見出し画像

【介護優先?障害優先?】被保険者でなくとも介護保険が使える「みなし2号」とは

この記事は3,646文字あります。
お金が無くても、要介護または要支援の状態にあれば、必要なサービスを受けられる仕組みになっているのは、あまり知られていないので記事にしてみました。

介護保険制度

公的保険制度である介護保険制度は、高齢化や核家族化の進行、介護離職問題などを背景に、介護を社会全体で支えることを目的として 2000年に創設されました。
40歳からの加入が義務付けられており、サラリーマンなどの被用者保険加入者は、40歳から64歳のあいだ、健康保険料とあわせて毎月の給料から介護保険料が天引きされます。65歳以上になると健康保険料と切り離され、介護保険料として生涯納付が続きます。

加入が40歳からになっているのは、自身も老化に起因する疾病により介護が必要となる可能性が高くなることに加えて、自身の親が高齢となり介護が必要となる状態になる可能性が高まる時期であり、また老後の不安の原因である介護を社会全体で支えるためというのがその理由です。


第1号被保険者と第2号被保険者

介護保険の被保険者は、第1号被保険者(65歳以上の方)と、第2号被保険者(40歳から64歳までの医療保険加入者)に分けられます。
第1号被保険者は、原因を問わずに要介護認定または要支援認定を受けたときに介護サービスを受けることができます。
要介護区分(要支援または要介護)の認定を受けるには申請が必要ですが、第1号被保険者の対象年齢になると介護保険証は申請しなくても自動的に交付されます。
また、第2号被保険者は、特定疾病が原因で要介護(要支援)認定を受けたときに介護サービスを受けることができます。

・がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る※いわゆる末期がん)
・関節リウマチ
・筋萎縮性側索硬化症(ALS)
・後縦靱帯骨化症(OPLL)
・骨折を伴う骨粗鬆症
・初老期における認知症
・進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病【パーキンソン病関連疾患】
・脊髄小脳変性症(SCD)
・脊柱管狭窄症
・早老症
・多系統萎縮症(MSA)
・糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
・脳血管疾患(いわゆる「脳卒中」)
・閉塞性動脈硬化症(ASO)
・慢性閉塞性肺疾患(COPD)
・両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症

特定の16疾病の範囲

保険料と徴収

  • 第1号被保険者
    市町村と特別区が原則、年金からの天引きで65歳になった月から徴収を開始します。
    その介護保険料は、市区町村ごとに定める「基準額」をもとに、本人や世帯の所得に応じて複数の段階に分け、段階に応じた保険料率を基準額に掛けたものが、年間の介護保険料となります。
    基準額とは、「その市区町村で介護サービスにかかる費用」に「65歳以上の方の負担分」を掛け、「その市区町村の65歳以上の人数」で割った金額です。
    介護保険制度は地域保険であり、市区町村が主導となって制度を実施しているため、基準額も所得の段階分けも、市区町村によって異なります。

  • 第2号被保険者

    • 健康保険(社会保険)に加入している場合
      介護保険料は医療保険料と同様に、原則は労使折半(被保険者と事業主で1/2ずつ負担)で、健康保険の保険料と一体的に給料天引きで徴収されます。
      その保険料は、毎年4~6月の給与の平均額を標準報酬月額表の等級に当てはめた「標準報酬月額」によって決まります
      標準報酬月額表は都道府県によって異なるほか、自分の会社が加入している健康保険組合でも異なります。
      夫(妻)の扶養に入っている場合は、保険料を納める必要はありません。

    • 国民健康保険に加入している場合
      国民健康保険の保険料と一体的に徴収されます。
      被保険者の所得額や一世帯での被保険者の数、資産などに応じて、市区町村が介護保険料を決定し、世帯主が納付義務者となります。具体的には、以下の4つの方法が介護保険料の算出に用いられます。
      ただし、平等割や資産割を廃止する市区町村もあり、具体的な算出方法は、住んでいる市区町村によって異なります。

      • 所得割
        被保険者本人、あるいは世帯における前年度の所得をもとに決定

      • 均等割
        世帯の被保険者数によって決定

      • 平等割
        1世帯当たりの金額として算出

      • 資産割
        世帯の資産に応じて算出

「みなし2号」とは

生活保護を受給すると国民健康保険から脱退しなければなりません。
公的医療保険料を納付していない以上、上乗せされる介護保険料の納付もされず、介護保険も加入できないため、生活保護受給者は「第2号被険者」に該当しません。
つまり、公的医療保険に加入していない「無保険」の状態です。
しかし、40歳以上65歳未満の生活保護受給者が、介護保険法で規定している「特定疾病」により、要介護または要支援の状態になった場合、「第2号被保険者とみなして」生活保護制度による要介護認定の審査を行って要介護区分を有すると、介護保険の10桁の被保険者番号の代わりに、Hから始まる番号が付与されてみなし2号となります。
通常、みなし2号の人が65歳以上になると第1号被保険者になります。
ここで初めて、新たにH番号ではない被保険者番号とともに、介護保険証が発行されます。

かなりイレギュラーですが、戸籍が無いと65歳以上になっても第1号被保険者にはならず、みなし2号となります。
空襲で役所の戸籍が焼失して戦前の戸籍情報が辿れないなど、かなりレアなケースですが、戸籍がなくても生活保護を受給していれば住居も確保され、介護扶助・医療扶助を受けられるので生活には困りませんが、住民基本台帳に登録されてないため紙おむつの助成など市町村特別給付は受けられません。
また、身分証が無いため銀行口座を開設できず、生活保護費は役所に取りに行くか現金書留で送ってもらいます。

介護扶助

みなし2号には、生活保護制度によって介護扶助という「介護保険"風"の介護サービス」が現物給付されます。
同じように、病気やケガをした際の治療・手術・薬などの現物給付と、最小限の通院費がもらえる医療扶助(医療保険"風"のサービス)があります。

公的制度を利用する場合、同じようなサービスを利用するときに「優先順位」があり、介護保険はだいたいのサービスより優先して使うことになっています。
たとえば、障害サービスでヘルパーを利用していても65歳を過ぎたら、介護保険の申請をして訪問介護のヘルパーを使うことを優先したり、補装具(車いす等)の給付も、介護保険でのレンタルのほうを優先して使う事が決まっています。

生活保護における他法優先の原則

生活保護制度は足りない部分を補うという趣旨のもので制度設計されており、他にも活用できるものは全部活用する「他法優先の原則」があります。
みなし2号への介護扶助の費用の出処は生活保護のため、「みなし2号が障害者手帳を有する人なら他法を優先して障害サービスを使い、足りない部分を負担する」という形になります。
例えば、介護ヘルパーより障害のヘルパーが利用できるならそれを優先。補装具関係も車いすは介護レンタルより障害給付が受けられるなら優先。介護ベッドも身体障害の下肢か体幹の2級以上(自立での起居動作が困難)なら障害給付を優先。デイサービスも生活介護(障害のデイサービス)の利用を優先など、様々なパターンがあります。
しかし、障害サービスの給付決定が下りるまでに時間を要するため、必要あればそれまでの期間は臨時(特例)で介護扶助を使わせてもらえることもあります。
存命されている方も少なくなった被爆者健康手帳や、公害医療手帳なども生活保護の扶助より優先します。

みなし2号が65歳になるとH番号から新たな第1号被保険者番号が発行されるのは先に述べましたが、被保険者番号が違うと給付を管理する国保連合会的には「別人」扱いになります。
ケアプラン(障害は「サービス等利用計画」)も別々に作成する必要がありますが、様々な条件がうまくハマると、ケアマネジャー(介護は「介護支援専門員」・障害は「相談支援専門員」という)が同じ月で2人分の給付管理料を請求できるうまみがあったりします。

まとめ

対象年齢が異なる社会保障サービスの一覧と「みなし2号」について
©Minoru Matsuoka

介護保険サービスを利用するには、前提として40歳から義務付けられている介護保険料の支払い義務があります。
経済的事情によって生活保護を受給することになった場合は、介護保険を脱退しますが、特定疾病に罹患すると「みなし2号」被保険者として介護保険”風”のサービスとして介護扶助が利用できます。

また、65歳未満で身体障害者手帳の取得が出来ない場合、もしくは特定16疾病非該当で「みなし2号」が取得できない場合は、「障害者総合支援法」によるホームヘルパー等の介護給付が利用できます。
難病対象疾患(359 疾病)に該当し、その疾病により介護サービスが必要な場合も同様です。

投げ銭大歓迎です!