田中修子

ものをかくひと

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記事一覧

春提灯と咳緋鯉

 風のにおいがする、花の音がする。逃げてゆく春の背だ。  だれかをこころの底から愛したことがあったかどうか、ふと、八重桜のうすひとひらに触れそうにして胸苦しくな…

田中修子
3年前
36

蝋梅、もうすぐ春が来るよ

久しぶりにはしりがきの日常を。 ある詩人さんの美しい家に招かれ、「今住んでいる家を目の喜ぶもので満たしなさい」と助言いただいてすぐ、家具を変え始めた。テーブルを…

田中修子
3年前
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3.ジャンヌ・ダルクの築いたお城 雪の病室

 ※このエッセイは、まだ私が憎しみを手放せなかった2017年に、あるサイトの隅っこに書かれたものです。いま、私は自分の生まれについて、悲しい家族の成り立ちについて、…

田中修子
3年前
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2.ジャンヌ・ダルクの築いたお城 少女Aとテントウムシ

※このエッセイは、まだ私が憎しみを手放せなかった2017年に、あるサイトの隅っこに書かれたものです。いま、私は自分の生まれについて、悲しい家族の成り立ちについて、「…

田中修子
3年前
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1、ジャンヌ・ダルクの築いたお城 蛸

※このエッセイは、まだ私が憎しみを手放せなかった2017年に、あるサイトの隅っこに書かれたものです。いま、私は自分の生まれについて、悲しい家族の成り立ちについて、「…

田中修子
3年前
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あけなさい

この、うつくしいひとへ 「あけなさい」 古風で艶やかな、歪な箱のなかに、清純な羽が幽されていて。箱を震えながら耐え忍んでいるわたしは、ずうっと座らせられているの…

田中修子
3年前
24

収容所から出る

原家族や自分の過去、そして病との取っ組み合いを続けてきたのだけれど、それらがあっけなく去ってしまった。なんて長い日々だったろう。どれだけの時間を費やしたろう。ま…

田中修子
3年前
30

月に歩きだす

イシムラさんに純文学誌に投稿してみるようにおススメされてもう一か月か二か月、いろんなことにジタバタしながら、少しずつ原稿を書いていたのだけれど何かが足りない。溝…

田中修子
3年前
9

「かぎ編針で刺す」と日記

薄ピンク色 愛を乞ういろを なでる ひたすらに ああ、知っているよ まっすぐに 舌から垂れていく粘膜は都市を浸食していきますね。崩落していく花の詰められた箱から…

田中修子
4年前
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照らしあう

田中修子
4年前
6

【後半クローズ中】紫陽花の浜の絵

--- サバイバー仲間の散鞠ざくろさん @c_m_zkr / 企画用アカウント 甘く仄暗い泡沫さん@sweetdarkfrothが企画されている同人誌に寄稿いたします。東京文学フリマ販売予定…

田中修子
4年前
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せい/し

田中修子
4年前
6

詩集「うみのほね」発売中 エロ詩人ってなんなんだ

漢詩の合同誌に、確認できる限り百年ぶりに乗り入れた自称現代詩人、田中修子です。で、詩人って何だ? さて、とってもとりとめもない日記を書き始めようと思う。詩集「う…

田中修子
4年前
12
春提灯と咳緋鯉

春提灯と咳緋鯉

 風のにおいがする、花の音がする。逃げてゆく春の背だ。
 だれかをこころの底から愛したことがあったかどうか、ふと、八重桜のうすひとひらに触れそうにして胸苦しくなるんです。あなたもです、私もです、お互いを鏡にし杖にし、道具にしてきたからこげなことになったんじゃなかろうかねェ。体に走る無数の春の夕闇の切り裂きから滲み出る。いつもなにかのせいにして、至らなさに目を伏せて、口元だけは笑わせてサ。いくつもい

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蝋梅、もうすぐ春が来るよ

蝋梅、もうすぐ春が来るよ

久しぶりにはしりがきの日常を。

ある詩人さんの美しい家に招かれ、「今住んでいる家を目の喜ぶもので満たしなさい」と助言いただいてすぐ、家具を変え始めた。テーブルを骨董屋で買ったイタリア製の猫足のものにしたり、味気なかった台所の照明の傘を赤色に塗ったりして、そのうちに詩人さんをお招きして朗読会をひらける部屋にしようとしているうちに、わが子の愛らしい狼藉がはじまって部屋にキャラクター・グッズがあふれて

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3.ジャンヌ・ダルクの築いたお城 雪の病室

3.ジャンヌ・ダルクの築いたお城 雪の病室

 ※このエッセイは、まだ私が憎しみを手放せなかった2017年に、あるサイトの隅っこに書かれたものです。いま、私は自分の生まれについて、悲しい家族の成り立ちについて、「受容とゆるし」の期間に入っています。だからこそ、きちんと公開できる時期がきたように感じます。2020/12/19 作者※

 あのひとは損な人だった。

 15歳くらいまでにやられたこと言われたことがえげつなすぎて、本当にいい思い出が

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2.ジャンヌ・ダルクの築いたお城 少女Aとテントウムシ

2.ジャンヌ・ダルクの築いたお城 少女Aとテントウムシ

※このエッセイは、まだ私が憎しみを手放せなかった2017年に、あるサイトの隅っこに書かれたものです。いま、私は自分の生まれについて、悲しい家族の成り立ちについて、「受容とゆるし」の期間に入っています。だからこそ、きちんと公開できる時期がきたように感じます。2020/12/19 作者※

 私は1997年に起きた神戸連続児童殺傷事件の犯人、酒鬼薔薇聖斗こと少年Aが好きだった。少年Aは当時14才で中学

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1、ジャンヌ・ダルクの築いたお城 蛸

1、ジャンヌ・ダルクの築いたお城 蛸

※このエッセイは、まだ私が憎しみを手放せなかった2017年に、あるサイトの隅っこに書かれたものです。いま、私は自分の生まれについて、悲しい家族の成り立ちについて、「受容とゆるし」の期間に入っています。だからこそ、きちんと公開できる時期がきたように感じます。2020/12/19 作者※

おととい、あるいてほどなくある実家の父に
「婚姻届けのサインをもらいにいっていい?」
と電話をした。
「いま、選

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あけなさい

あけなさい

この、うつくしいひとへ

「あけなさい」

古風で艶やかな、歪な箱のなかに、清純な羽が幽されていて。箱を震えながら耐え忍んでいるわたしは、ずうっと座らせられているの、小ぶりなかわいい椅子に。そうして、立つ力を失くしていた。

あけたい。
あけたくない。

「あけなさい」

あたしもあけたのよって、だからあなたには、初めて会ったとき右首に深々とした切り傷がついていて、黒い糸で縫われていたじゃない。左

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収容所から出る

原家族や自分の過去、そして病との取っ組み合いを続けてきたのだけれど、それらがあっけなく去ってしまった。なんて長い日々だったろう。どれだけの時間を費やしたろう。まだ複雑性PTSDという病はうずくけれど、格段に良くなった。

ものを書けなくなって約、十年。詩を再開し、それらの詩と書けなくなる前の掌編を力づくでまとめた詩集「うみのほね」によって、憑き物が落ちた。相当数、まるで血で書いたような詩も入れて、

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月に歩きだす

イシムラさんに純文学誌に投稿してみるようにおススメされてもう一か月か二か月、いろんなことにジタバタしながら、少しずつ原稿を書いていたのだけれど何かが足りない。溝の口のデニーズでパフェとドリンクバーをごちそうになった。艶々したキミドリのシャインマスカットの小さなパフェ。秋の初めだったっけ。白島さんが上京されてきたときもあのデニーズだったし、今度あかりちゃんと筆写会をするときもあの場所がいいかもしれな

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「かぎ編針で刺す」と日記

薄ピンク色 愛を乞ういろを なでる ひたすらに

ああ、知っているよ まっすぐに

舌から垂れていく粘膜は都市を浸食していきますね。崩落していく花の詰められた箱から解放されて飛び立つ夜の白鳥の夢ですね

しっぽふりふり、動物のふり、四つん這いをして舌をペロリする
ウフッ
獣姦は禁じられています。それはなぜだったろ

孕め。孕め。孕みなさい

つかむ爪の輝き、なにを乱反射しているのかしら、そう薔薇の

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【後半クローズ中】紫陽花の浜の絵

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サバイバー仲間の散鞠ざくろさん @c_m_zkr / 企画用アカウント 甘く仄暗い泡沫さん@sweetdarkfrothが企画されている同人誌に寄稿いたします。東京文学フリマ販売予定のようです。私を含め、ネット連載小説に投稿されている約20名の方が参加される同人です。

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 紫陽花がいちばん青く染まった、そのときを切って花束にしよう。ピンクのやみどりの混じったのは選ばずに、目を打

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詩集「うみのほね」発売中 エロ詩人ってなんなんだ

漢詩の合同誌に、確認できる限り百年ぶりに乗り入れた自称現代詩人、田中修子です。で、詩人って何だ?

さて、とってもとりとめもない日記を書き始めようと思う。詩集「うみのほね」の販売をしなきゃいけないし。

www.amazon.co.jp/dp/4879443689(Amazon販売ページ)

拙詩集「うみのほね」ご購入は上記リンクからどうぞ。

言葉に酔いしれる人たちの世界へ帰って、きたよ。

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