。生きるって楽しい」
「また。藪から棒に」
「やっと言えた。分かり合えなくていい」
 マロウブルーの色が変わり、伏せた睫毛、掠れていく声、あなたの呟きが引っ掛かって、スプリングコートのボタンが取れた。

 時に、通り道の土手でタンポポを見つける。
 すっかりこの町に馴染み、賑わう桜並木や川の流れに気を取られ、眩しいまでのイエローは春景の一部と化す。
 しかし、やがて倒れても立ち上がって、綿毛となり風で飛び散る様はどこか、似ていた。

 【ここには居ない】あなたに。

 もうそろそろ、種を明かしても良かろう。
 想像以上恋人未満、即ち、元から架空の人物についての話だった。




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