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イノベーションのための現代アート鑑賞

このコラムでは、イノベーションを創造する「アート思考」を磨くための現代アート鑑賞について書いています。また、日本国内で、現代アートを鑑賞できる美術館の一覧も作成しましたので、併せて掲載します。

MBAでの「アート思考」講座


9月から、青山学院大学大学院国際マネジメント研究科(MBA)で「アントレプレナーシップ」の講義を行っています。講義の中心は、イノベーションを創出する「アート思考」を身につけるというものです。ここでいう「アート思考」とは、「自らの関心・興味に基づき、革新的なコンセプトを創出する思考」のことをいいます。

アーティストのマルセル・デュシャン(1887〜1968)が、1917年に《泉》という作品を、ニューヨーク独立美術協会による第一回展覧会に出品しようとしたことから登場した現代アートは、美しいということよりも、コンセプトが尊重されるアートです。すなわち、現代アートのアーティストたちは、自分の関心・興味に基づき、革新的なコンセプトを創出しているのです。

したがって、現代アートの作品を鑑賞することは、コンセプトを考える「アート思考」を磨くワークとして非常に有効だと思います。

具体的には、現代アートの作品(MBAでは作品の画像)を観て、その作品がどのようなコンセプトを表現しているかを考えるというものです。

名和晃平《PixCell》の鑑賞


講義では、名和晃平さんの代表作、PixCellを鑑賞しました。この作品は、シカの剥製をインターネットで購入し、様々な大きさのクリスタルビーズを、剥製の表皮に隙間なく埋めていくものです。大きなビーズはレンズとなり、毛並みが拡大されて見えたり、光が屈折して虹色に見えたりします。

名和晃平 PixCell-Reedbuck (Aurora)


名和晃平 PixCell-Reedbuck (Aurora)

皆さんも画像を観て、どのようなコンセプトを表現しているか考えてみてください。

学生さん(といってもMBAなので多くは社会人です)たちにはグループディスカッションで意見を出してもらいました。このワークを行うと、一つのアート作品でも、多様な意見が出てきます。いくつか挙げてみると、「シカは日本的で神を感じる。」、「ビーズが盛り上がっている様子から、新しい生命、動きが生まれる。」、「環境問題の悪化で、森の動物たちが減っている。」といった感じです。

名和さんが、このPixCellシリーズを制作し始めたのは2000年ごろ、ヒトゲノム計画が進み、生命を情報として捉える時代になっていました。
シカの剥製は、本来、製作者や来歴が異なりそれぞれ個性をもっているはずなのに、ネットの画面でみると個性が失われているように感じました

購入した剥製に、クリスタルビーズを敷き詰めることで、剥製の本来の構成要素である毛皮や角などを直接観られないようにする。再び個性を消し、均質化させているのです。

また、作品に近づくとクリスタル越しに表皮を観ることができ、光を感じる、映像を観ているような感覚になることから、以下のように語っています。

表面のテクスチャーや色は、無数のセルのなかに取り込まれて解体され、イメージの要素の集まり、つまり『映像の細胞(PixCell)』となる。

KOHEI NAWA SYNTHESIS


作品を鑑賞して、まずは自分でコンセプトを考え、次にアーティストのコンセプトを知ることで、アーティストとの視点や思考の違いに気づくことができます。

現代アート作品を鑑賞するには


『アートによるイノベーション創出』の本の執筆も順調に進んでいて、ここでも鑑賞について言及しています。そうしたら、編集者さんから、読者はどこで作品を観ればいいのか?と聞かれました。

そこで、現代アートの作品を観ることのできる美術館のリストを作ってみました。必ずしも現代アートに特化した美術館だけではありませんが、2019年以降の企画展を調べ、現代アートの展覧会が毎年行われているところをピックアップしました。かなりの数の美術館がリストアップされました。

現代アートの鑑賞ができる美術館

美術館だけでなく、各地で芸術祭が開催されており、現代アートに触れる機会は増えています。多くの現代アートから、革新的なコンセプトが創出されていることに気づいてほしいと思います。

他にもリストに加えたらいいという美術館がありましたら、お知らせください。


2019年度第2回MBAフォーラムで、名和晃平さんと講演を行いました。


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