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食事と精神医学(6): ジャンクフードはメンタルに悪い?〜人工甘味料と鬱・不安の関係

皆様、こんにちは!鹿冶梟介(かやほうすけ)です。

皆様ジャンクフードはお好きでしょうか?

ハンバーガー、ピザ、チキン、ポテト、カップラーメン、ドーナツ、コーラ、アイスクリーム…、小生どれも大好物です😋

普段我々が楽しんでいるこれらジャンクフードですが、その定義をご存じでしょうか?

ジャンクフードの定義は各国・各機関で異なるようですが、ざっくり言うと"栄養価のバランスが崩れた食べる価値のない食品"です。

“食べる価値がない”…、なんだか散々な言い方ですね…。

しかしこの批判にはそれなりの理由があります。

皆様もご存知かと思いますが、ジャンクフードは心臓疾患、糖尿病、高脂血症など様々な生活習慣病のリスクを高め、健康には決して良いものではありません。

そして、実はジャンクフードはメンタルヘルスにも悪影響を及ぼすことが知られております…😱

ジャンクフード大好きな小生にとっても耳の痛い話ではありますが、今回はジャンクフードとメンタルヘルスに関する大変興味深い研究をご紹介いたします。

皆様もピザを片手に…、ではなく青汁を飲みながら記事を読んでいただければ幸いです。

尚、今回は論文の結果の一部のみをご紹介いたします(データが多すぎなので)。


【研究紹介】

Consumption of Ultraprocessed Food and Risk of Depression. Samuthpongtorn C et al, JAMA Newt Open,2023

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37728928/

<目的>

UPF(超加工食品*)およびその成分とうつ病の発症との関連を検討する。

*高カロリーで嗜好性が高くすぐに食べられるもの(要するにジャンクフードや菓子類を含む)

<方法>

2003年から2017年にかけて、ベースライン時にうつ病を発症していない中年女性を対象に前向き研究を実施した。

食事は食品摂取頻度調査票(FFQ)を用いて4年ごとに評価した。

年齢、総カロリー摂取量、BMI、身体活動、喫煙の有無、更年期ホルモン療法、総エネルギー摂取量、アルコール、併存疾患(糖尿病、高血圧、脂質異常症など)、世帯収入の中央値、社会的ネットワークのレベル、配偶者の有無、睡眠時間、痛みなど考えうる鬱病危険因子を調整した上で、Cox比例ハザードモデルを用いてUPF摂取量の五分位群に応じた鬱病のハザード比(HR)と95%CIを推定した。

探索的分析では、4年ごとに更新されるUPF消費量の変化とうつ病発症との関連を検討した。

すべての分析は、SAS(バージョン9.4)の両側検定を用いて行った。

なおデータは2022年9月から2023年1月まで分析した。

<結果>

UPF消費量が最も多い群に属する者は最も消費量が少ない群に比してうつ病のリスクが有意に増大した(HR=1.49;95%CI、1.26-1.76;P<0.001)。

人工甘味料入り飲料(HR=1.37;95%CI、1.19-1.57;P<0.001)および人工甘味料(HR=1.26;95%CI、1.10-1.43;P<0.001)のみが、多変量回帰の結果、より高いうつ病リスクと関連していた(図1)。

図1:UPFの成分と鬱病のリスク

<結論>

PUF摂取量が多いとうつ病のリスクが高まる可能性が示唆された。特に人工甘味料の入った食品・飲料は鬱病のリスクを上げる可能性が高い。


↓貴族令嬢がジャンクフード!?未読ですが、興味がありますね🤔


【鹿冶の考察】

おそらく皆様も予想していた通り、ジャンクフード(UPF)はメンタルに悪い…、ということが明らかになりましたね。

実は「ジャンクフードがメンタルヘルスに悪いのでは…?」という指摘は10数年以上も前からありそこまで新しい話ではありません。

しかし、この研究ですごいのはメンタルに悪い成分までチェックした点です。

そしてその結果、人工甘味料の摂取量がうつ病の有病率というところまで突き止めております。

人工甘味料が体に悪いという話は、医療や食育など複数の分野から警告が出ておりますが、まさかメンタルにもよくないとは驚きを禁じ得ないですね。

<もう一つ論文を紹介!マウスを使った実験>

しかし、今回ご紹介した研究は疫学調査による結果なので、ジャンクフード(UPF)を摂取するとうつ病になるのか、うつ病だからUPFを摂取するのか因果関係は不明です。

これは疫学研究における”limitation of study(研究の限界)"なのですが、人工甘味料のくだりのところはかなり小生の食指を動かしました。

UPFはその定義からも分かるようにカロリーが高いため、このカロリーを制限する目的で人工甘味料が使用されることがあります。

またカロリーたっぷりの食べ物として合わせて頂く飲み物も、「せめて飲みものはローカロリーなものを...」という心理が働き、人工甘味料入りのシュガーレス飲料を選択することもあるでしょう。

従ってUPFと人工甘味料の関係は密接に関連すると小生は感じます。

そこで、「人工甘味料とメンタルヘルスに関するより科学的な文献は…?」とさらに深堀してみたところ...、ありましたよっ!

人工甘味料アスパルテームとメンタルヘルスに関する論文がっ!!

… ということで、もう一つ海外文献をご紹介します。

【研究紹介2】

Transgenerational transmission of aspartame-induced anxiety and changes in glutamate-GABA signaling and gene expression in the amygdala. Jones SK et al., PNAS, 2022

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36459641/

<目的>

人工甘味料アスパルテームマウスに与え不安行動の変化を調べる。またアスパルテームを飲んで育ったマウスの子マウスに行動異常が生じるかを検討する。

<方法>

実験1: アスパルテーム(0.03%、0.015%: いずれもFDAが許容する量)または通常水を18週間、マウス(C57BL/6)に投与する。投与4週目から2週間ごとにオープンフィールドテスト(OFT)、高架式十字迷路(EPM)を行いアスパルテーム投与群と対照群でOFTの結果を比較する(OFTとEPMはマウスの不安行動を評価する行動テスト)。

実験2: アスパルテーム(0.03%)を飲み続けた12週齢の雄マウス(F1世代)とアスパルテーム未摂取のメスマウスを交配させF2世代マウスを作成した。同様に普通水をを飲み続けた12週齢の雄マウス(F1世代)とアスパルテーム未摂取のメスマウスを交配させF2世代マウスを作成した。この両群について、OTFおよびEPMを実施して不安行動を評価した。

<結果>

結果1:アスパルテームを摂取したマウスは通常水を摂取していたマウスに比べて顕著な不安行動を示した(図2)。

図2: オープンフィールドテストの結果
不安の強いマウスはフィールド(四角)の縁に沿って行動しやすい。
一方、フィールドの中央部を横切るマウスは不安が少ない。

結果2:この不安行動様式はアスパルテームを摂取したマウスの子孫マウスにも伝達された(図3)。

図3: アスパルテームを摂取したマウスの子供も、対照と比してオープンフィールドの中央部で過ごす時間は短い。すなわちアスパルテームを常用した親から生まれた子供は不安傾向を示す。

<結論>

アスパルテームはFDAが許容した濃度であっても精神的健康へのリスクとなり、さらにその影響は子孫にも残る可能性が示唆された。


↓「子孫」で調べたら、こんな漫画が…。アスパルテームを摂取したら逆に子孫から恨まれるかも?


【鹿冶の考察2】

...なんだか軽い気持ちでジャンクフード(UPF)とメンタルについて調べてみましたが、人工甘味料の問題はちょっと空恐ろしくなってきましたね…😱

人工甘味料アスパルテームが不安症状を惹起し、しかもその不安症状が子供にも遺伝するなんて…。

この文献のディスカッションでは、「アスパルテームの暴露によるエピジェネティックな変化がF0世代マウス精子に生じ、その変化が次世代(F1)に遺伝した」と解釈しております。

ここでエピジェネティクス(epigenetics)について説明します。

エピジェネティクスとは遺伝子すなわちDNAの”配列”を変えず、遺伝子の働き(転写)をオン/オフにする仕組みです。

DNAそのものではなく、このような遺伝子機能の制御に関わるエピジェネティクスは、ホルモン剤や殺虫剤によって”遺伝”することが知られており、筆者らも人工甘味料は同様の影響をもつ物質ではないか…、と危惧しております

しかし、アスパルテームが人体においてエピジェネティックな変化を世代間で起こすか否かについては、この論文では全く証明されておりませんので直ちに「アスパルテーム = 遺伝毒性」と結論を出すのは早急に見えます。

とは言え、「子々孫々」にまで影響するかもしれないこの問題…、食品業界だけでなく様々な分野のエキスパートがこの問題を検証してほしいと小生は強く願います(というか最優先課題では…?)。


【まとめ】

・ジャンクフード(UPF)とメンタルヘルスに関する論文を紹介しました。
・UPFを多量に摂取している人々はそうでない人々に比べてうつ症状を持つ割合が有意に高いことがわかりました(約1.5倍)。
・さらにUPFの中でも人工甘味料を使った食品・飲料はうつ病のリスクを上げることがわかりました。
・人工甘味料アスパルテームをマウスに投与すると不安症状が惹起されるという論文も紹介しました。
・アスパルテームによる不安は、不安状態になったマウスの子マウスにも遺伝することがわかりました。
・しかし、アスパルテームをはじめとする人工甘味料の人間に対しての遺伝毒性は未だ証明されておりません。
・人工甘味料の人体への影響に関する科学的検証を早急に行うべきと小生は考えます!


【参考文献など】

1.Consumption of Ultraprocessed Food and Risk of Depression. Samuthpongtorn C et al, JAMA Newt Open,2023

2.Transgenerational transmission of aspartame-induced anxiety and changes in glutamate-GABA signaling and gene expression in the amygdala. Jones SK et al., PNAS, 2022

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