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【三年前まで本屋大賞の存在を知らなかった俺が、宮島未奈先生とツーショットを撮るなんて!?】 ~書店員のエッセイ&本紹介~ 花田菜々子 『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』

ぶっちゃけてしまうと、三年前の四月まで本屋大賞という存在を知らなかった。
本に関する話題にものすごく疎い人間だったのである。

芥川賞や直木賞くらいは聞いたことがあったけれど、又吉直樹さんの『火花』しか読んだことはなく。それも地元である吉祥寺の居酒屋・美舟が登場していたからで、「行きつけのお店だしな」とかいうちょっとした義理的読書であった。
本は好きだけど、待ち合わせの時間つぶしで本屋に寄ってテキトーな文庫本を買う程度のライト層。
そんな私が本屋大賞の壇上で写真を撮られていることなど、一体誰が予想できただろう。

そもそも私が書店員になったのはブックオフで見つけた一冊の本がきっかけだった。

『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』

 

黄色い装丁が目に留まり思わず手に取る。
著者名、花田菜々子。
もちろん誰かは知らない。
内容はタイトル通りで、家を飛び出した既婚女性が出会い系サイトに登録し、出会った人間たちに本をすすめまくる物語とのこと。
ぶっ飛んだ設定にふふっと笑みがこぼれる。

元々はツイッターで気になっていた原田ひ香なる作家の本を探しに来ていたのだが、その妙に心惹かれるタイトルは私の心をぐっとつかんで離さなかった。本に目なんてあるはずないのに、なぜかじっとこちらを見ているような気がしてならない。
お次の方どうぞー!という声を背中に受けて自動ドアを抜けた私は、そっと本を鞄にしまった。370円だった。最近は浅田次郎ばかり読んでいたけれど、たまには冒険してみるのも悪くない。原田ひ香はまた今度買いにくればいいだろう。
家に帰って冷蔵庫から金麦を取り出す。自室の床に座って缶を開け、私はのんびりと本を開いた。

・・・やばい。
なにこれ、めっちゃ面白い。

酒を飲むのも忘れ、夢中になってページをめくっていった。個性豊かな登場人物との出会いを経て、徐々に自身の輪郭を掴み始める主人公・菜々子。彼女の圧倒的な知識や好奇心に刺激を受けた我が脳細胞は、ぼこぼこと熱を発していく。

こんな体験をしている人がいるなんて!
すげえ・・・すげえよ!本ってすげえよ!

ユーチューバーの夢は薄らぎ、緊急事態宣言時に始めたライブ配信活動も翳りをみせ、コロナ禍で飲食店をクビになって始めた塾講師のバイトもいつまで続けるかわからない。
そんな目的も夢もあやふやになりかけていた身体が、もうどうにもならないくらいにうずうずしている。

一瞬にして本の魅力に憑りつかれた私の頭には、すでに新たなる世界が広がっていた。
そのきらめきは、これまで経験してきた山も谷も沼も地獄も、そして天国でさえも、何もかもフラットにして飲み込んでゆく。
居ても立っても居られなくなった私は、花田さんが店長を務めているHMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEへと足を運んだのだった。

詳しい流れは割愛するが、それから一年経った二〇二二年三月。この世に新しい書店員が誕生した。
真剣な眼差しで本を触るエプロン姿の自分は、今までの人生で一番輝いていると言っても過言ではない。

『成瀬は天下を取りにいく』の受賞が発表された数分後、ジャケットのポケットでスマホが震えた。

「おめでとー!無事に会場行けたかな?」
「行けました!さっき宮島先生とツーショット撮って頂きました!」
控え室に潜り込んでこっそり撮ってもらった一枚を送ると、クラッカーを鳴らしているドラえもんのスタンプが返ってきた。

本屋大賞授賞式の参加方法が分からないんです!と相談した昨年末が、まるで遠い昔のことのように感じる。
ここで働きたいんです!と直談判した二年前が、はるか太古のことのように思える。
おめでとー!と連絡を頂いたこの現場の景色が来年どのように映るのかは、まだわからない。

書店員という肩書きを得た私は今、あれやこれやと様々なことに奔走している。
慌ただしく生きているのは楽しい。新しい夢や目標がぼんぼん生まれ、やりたいことや会いたい人がますます増えていく。

本の帯を書きたい!
連載を持ちたい!
本を出したい!
ラジオ番組をやりたい!
森見登美彦さんとお酒が飲みたい!
橋本環奈ちゃんと仕事がしたい!
いつか酒場と本屋を合体させたお店を持ちたい!

さぁ、もっとハードコアにもっとドラスティックに!成生も天下を取りにいっちゃうくらい、この世界を謳歌しなきゃもったいないですよね、花田さん。
信じた道をいけばきっと
望みは全て叶うはず。

本屋大賞受賞式はとんでもなく華やかで幸せな時間だった。
仲良くしてくださっている出版社のみなさま、素晴らしい作品を生み出してくださる作家のみなさま、共にわいわい盛り上がってくださる書店員仲間のみなさま、そして花田菜々子さん。
あの時間を体験することができたことに感謝しかありません。ありがとうございました。
そして来年の壇上ではもっと良い撮影位置を確保するつもりである。成生ファンのみなさん、ぜひぜひ楽しみにしててくれ。

追記:原田ひ香先生が、私の書いた記事【三千円の浪費のしかた】を褒めてくれた!うわーい!

〜本紹介〜

【あなたも本が好きになる、そんな一冊だと確信しています】

花田菜々子 著『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』

あらすじ:夫と住む家を飛び出し宿無し生活を送ることになった書店員の花田氏。新しい世界を知りたいと登録した出会い系サイトX。
「今のあなたにぴったりな本を一冊選んでおすすめさせていただきます」という文句を引っさげ男女様々な人と出会っていく、本好きの本好きによる本好きのためのエッセイ本!

目的も夢もあやふやになっていたあの時代。
仕事して酔っ払って本読んで映画見ての暮らしは、いつしか物足りなくなっていた。
私にとってこの本は、ベスト・オブ・ベストの自己啓発本。
道を悩んでいる人はぜひ読んでほしい。



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