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破片が刺さればもうそれ以上はない
爪と髪の触れたものがいつも一歩で帰ってくる
一枚だった顔をして私の背中に噛みついている
だだっ広い駐車場で短く鳴らされるクラクションから金属の骨を抜き取ろうとしてできない
残響は塀のすみで庇うように丸まって染みになっていく
月夜の猫が屋根で日に当てられている
十字路の真ん中には子どもの泣き声がある
空も肌も血も肺も同じにあたためられて踏み出した足が薄い雪を踏む
私を燃やした裏庭で今捨ててきたばかり
しかしそれは今日ではない
私の列車は遠くを走っている
停車するたび窓から手を伸ばして
降り続ける雨を私は瓶に受ける
もうほとんど透明に薄まって
瓶の底へ
既視感のように光っては
沈んでいくものをすぐ見失ってしまう
しかしそれは今日ではない
手のひらに瓶はひんやりしている
車内アナウンスが
到着時刻をまた訂正する
まどろんで聞く私から
不完全な気配が次々抜き取られる
表面を削られて並べられ
さらに遠く引き直されるレールの下
雨は雪雪は花花は雹雹は礫礫は日の光
文字盤を遮る甲虫の影に
規則的な瞬きが映っている
ノックノック、
電話線が一枚の曇り空の
身じろぎを数えて正しく改行する
金星が差し込む毎朝同じ時間に
私の筆跡を
逆さまに転写したビニールに包まれて届く
最終稿の断面の
脈絡を繋ぎ合わせても
夜になると
きらきらこぼれる隙間があいている
ノックノック、
丸い窓はどれも
溶け出した砂糖が表面にひび割れていて
耳を澄ますと
私の名前の一層が
ノイズのあ