しゃぶや

大学生。関心のある分野は政治学を中心とした社会科学の領域です。論文やレポートとまではい…

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大学生。関心のある分野は政治学を中心とした社会科学の領域です。論文やレポートとまではいかなくとも、そこそこちゃんとした文章を書くことを心がけています。読書感想など、普段自分が思ったことを記録することを目的に書きますが、見ていただけると嬉しいです!

最近の記事

何をどう報道するべき?【『戦後日本のメディアと市民意識』を読んで】

はじめに 政治コミュニケーション論が専門の大石裕氏が編集した『戦後日本のメディアと市民意識―「大きな物語」の変容』(ミネルヴァ書房、2012年)の感想を述べる。本書は、市民の政治に関する意識の変化に、新聞をはじめとするマスメディアがどのように関わってきたかを論じている。  第1章から第6章からなり、それぞれを異なる者が執筆している。1,2,3章が包括的な総論で、4,5,6章が具体的な政治問題に沿った各論、といった構成になっている。 「大きな物語」が崩壊していく様相 宇野常

    • 自民党vs.マスコミで見る戦後史!【『日本政治とメディア』を読んで】

      はじめに 広告企画会社に勤務した後に東京大学法学部と大学院を卒業したという異色の経歴を持つ逢坂巌氏の『日本政治とメディア テレビの登場からネット時代まで』(2014年、中央公論新社)の感想を述べる。  本書は、日本の「独立」から現代までの、内閣総理大臣でいうと吉田茂から安倍晋三までの国家をめぐる政治の歴史を、メディアとの関係から記述したものである。冒頭に「主要政党と首相の変遷」、巻末に「関係略年表」がある。 国民の政治的関心に驚く 本書を読んでいてまず初めに特筆すべきイン

      • 民主主義か?ポピュリズムか?【『名古屋発 どえりゃあ革命!』を読んで】

        はじめに 名古屋市長(2021年現在)である河村たかし氏の『名古屋発どえりゃあ革命!』(KKベストセラーズ、2011年)の感想を述べる。  本書は著者である河村氏が、2010年に行った名古屋市議会の解散を請求するリコール運動についての実体験を中心に、自身の民主主義や地方自治に関する考えを綴ったものである。加えて、ジャーナリストの関口威人氏のコラム、愛知県知事の大村秀章氏や大阪府知事(当時)の橋下徹氏との対談も収録されている。 ポピュリズムとは何か 本書を読んで最も考えるべ

        • ネット上の島宇宙の解消を目指す【『#リパブリック』を読んで】

          はじめに アメリカの憲法学者キャス・サンスティーンの『#リパブリック インターネットは民主主義になにをもたらすのか』(伊達尚美訳、勁草書房、2018年)の感想を述べる。  本書は、ソーシャルメディアを中心とする近年のインターネットの状況を分析したうえで、民主主義にどのような影響をもたらすかを考え、それに対する処方箋を提案する、といった内容になっている。 エコーチェンバーとサイバーカスケード 本書では、「エコーチェンバー」という概念が登場する。エコーチェンバーとは残響室のこ

        何をどう報道するべき?【『戦後日本のメディアと市民意識』を読んで】

        • 自民党vs.マスコミで見る戦後史!【『日本政治とメディア』を読んで】

        • 民主主義か?ポピュリズムか?【『名古屋発 どえりゃあ革命!』を読んで】

        • ネット上の島宇宙の解消を目指す【『#リパブリック』を読んで】

          現実に作られ、現実を作る【『メディアリテラシーとジェンダー』を読んで】

          はじめに マスコミュニケーションを研究する社会学者である諸橋泰樹氏の『メディアリテラシーとジェンダー 構成された情報とつくられる性のイメージ』(現代書館、2009年)の感想を述べる。(マス)メディアのジェンダー規範に関わる言説を、メディアリテラシーの視点から分析するという議論が載っている。  本書は、メディアをジェンダーの視点で読み解いたことに関するいくつかの論文を集めたものである。たとえば、女性雑誌、テレビゲーム、バラエティ番組、新聞記事、報道番組である。 メディアリテ

          現実に作られ、現実を作る【『メディアリテラシーとジェンダー』を読んで】

          何が怒りを買う?【『炎上CMでよみとくジェンダー論』を読んで】

          はじめに  東京大学大学院総合文化研究科教授である瀬地山角氏の『炎上CMでよみとくジェンダー論』(光文社、2020年)を読んだ感想を述べる。本書は、CMが「炎上」した例を見ながら、ジェンダー論の基本的な考え方が学べるものである。巻末に付録として「広告の”炎上”史」がある。  著者は大学でジェンダー論に関する講義を行っており、そこでの様子も本書のなかで語られる。講義は爆笑で包まれるそうであるが、その雰囲気がなんとなく本書からも伝わってくる。 男女の「平等」と「自由」は同時に

          何が怒りを買う?【『炎上CMでよみとくジェンダー論』を読んで】

          「無意識」で政治をアップデート?【『一般意志2.0』を読んで】

          はじめに 株式会社ゲンロンの創業者で、哲学者、作家の東浩紀氏の『一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル』(講談社、2015年)の感想を述べる。本書は、著者が一年半にわたって連載した論考を一冊にまとめたものである。  巻末には、著者と、本書にも引用されている『〈私〉時代のデモクラシー』(岩波書店、2010年)[過去の感想ブログはこちら]の著者である政治学者の宇野重規氏との対談が掲載されている。 ルソーを現代的に捉える 本書のタイトルにもある「一般意志」は、フランスの哲学

          「無意識」で政治をアップデート?【『一般意志2.0』を読んで】

          「リベラル」といっても色々ある【『アフター・リベラル』を読んで】

          はじめに 政治学が専門である北海道大学教授吉田徹氏の『アフター・リベラル 怒りと憎悪の政治』(講談社、2021年)の感想を述べる。ポピュリズムの台頭やテロリズムの頻発など、激変する現代政治を「リベラル」に注目して分析した書籍である。  内容に全く関係ないが、私がAmazonで買った本書には、青色の縦にも長い帯がついている。そこを持っているとその色が薄くなり、指やそれが触れた紙のページが青くなってしまった。紙の本で本書を読もうと思っている方は、注意されたい。 後ろから読みた

          「リベラル」といっても色々ある【『アフター・リベラル』を読んで】

          本当に護りたいものは何?【『リベラルの敵はリベラルにあり』を読んで】

          はじめに 国会議員の政策顧問を務めた経験もある弁護士、倉持麟太郎氏の『リベラルの敵はリベラルにあり』(筑摩書房、2020年)の感想を述べる。  内容は、現在のリベラリズムの様相を記述したうえで、民主主義を再生させる手立てを考える、というものである。「リベラル」と呼称される政治的思想・立場がどのように変遷しているかを、「アイデンティティ」というキーワードやインターネット社会という視点から描写し、そこから浮き上がる民主主義における問題点を「法の支配」や「カウンター・デモクラシー

          本当に護りたいものは何?【『リベラルの敵はリベラルにあり』を読んで】

          コロナ禍は世界をどう変えた?【『新しい世界』を読んで】

          はじめに 世界中のメディアの記事を日本語に翻訳して配信する月額会員制のウェブメディアクーリエジャポンが編集した『新しい世界 世界の賢人16人が語る未来』(講談社、2021年)の感想を述べる。  本書は、世界で有名な政治学者、経済学者、哲学者、生理学者、ジャーナリストなど、16名のインタビューによって構成されている。それぞれの分野から考える、新型コロナウイルスが蔓延した後の世界について語っている。 メリトクラシーに警鐘を鳴らすサンデル 私が最も関心を持ったのは、政治哲学が専

          コロナ禍は世界をどう変えた?【『新しい世界』を読んで】

          何者でも共感できる小説【『何者』を読んで】

          はじめに 朝井リョウ氏の小説『何者』(新潮文庫、2015年)の感想を述べる。著者は本書(厳密には私が手に取ったのは文庫版であるが)で第148回直木賞(2012年下半期)を受賞した。  本作は映画化され、2016年に公開された。私は当時その映画を観たが、映画の内容が、特にラストの「どんでん返し」が強く印象に残っていた。大学生になった現在、再び映画を観てみようと思い観たら、さらに引き込まれ、原作を読んでみることにした。私は、普段小説はほとんど読まず、ブログに読書感想文を書くとし

          何者でも共感できる小説【『何者』を読んで】

          不可能な対話を超えて【『ネトウヨとパヨク』を読んで】

          はじめに 松下政経塾の卒業生で、自ら塾を経営しながら執筆活動を行う物江潤氏の『ネトウヨとパヨク』(新潮社、2019年)の感想を述べる。ネット上で極度に右翼的あるいは左翼的な発言を繰り返す「ネトウヨ」「パヨク」の生態について、自らの取材も含めて論じている。  私はインターネットの政治的議論について関心があるが、「ネトウヨ」や「パヨク」に限らず「過激な」発言をするアカウントは、相手と会話が成立していないことが多いと感じる。そのようなことがなぜ生じて、どのように対処するのがよいか

          不可能な対話を超えて【『ネトウヨとパヨク』を読んで】

          「国民の目線」をどう実現?【『政治家の覚悟』を読んで】

          はじめに 昨年内閣総理大臣に就任した菅義偉氏が、2012年に出版したものを文庫化した『政治家の覚悟』(文藝春秋、2020年)の感想を述べる。  本書は、はじめに出版された書籍に加え、『文藝春秋』のインタビューを載せたものである。本書の大半は総務大臣時代を中心とした著者の具体的な業務内容や実績で構成されている。その中に、彼が政治家として志している理念を感じ取ることができる。 リアルな政官関係 著者は、政治家のなすべきことは、政策の方向性を示し、官僚をうまく「使う」ことである

          「国民の目線」をどう実現?【『政治家の覚悟』を読んで】

          不確実な世界から出たあと【『アイドル、やめました。』を読んで】

          はじめに SDN48のメンバーとしての活動経験をもつ大木亜希子氏による『アイドル、やめました。AKB48のセカンドキャリア』(宝島社、2019年)の感想を述べる。本書は、AKB48をはじめとするアイドルグループに在籍していた女性が卒業後どのような人生を送っているかを取材してまとめたものである。8人の女性の「リアル」が描かれている。  私は普段、社会問題に関する文章を読むことが多く、本書のような個人的な人生を追う書籍はあまり読まない。また、AKBなどのアイドルにもそこまで関心

          不確実な世界から出たあと【『アイドル、やめました。』を読んで】

          社会階層はどう維持される?【『教育格差』を読んで】

          はじめに 早稲田大学准教授の松岡亮二氏の著書『教育格差—階層・地域・学歴』(筑摩書房、2019年)の感想を述べる。教育の機会格差や最終学歴の差がどのように生じるかについてデータをもとに論じた書籍である。  本書は、大きく分けて4つのブロックに分かれている。まず、「生まれ」(親の学歴と出身地域など)によって学歴が異なることを示す第1章がある。次に、その差異を生む機会の格差が、未就学段階、小学校、中学校、高校のそれぞれの時期に存在するということが第2章から第5章までで記述される

          社会階層はどう維持される?【『教育格差』を読んで】

          みんなでガードレールを築こう【『民主主義の死に方』を読んで】

          はじめに アメリカ、ハーバード大学の教授である、スティーブン・レビツキー、ダニエル・ジブラット両氏の『民主主義の死に方』(濱野大道訳、新潮社、2018年)の感想を述べる。  2016年にドナルド・トランプがアメリカ大統領に当選したことを踏まえて、民主主義が崩壊する過程について論じている。本書は、まずアメリカを中心に、今までどのように民主主義が護られてきたかを歴史的に分析する。次に、それが崩れるときはどのようなことが起きるかを明らかにする。そしてそれが現実のものとなりつつある

          みんなでガードレールを築こう【『民主主義の死に方』を読んで】