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「光と闇と、魔法使い。」第35話
ワタライは失敗しない
体が揺れている。奇流が目を覚ますと、そこには自身の体を揺らすキリハラの姿があった。慌てて飛び起きる。窓に目を向ければ、眩しい太陽の光が部屋を包んだ。持参した朝食もそこそこに、奇流達は宿屋を出る。まずどこから捜せばいいのか決めあぐねていると、ここでもキリハラが的確に導いてくれた。
「まず全体を見てごらん」
キリハラの言葉に奇流は村の全体を捉えた。宿屋が村の南西に位置してお
「光と闇と、魔法使い。」第33話
猛獣
ご自由にお通り下さい。まるでそう言っているかのように、マリベル村へ続く町の出口は奇流の目の前にある。奇流は思わずその場に立ち止まった。そして約束の時間に現れた女性に手を振る。
「おはようございます、キリハラさん」
キリハラは「おはよう」と返すと、奇流の隣にいるスイに目を奪われる。
「君は」
足元が地面に接していない。そして目をスイの顔に向けると、それに気が付いた奇流が慌てて説明に入る
「光と闇と、魔法使い。」第32話
母親
それからの授業。奇流は全く集中せず、ドクターの事を考えていた。風丸は至って冷静にペンをすらすら走らせる。全ての授業が終わった時、時刻は午後五時に差し迫っていた。
「城内案内は今回は中止します」
予定より遥かに時間を押したのだろう。キリハラは自身の腕にはめられた時計を一瞥し、一同に伝える。そして各々会議室を後にすると、俊成もまたそれにならい続く。奇流と風丸が小声で話をしていた時、声をかけ
「光と闇と、魔法使い。」第31話
一筋の光
奇流は息が詰まりそうだった。朝からぶっ続けでヘブンズヒルの歴史学、魔法学、経済、地理……ありとあらゆる物が自身の脳内にぶつかってくる。しかし他の者は聞き逃すまい、書き漏らすまいと必死の動きを見せていた。隣にいる風丸は、所々笑みを浮かべて何度も頷きながらノートを全面埋めていく。
「俊成様……。さすがにそろそろ昼食にしましょう」とキリハラの助け船が出たのは、午後一時を回っていた。ほっとし
「光と闇と、魔法使い。」第30話
特別授業開始
成績優秀者十名とその保護者。その中で奇流は圧倒的に浮いていた。ひそひそと話す者さえいないが、その視線は好奇心を物語る。どうして風丸君と一緒なんだろう。奇流の耳にはそう聞こえた。しかし奇流はなれっこなのだ。自分を取り巻く様々な感情を目の当たりにしてきたからだ。
「君は」
奇流を見て、対応にあたる城の男が声を出す。すぐに風丸が割って入った。
「母が今回不参加なんです。でも僕一人では
「光と闇と、魔法使い。」第29話
提案
するとノック音が響く。風丸だ。
「どう? いい作戦思いついた?」
風丸はリュックを下ろし、いそいそと奇流の傍に座る。空乃が差し出したお茶を礼を言ってからすすり、「ああ幸せー」と笑みを見せた。
「それがなかなかね。俊成が怪しいんじゃないかって話になったけど、肝心の俊成に話を聞くのが難しくて」
空乃は先程のいきさつを説明した。すると風丸は湯呑を持って笑う。奇流はバツが悪そうに口を尖らせる
「光と闇と、魔法使い。」第27話
柚の願い
「王牙は容赦ない。簡単に人を殺せる。俺はそれを目の当たりにした。柚が言ってたサイガも、そんな男だった」
奇流はあの時の血の臭いを忘れていない。今まで嗅いだ事がない、おぞましい程の人間臭さ。目がくらむ程の衝撃だった。
「だから柚には待っていて欲しい。必ず無事に戻るから」
奇流ははっきりと告げた。風丸は柚を気遣うように、顔を覗き込む。
「……奇流の役にたたないかもしれないけど、黙って待
「光と闇と、魔法使い。」第26話
命
家に帰る気がなかった奇流は、空乃の家に寝泊まりさせてもらった。家族は心配するだろうか。しかし合わす顔がない。一方空乃は一人暮らしだった。詳しい話は奇流にもわからないが、家族はいないと以前聞いた事がある。
「ねえ、奇流ちゃん」
柚の家への訪問の翌日、朝食の準備を終わらせた空乃は、ご飯に卵を落として切り出した。
「柚ちゃんの事なんだけど」
奇流は箸を口元に近づけて止まる。
「いいの?」
「光と闇と、魔法使い。」第24話
狂歌
「号外ー、号外だよおー」
細い声が辺りに響いた。空乃は「号外だって!」と外に飛び出す。すぐに一枚の紙を持って戻ると、奇流とスイにも見えるようにちゃぶ台に広げた。
『国王即位式まさかの中止!』
「何だ、そんなのとっくにわかって――」そこまで言って奇流の口は止まった。空乃も驚愕の声を上げる。
『俊成氏、国王即位を表明! 国王選挙開催決定!』
空乃はそこに写る青年を指差し「まじ?」と漏らす。
「光と闇と、魔法使い。」第23話
契約
「我が名はスイ。ワタライ奇流を主として主従の契約を、今結ばん――」
神々しい眩さが辺りを包んだ。奇流とスイは両手を取り、光がおさまるまでそのままの姿勢でいた。やがていつもと同じ景色になった時、スイが口を開いた。
「これで契約は終了です」
空乃は目を丸くして言った。
「何だかあっけない。もっとずかーんとばこーんとしたのを想像してたわ」
奇流が苦笑いをすると、スイは眉根を寄せて空乃に目を
「光と闇と、魔法使い。」第22話
和代の記憶
「お母さん?」
柚は即座に理解ができず、和代の顔を覗き込み無言で説明を求めた。
「傭兵はね、商人が雇うとは言っても、申し込みをしたら城が管理する傭兵ギルドからランダムに派遣されるのさ。商人は傭兵と共に村に一泊してから町に帰る。例え荷物に紛れて村へ入れたとしても、奇流達が怪しい動きをしたらすぐに感づいちゃうだろう? かと言って今回は傭兵を雇いませんなんて言ってみな? 奇流と仲がいいう