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ポチポチ物語

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物語ってなに? 都合の良い正当化? なんでそんなものを書くの? 今時、物語に価値なんかあるの?
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誰かの傘

誰かの傘

 コンビニで買い物をして、帰ろうと思ったら、雨が降ってる。
 あー、傘忘れた。
 このままぬれて帰るのは嫌だなあ。
 そう思ってたら、傘立てに、いくつものビニール傘が立ててあるのを見つけた。
 やった。
 おれは適当なビニール傘をとって、それをさして家に帰る。
 
 盗んだことの罪悪感はなかった。
 だって、ビニール傘なんて、どれも同じようなもんだし、どうせ安いし、盗られた人も、また買えばいいでし

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浦島老太郎

浦島老太郎

 おれが箱を持った老人を見つけたのは、早朝の散歩道だった。
 薄暗く、人気のない散歩道で、ふと、海辺に目をやると、そこに人影があり、普段は誰もいない時間帯だったから、不思議に思い、近づいてみると、その人影は老人で、手には箱を持っていて、なんだかぼんやりとした表情だった。
 おれが近づいても、おれが見えてるのか、見えてないのか、わからなかった。
 白髪で、古びた着物みたいなのを着ていて、なんとなく男

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普通の雨模様。

普通の雨模様。

 学校が終わり、さあ下校だ、という時に、雨が降っていて、私は傘を忘れていることに気づき、下駄箱の前で立ち止まってしまう。
 他の子たちは、なんか普通に傘を持ってきてるみたいで、または、忘れても、友達同士で相合い傘したり、男子なんかは、濡れてもいいやって感じで雨の中を突っ走ってて、それがうらやましいけど、私にはそうできない、特別な理由があった。
 特別な理由とは、スマホだった。
 誕生日プレゼントで

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猫の道なんて

猫の道なんて

 学校からの帰り道、涼しく暗い秋の夜道を歩いてたら、足元に気配を感じて、見ると、一匹の猫が僕の先を歩いていた。
 へえ。
 僕は、歩くペースを落として、猫を後ろから着いていってみる。
 薄茶色の猫で、丸々としてて、首輪がないので野良猫かも、と思うけど、野良猫でも太れるのは、近所の誰かがエサをあげたりしているからなのか。
 こんな夜道をどこへ行くのかな。
 そう思いながら、ボンヤリ歩いてたら、前の猫

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ポチポチカラオケ

ポチポチカラオケ

 私はカラオケが嫌いだ。
 演奏が流れて、歌詞が表示されて、それが発音されるタイミングで、歌詞の文字が色で染まっていく、で、それを歌うのは私で、なんか心細いというか、違和感があるなあと、昔から思ってた。
 歌は、唄うものではなく、聴くものだ。
 例えば、歌がうまいとか、カッコいいとか、可愛いとか、そういう人が歌を唄う。私たちは、それを聴く立場だろう。
 だからこそ、高い金を払って、コンサートとかに

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背中に恐怖感。

背中に恐怖感。

 私の知人に、齋藤彰という人がいる。
 声が高くて背が低い、元ヤン土方系男子。  
 彼には奥さんがいる。
 彼の一重まぶたがそっくりな女性。
 彼女がされたことで、齋藤彰は怒っていた。
 彼は私に詳細を語るが、私は既にその事を知っていたので、正直彼の熱っぽい話には、上の空だった。
 齋藤彰の奥さん、仲井倫子→齋藤倫子は、齋藤彰と結婚式を挙げた初日に、彼の精子を注ぎ込まれて、妊娠していて、丸いお腹

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推しのオシッコ。

推しのオシッコ。

 「ねえ」
 「うん?」
 「オシッコのアイドルって知ってる?」
 「え?」
 「だから、オシッコ」
 「え、推しの子?」
 「違う。オシッコ」
 「オシッコ?」
 「オシッコのアイドルがいるんだって」
 「なにそれ」
 「ね」
 「ねって、あんたが言ったんでしょ」
 「うん」
 「いや、うんじゃなくて……」
 「あ、説明?」
 「説明っていうか、あんたが急にオシッコのアイドルとか言ったんでしょ、

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ポチポチ能力者!

ポチポチ能力者!

 麻薬で捕まった漫画家のことで、友達と軽く口論になる。
 軽くね。
 そんなに激しくないやつ。
 私はその漫画家の作品を読んでて、どうやったらこんな話が書けるのか、こんな奇抜な絵が描けるのか、いつも不思議で、それが面白くて、ファンだったのだけど、実は麻薬なんかをやってたことがわかって、私は心底、ガッカリだったのだ。
 だって、麻薬って、ズルじゃんね。
 麻薬なんかの力を借りて、面白い漫画を描くなん

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邪魔系女子の憂鬱。

邪魔系女子の憂鬱。

 「小澤ってさ、女子のグラビアとか見るの?」
 と、女子に変な質問をされる。
 その女子とは、関谷松子。
 同じクラスの女子。
 大してかわいいって程でもないけど、それがどうでも良くなるくらい、性格キモくて、なんか、本人としては、中学生男子のことをわかってるつもりであるらしく、よく男子に変な質問をして、それにのってきた男子と、バカな話をして盛り上がっている。
 そんな感じの子。
 僕は距離を置きた

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永遠にコミュ障。

永遠にコミュ障。

 死後の世界ってあるのだろうか?
 つまり、死んだ後の世界。
 例えば、病気で死ぬ、事故で死ぬ、ジサツやらタサツやら、いろいろあるけど、そうして死んだ人たちって、みんな、どこかの世界に追いやられてるんだろうか?
 死んだ人はこちらでーす、みたいな。
 なにか、そういう案内みたいなのがあって、それに従って、死んだ人たちは選別されているのか?
 ぜんぶ私の妄想だけど。
 でも、そうやって、なにかしらの

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嫌いなお湯加減。

嫌いなお湯加減。

 僕は温泉が嫌いだ。
 風呂を他人と一緒に入ることの、なにが良いのかさっぱりわからない。
 気持ち悪いだけだと思う。
 男が裸でその辺をウロウロしてるなんて。
 男同士なんだから、隠さなくてもいいやろ、オープンにしようや、みたいな、あの空気感。
 女の子だったら卒倒ものだろう。
 風呂なんて、一人で入ったらいいのに。
 温泉宿とか銭湯とか、バカみたい。
 なんで他人と風呂に入りたがるのか?
 理解

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ああああ

ああああ

 会社の仕事で、夏なのにスーツを着て、外を歩いてて、目的地を目指してるんだけど、さすがに疲れて、近くに公園があったので、そこで休むことにする。
 公園に目がとまったのは、ベンチがあると思ったからで、奥に目をやると、やはりあった。
 古びたベンチが、ちょうど日かげにある。
 やった。
 僕はそこまで歩いていく。
 ふらふらになりながら。
 空から太陽の光が容赦なく照りつけている。
 僕はやっとの思い

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退屈を燃やす。

退屈を燃やす。

 おじいちゃんが死んで、葬式に呼ばれる。
 僕は孫なので、親と行くことになる。
 死んだのは僕のおじいちゃんだけど、葬式は、まあ普通の葬式だ。別にうちだけ特別ってわけじゃない。親戚たちで金を出しあって、仏教スタイルの、普通の葬式。
 僕は、おじいちゃんが死んで、まあ悲しいといえば、そうなのだけど、でも、もう中学生で、さすがに泣くってほどでもない。
 ていうか、そうした分かりやすい感情表現に、むしろ

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ポチポチ物語4

ポチポチ物語4

 僕が小学校に通う通学路に、必ずつまずくと言われているくぼみがある。
 それは、コンクリートの道にある足の裏サイズのくぼみで、なんでそんなのができたのか、誰にもわからないのだけど、なぜか、この道を通ろうとする人は、みんなこのくぼみにつまずくのだ。
 なぜだろう?
 だって、くぼみがあるのはみんな知ってるし、今度こそは避けて通ろうと思うのに、つまずいたらコケそうになるし、実際コケる人もいるし、それが

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