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パパラッチの夢 (1分小説)

『俳優の江藤達也(27)と、アイドルのRIE(19)に不倫疑惑 』

職場のPCに寄せられた、匿名のメールを見て、私は、仕事の準備にとりかかった。

本音を言うと、20も30も年下の有名人の恋愛なんて、ぜんぜん興味はない。

だけど、この手の話題はカネにはなる。

今回は、人気俳優と清純派のアイドル。スクープになるに違いない。


黒の皮バッグに、小型カメラをしのばせると、2人が密会に使うという、ショットバーへバイクを走らせた。

途中、大通りの脇に飾られた街路樹を見て思う。

美しい木々や草花、動物。

私の夢は、自然を撮り、個展を開くようなカメラマンになることだった。

だが、夢だけでメシを食えるヤツなんて、この世には数えるほどしかいない。

私も、自分の生活だけでなく、別れた女房と別れた後に生まれたという子供を、支えていかなければならない身。

離婚してから、何年間も連絡もしていないが、親の責務だと思い、生活費と養育費だけは振り込んできた。

今回は、まとまった金を送れそうだ。



ショットバーは、大通りの裏手の狭い路地にあった。

うす暗い店内に入ると、奥のほうに、カップルがいた。

美しい横顔の女、RIE。彼女に手を回す江藤。

私は、3メートルほど離れた席へ座り、一般客を装う。

2人がイチャつき始めたのを、横目で確認。皮バッグに開けられた、小さな穴を向ける。

カシャ、カシャカシャ。作業は、5分足らずで終了。

私は、こうして毎回、カメラマンの魂を売っている。



【一週間後】

職場用のPCを立ち上げ、エンタメ速報欄を確認。

「激写!江藤達也と、アイドルのRIEが不倫!」

妻帯者の江藤もだが、清純派で売っていたRIEも、かなりの痛手になるという。

不倫の上に、未成年でカクテルを飲んでいるところまで、撮られてしまったのだから。

謹慎処分、いや、解雇。自分がしたこととはいえ、私は少し胸が痛んだ。



いつものように、メールボックスを開くと、一通のメールが入っていた。

「この間のスクープ情報は、私からのプレゼントです」

添付されていた写真を、確認する。

「お父さんも私も、自力では抜け出せないところまできてたんだよね。でも、もう、これでお互い懲りたよね。

これからは、私とお母さんのためではなく、自分の夢のために生きてください。

私も、次は、いい恋愛と自分に合った仕事をします。
  

                  RIE」




それは、テレビや雑誌で見てきた笑顔より、ずっと自然に見えた。

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